勇者召喚の日ー2 召喚された勇者候補達。
目が覚めたのは遠い異世界の祭壇だった。
その祭壇の頂点には一人の貴族らしき男が倒れているが生徒達は自分の身に何が起きたのか理解できずオロオロしたりしているため誰も助ける者はいない。
「静かに!」
そう生徒たちを制したのは青い髪を持つ女性だった。
その髪は後ろで一つに結われており非常に大人っぽい、艶麗な雰囲気を醸し出している。だがそれは何処も乱すことなく着込んだ軍服で包み込まれており生真面目っぽさだけが増して感じられる。
そんな彼女は生徒たちが静かになるのを認めると先を続けた。
「私は王の秘書のリース・フェンリルである。貴様らが何故ここへ連れてこられたかというと…」
そう名乗ったリースはここへと召喚された理由を淡々と語り出した。
それは長いのでこちらで簡単にまとめると勇者が死んだから新勇者を探す為召喚したとのこと。
「それでだ…今から勇者選抜試験を執り行う!ルールは次の通り」
そう言ってリースは巻物に書かれた文章を示した。
一つ、他の受験者を陥れる行為や攻撃するという行為が見られた場合、その者を即失格とする。
一つ、この試験で死亡することはまずないが怪我などはこちらで責任を負わない。
一つ、失格した者は直ちにここから退室しこの世界で一から暮らしなさい。
などなど…細いのを合わせて10以上。
リースは生真面目すぎる所が玉に瑕である。
「そんな…いきなり?」
「そうだ」
将の呟きにリースは当然というように言い放った。
「でも…勇者なんて俺らの中にいるのか…」
「いる。お前らの中の誰かにとんでもない力を秘めている者がいる気がするのだ」
「気がするって…」
その不確かな言葉に将達の不安は募るばかりだ。まあ、それも仕方がないといえば仕方がないが。それもそうだ、異世界に勝手に連れてこられてしかもこの中にすごい奴がいると何もわかっていない状態でバカみたいなファンタジーなことを言われてもいまいち納得はいかない。
「大丈夫だ、この試験に落ちてもこの世界の生活はサポートする。ああ、そうそう勇者になった者は望みを何でも叶えてやろう」
リースが思い出したかのように言った言葉は勇者候補達をどっと湧かせた。しかし、将や歌織、弥生といった面々は別にというようにポカンとしている。
「よーし、やってやるぞ」などのテンプレ的失敗フラグの掛け声が次々と勇者候補達の中で起こるとリースはニヤリと笑い祭壇の方へと踵を返した。
「静まれ!今から第一次審査を行う。審査項目は運動神経についてだ。これは常人並みあればいい。迫り来る水弾を避けきれたら合格だ。まずは誰から行く?」
『運動神経』というワードに将はビクッと反応した。何故なら将は…まあ、将の活躍を見てから述べるとしよう。その様子を見かねたのか大丈夫と弥生が将に尋ねるが当の本人は茫然自失としている。
「はい、私が行くわ」
そう言い手を挙げたのは歌織だった。そしてずんずんと白い線が引かれたとこまで進みよる。
「では…試験開始だ」
その言葉と同時にハンドボール程の大きさの水弾が前方に5、6個出現する。するとそれは小学生のドッチボールぐらいの速さで歌織に猛進した。ハンドボールやらドッチボールやらややこしいが、つまりは普通の大きさの球が普通の速さで迫ってくるという事だ。
右上に迫った水弾を弥生は軽く左に身を逸らしてかわすと次の正面の球は即座に身を屈めやり過ごした。
その要領で歌織は見事に全ての水弾をかわしきった。
「なかなかやるな…合格だ」
リースの言葉に弥生はひとまずという安堵の息をつくと将たちのもとへと戻る。
拍手の雨の中、歌織は将を安心させようと「このぐらい簡単よ」と言ってくれたが、将は正直、冷や汗が止まらなかった。
歌織は陸上で全国出場できるぐらい運動神経がいいからだ。そんな者の言葉は将にとって説得力に欠ける。
「次は?誰かしたい奴は居ないのか?」
流石にあんな物を見せられてやりたいという物好きはいない。その光景を祭壇の上から一瞥するとリースは顔を顰めた。
「誰も居ないのか?…仕方ないか。おい、そこの一番前のパットしない奴お前がやれ」
そう指名されたのは他でもない将だ。
「っ!」
早くこの時が来てしまったな…将は悲嘆に暮れながら前に出た。
時よ止まれと将は心の中でどれほど願ったか。だが、将にザ・ワールドの力はない。
「では…試験開始だ」
そうリースの掛け声と共に将の前に水弾が発生した。