担任 加藤
僕と和哉は妖魔に備えて身構える。教室の中にいる生徒たちはみんなスーパースローの状態になっていて普通に動いている生徒はいない。僕の目の前にいる楓も殆ど動きが無い。
そんな中、悠然と教室に入って来る人物がいた。
「何を騒いでいるんだ? 朝礼を始める。さっさと席に着きなさい」
加藤先生が侮蔑した笑みを浮かべ僕たちを見ている。
「この状況下で朝礼を始めようだなんてどうかしてるな」
和哉が教室の入り口にいる加藤先生を半身で見据え鋭く睨んだ。
「おかしな事を言うな。この状況下だからこそだよ、御代志君。君たちに対する朝礼が行えるんだよ!」
そう言って右手を開く、そこには真っ赤な鮮血のような肉芽が生えていた。その肉芽は真っ赤な根を伸ばし始め、やがて根は加藤先生の頭部を残し体全体を覆い尽くす。
まるで生き物で出来た鎧のように体を埋め尽くした根は最後に加藤先生の首元からもう一つの顔を発芽させた。
その顔は蛇のように口が大きく前に突き出し二本の曲線を描いた牙を持ち、鱗で覆われ赤みを帯びた黒色と鮮やかな黄色のまだら模様をしている。
「その心……喰いたい……」
その蛇のような顔はそう言うや否や、その顔を首から伸ばして僕に襲いかかった!
「やらせるかよ!」
和哉は側にあった椅子を手に僕の方に向かって来ていた蛇の妖魔を横殴りに払った。
「未來!」
「うん!」
和哉の声に合わせて僕たちは精霊を呼び出す。
「浅葱、出番だ」
「紅緋! お願い!」
現われた二人の精霊は直ぐさま戦闘態勢をとった。
「これで全員揃ったな。朝礼の開始だ」
双頭の加藤先生の方がいやらしく笑いながらもう一つの頭の方に命令する。
「しかし、朝礼には少々人数が足りないな。スネーク、数を増やしなさい!」
蛇の妖は加藤先生の命令に甲高い鳴き声で答える。その途端辺りの空間が紙袋のように破れて次から次へと蜘蛛の妖魔と蜂の妖魔が出てきた。
「未來! これって!」
僕を守るように前に立っている紅緋が振り返った。
「うん。どうやらこの間から起きていた妖魔の事件の黒幕は加藤先生だったみたいだね」
黒幕が分かったのはいいけど、この妖魔の数は……全部で50体は居そうだ。
「和哉さま! どうしましょう?」
さすがの浅葱も妖魔の数の多さに困惑している。そんな中、和哉は悠然と通学鞄に手を入れ何かを探っていた。
「浅葱、心配するな。未來、雑魚は俺たちに任せろ! お前はその蛇野郎だけを相手しろ!」
「えっ、でも……」
「俺たちは大丈夫だ! これがあるから」
そう言って鞄から銀色に輝く銃を取り出した。銃のフレームには義玄の文字が彫り込まれている。
「銃って……」
いくら何でも高校生の域を超えているだろう。呆れている僕を見て和哉は笑いながら答えた。
「大丈夫、対妖魔用銃だから」
「そう……なの?」
「そういうこと!」
そう言いながら手慣れた感じで銃を構える。そして和哉の口から聞いたことの無い言葉が発せられた。
「オン マユラ キランディ ソワカ」
「孔雀明王よ。人々の災厄や苦痛を与えし魔を取り除け!」
言葉が発せられた途端に銃が輝き始める。
「さてと、準備万端。浅葱! 行くぞ!」
「はい! 和哉さま!」
和哉は銃を撃ちながら、浅葱はエナジーソーサーを放ちながら蜘蛛の妖魔と蜂の妖魔の群れに飛び込んでいく。その様子を見届けた僕は紅緋と一緒に加藤先生に融合している蛇の妖魔と対峙した。
「新君、まだ指輪をはめていたのか、あれ程目立たないようにと言ったのに。先生は悲しいよ」
双頭の加藤先生の方が芝居がかった口調で話す。
「先生、本当にそう思うなら今すぐに他の妖魔を撤退させて、先生自身も妖魔と離れて元に戻って下さい」
「それは出来ない相談だな。何しろこいつが言うことを聞いてくれなくてね」
加藤先生が言ったと同時に蛇の妖魔が動き出した。
「食わせろ!」
そう言いながら再び首を伸ばして大きく口を開いて僕に向かってくる。紅緋は炎の短剣をその口目がけて振り切った。炎の短剣は蛇の妖魔の二本の曲がった牙に当たり、その反動で紅緋、蛇の妖魔、共に少し後ろに後退させられる。
「ハァーッ!」
紅緋は後退させられた力を脚に溜めて、その力で地面を蹴りつけ蛇の妖魔に炎の短剣で斬りつける。しかし、蛇の妖は蛇行を繰り返して思うように紅緋の短剣が当たらない。
「うーっ! うねうね動いて上手く捉えられない」
蛇行して炎の短剣を避けている蛇の妖に少し苛立ちを見せる。そんな紅緋を見ている僕に和哉が何かを投げた。
「未來、それを使え!」
和哉が投げた物は五十センチくらいの金色の棒だったが、僕が受け取ると棒の両端が伸び1.5メートルくらいの棍になる。
「ありがとう! 和哉!」
さすがに蛇の妖魔も紅緋と僕の攻撃を蛇行でかわすことができなくなって、次第に加藤先生がいる方へ押し込まれていく。
押し込まれて焦っているかと思いきや、平然としている加藤先生から再び妖魔への命令の呟きが発せられた。
「スネーク」
すると加藤先生の左手からもう一匹の蛇が発芽し僕たちに襲いかかる。
「紅緋! こっちは僕に任せて」
「うん。分かった!」
そう言って僕は左手の蛇を、紅緋は双頭の蛇を相手に戦う。僕と紅緋は互いに蛇の妖魔と互角以上の戦いをしているかに思えたが、僕はこの時、大切な事を見落としていた。
「新君! 危ない!」
「えっ」
不意に飛ばされた声の方向に目を向けるとそこには三匹目の蛇が今にも僕に噛みつこうと大口を開けていた。
そうか、まだ右手が残っていたんだ! 左手から蛇が発芽したなら当然右手からも発芽するに決まっている。油断した。その結果が今の状態だ。




