もう一人の精霊使い
昼休み 私立翡翠高等学園 一年一組
「未來、テストの結果はどうだった?」
和哉は能天気に僕に聞いてくる。今日はこの間あった中間試験の答案が返ってくる日だった。
僕は顔を背けたまま答案用紙を片手で和哉に差し出す。
「なになに、現代文78点、古文67点、数Ⅰ82点、……64点、72点、77点、59点、68点、88点、75点、68点と、良くもなく、悪くもなく普通の点数だな」
「はいはい、ちなみに和哉は何点だったの?」
「全教科90点以上だったけど」
僕は机に突っ伏した。
こいつは〜〜! 本当に顔やスタイルが良いだけじゃなくて頭もいいんだよなぁ。
「今度、俺の家で勉強教えてやろうか?」
和哉が嬉しそうに聞いてくる。
「ああ、よろしくたのむよ」
僕は机に突っ伏したままで手をひらひらさせる。
その時である。
教室の前の方から一人の男子生徒が大声を上げて僕の方に向かって来た。
「あたらし〜〜〜〜っ!」
その男子生徒は金属バットを手に振りかぶり僕の頭部めがけて振り下ろそうとした。
「おっと、俺の大切な友達に手を出してもらっちゃ困るな」
和哉はそう言ってバットを手で楽々と受け止める。
次の瞬間、時間の流れが変わった。
「チッ! ここで妖魔か!」
和哉は教室の後ろの方を見て言う。僕も後ろを振り返る。そこは無数の羽根の生えた昆虫が飛んでいてまるで黒い雲のように見える。その雲の真ん中を中心にして昆虫は回転を始めた。そしてその昆虫はどんどんくっついて一つの塊になっていく。
「えっ! 妖って? 和哉?」
僕は頭の中が混乱していた。妖が出現したのもさる事ながら、和哉が妖魔の事を知っていてこの時間の流れの中で動いているからだ。
僕がそんな事を考えている間にも妖魔はどんどん形作っている。頭、胸、腹、4枚の羽と6本の足、頭に2本の触角、腹の先には鋭い針、僕の体の倍はありそうな蜂の妖魔だ。黄色と黒色の体毛で覆われ腹部には人の狂喜している顔ような模様を浮かび上がらせている。
「浅葱! 出番だ!」
和哉は片手で男子生徒を食い止めながらもう一方の手で制服のカッターシャツのボタンを外す。胸元にチェーンネックレスその先に浅葱色の石が見え、その石が光り出す。その光が人型を形成し、青緑色の少女が姿を現わす。
「和哉さま! 今日もかっこいいですわ!」
「いや、そんな事はいいからアレから未來を守れ」
蜂の妖魔は腹の先の針を僕の方に向けて飛んで来ていた。
「わかりましたわ。本当にいけずなんですから、和哉さまは!」
えっ! なっ! 和哉が精霊使い?
「エナジーウォール!」
僕の頭の中は大混乱していた。そんな僕の目の前で浅葱と呼ばれる精霊は青緑色で透明な円盤状の盾を出して蜂の妖魔の針を防いでいる。
「未來! いつまでぼーっとしているんだ! お前も精霊を出すんだ!」
「えっ、う、うん、分かった」
和哉の声に僕は自分を取り戻し右手を前に突き出し指輪に声をかける。
「紅緋! お願い!」
僕の手の指輪が消え、紅緋が空から降りてくる。
「紅緋?」
浅葱は紅緋の姿を見て妖魔の攻撃を防ぎながら言った。
声をかけられた紅緋は驚いて浅葱を見る。
「浅葱ちゃん!」
「紅緋、なんであなたがここにいるの?」
「えへへ〜、来ちゃった!」
「えっ、でも先生たちがダメだって言ってなかった?」
「それがね…………」
「おいおい、お二人さん! お話しは後にしてくれないかな?」
浅葱と紅緋が話しに夢中になっているのに見かねた和哉が二人を制する。
「俺もいつまでもこいつの相手をしたく無いんでね!」
そう言いながら男子生徒の持っていた金属バットをはたき落とし、男子生徒を床に組み敷いていた。
「すみません。和哉さま!」
浅葱はそう言って蜂の妖をエナジーウォールで押し戻す。
「紅緋!」
「わかった!」
紅緋は右手に炎の短剣を手にして体を空中に躍らせる。教室の壁面を蹴り、天井に到達した紅緋は反転し、天井を蹴って一気に降下する。その勢いのままに炎の短剣を両手でしっかりと持ち、蜂の妖魔の頭部、2本の触角の間から短剣を入れて全身真っ直ぐ縦に斬り下した。
「斬り裂け! 炎斬刃!」
紅緋がそう叫ぶと蜂の妖魔の姿が縦に真っ二つになり、二つになった肢体は炎に包まれ跡形も無く消えていった。
妖を倒した二人の精霊は何事も無かったかのように話に夢中になっている。
そんな彼女らを見ながら僕は聞きたい事や言いたい事があるのに言葉が出ないままでいた。そんな僕の頭にポンと手が置かれる。
「お疲れ様」
和哉が僕に寄り添ってにっこり笑う。
「お疲れ様じゃないよ! 和哉は精霊使いだったの⁉︎」
「まあな」
和哉はちょっとバツの悪そうな顔をして鼻の頭を掻いている。
「どうして教えてくれなかったの?」
「それは、ほら、あれだよ、あれ、未來と同じ理由だよ」
何か焦ったように和哉が言い訳する。
「同じ理由って?」
「未來が精霊が宿った事を俺に話さなかっただろ? それは俺に話しても信じて貰えないと思ったからだろ?」
「うん」
「それと同じだってことだ」
まあ、確かにいきなり精霊がどうとか、妖魔がどうとか言われても信じられないだろう。
「わかったよ。でもこれで学園の妖魔はいなくなったんだよね?」
「それは…………」
和哉は少し考えて
「とりあえず時間を戻そう」
「うん」
「浅葱!」
「紅緋」
二人の精霊はネックレスと指輪に戻っていった。




