出会い
「痛ったぁ〜〜〜〜〜〜っ!」
僕の口から出たのがこの言葉だった。
実際に僕には何が起こったのかすら分からなかった。
その日、僕は学校からの帰り道を急いでいた。鉛色の空が今にも雨を溢し出しそうになっていたからだ。
案の定、帰宅路の半ばまで来たあたりで、鉛色から烏の羽の様な黒い色に姿を変えた空が大粒の雨をアスファルトに向け叩きつけ始めた。
傘の持っていなかった僕は背負っていた通学バッグを頭の上に持っていき、気休めの雨よけにして全力疾走することにした。
十分ぐらいも走っただろうか。左右に建ち並ぶお店が疎らになり、周りの人も殆んどいない所まできた時。
突然、頭上の空に無数の閃光が走り、ジ、ジジッと音を立てた。
「ん? 雷かな?」
そう呟いた次の瞬間!
ドォーン!
という音を残して僕の目に映る色彩を全て消し去り遠近感も無い真っ白な世界が広がった。
しばらくして僕の目に色彩が戻り始めた時に出た言葉が先程僕が口に出したものだった。何しろ頭のてっぺんから何かで貫かれた様な物凄い痛みがあったからだ。
「おい。お前! 大丈夫か?」
僕の目の前にいる女の子が心配そうに聞いてきた。
その女の子の姿というのが奇抜で紅い髪に紅い瞳、紅いパーカーに紅いハーフパンツ、足には紅いローブーツと、上から下まで紅色で覆い尽くされている。その奇抜な姿に思わず僕は質問に質問で返してしまった。
「君、誰?」
「し、失礼な奴だな! そういう事を女の子に聞く前にまず自分の自己紹介をしろよな!」
目の前で頬を膨らませている女の子の言うことももっともだと思い自己紹介を始めた。
「えーと、僕は新未來、高校一年生、趣味は読書、特技は特に無いかな」
何だか新学年になった時のクラスでする自己紹介の様な間の抜けた自己紹介になったがその女の子は納得した顔で聞いて、僕の言葉の後を続けた。
「髪は長くも短くも無く普通、顔もさして特徴も無く普通、身長も170センチくらいで普通、全てが普通で何の面白みも無いよな」
「ちょっと! 酷い言い様だよね!」
僕が抗議するとその女の子は頭の後ろで両手を組み笑いながら言う。
「だって、本当の事だろ?」
「まぁ、それはそうだけど…………」
「それならいいじゃないか」
うぅ……何か違うような気がする。
「そんじゃまあ、次はあたしの自己紹介といきますか! あたしの名前は紅緋。人では無くて精霊だ」
「人では無い……精霊……?」
「アリシア様に未來がいる世界に行って一緒に戦う様に言われてやって来た」
「僕のいる世界……戦う……?」
「それであたしらはこれから起こるこの世界の崩壊を阻止する為に…………」
スラスラと説明をしている紅緋の話についていけなくなった僕は彼女の言葉を制した。
「ちょっ、ちょっと待って!」
「ん? 何?」
「僕には君の言っている事が少しも理解出来ないんだけど」
「どこらへんが理解出来ないんだ?」
「どこらへんって……何もかもが分からないよ。君の名前が紅緋って言うのは分かった。その後の精霊ってのは何の事なの?」
「精霊を説明しろって言うのか? なかなか難しい事を言うんだな。未來は……」
紅緋は可愛い顔の眉間にシワを寄せて少し考えてから答えた。
「言葉じゃ説明しにくいから、とりあえずこれを見てみ!」
紅緋は片足でポンと地面を蹴って軽く跳ねる。瞬間、彼女の姿がその場から消えて無くなった。
「え、なっ、何? 紅緋? どこへ行ったの?」
僕は辺りをキョロキョロ見廻してみたがやっぱり何処にも紅緋の姿は無かった。
「どこ見てんだよ! こっちだよ! こっち!」
紅緋の声が僕の手の方から聞こえる。よく見ると僕の右手の中指に見覚えのない紅色の指輪がはまっている。
「べ、紅緋なの?」
「そうだよ。紅の指輪の精霊。ま、とりあえずこれじゃ話づらいから……」
そう言うと、指輪が瞬く間に消えて目の前に現れた紅緋のローブーツが軽やかに地面を捉えた。
「まぁ、こんな感じ。いつもは未來の指輪になっているけど、有事の際には本来の姿に戻って戦うってことね」
「ちょっと待って! 戦うって誰と戦うの? って言うか、そもそも現実味が全く無いんだけど…………」
続けて話そうとした僕の言葉を紅緋が遮った。