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町内のヒーローから過剰に好かれてるぜ! シンイチくん  作者: 三村
大好き! わかば町内ヒーローズ! 編
2/26

第二話 天翔る黄金の鷹、その手癖!

「オラァ! いいから金出せつってんだクソガキがぁ!」


 人気のない路地裏で男が力任せに壁を殴る。その剣幕にシンイチは身を縮こまらせた。


「ぼ、僕お金なんても、もも、持ってないですよ。だ、だいたい小学生がお金なんて持ってるわけ、ないじゃないですかぁ」

「うるせえ! こないだ中学生カツアゲしようとしたら返り討ちにあったんで、ハードル下げてってたらテメェに白刃の矢が立ったんだよォ! いいから身の丈にあった金出して俺に成功体験させろやボケがぁ!」

「う、うう、いやだ、こんな意識低いチンピラにカツアゲされるなんて、いやだ……! だれか、だれか助けて、だれか――!」


 シンイチは目を固くつむり叫んだ。しかし悲しいかな、埃とカビが澱む路地裏にその願いを聞き届けるものはいない。陽の光すらも届かぬ町の闇が、シンイチの祈りを呑み込んだ――かに思えた、その瞬間!


「――ん? シンイチ……くん?」


 いた。

 一人だけいた。

 たとえ天が見過ごしても、黄金の鷹は弱者の祈りを見逃さなかった!


「いま、確かにシンイチくんの声が聞こえたぞ……くそ、こうしちゃいられない!」


 リョウは、持っていた買い物カゴを投げ捨て、金色の翼を広げた。目の前の寿司がもうすぐ半額になる時間ではあったが、彼の正義感は半額寿司よりも、シンイチの危機を救うことを即座に選んだのだ!


「いま行くぞ、シンイチくん!」

「……あの、お客さん」


 スーパーを飛び出そうとしたリョウの肩を店員が掴んだ。


「む! キミ、はなしたまえ! 僕の助けを待っている者がいるんだ!」

「はなしたまえじゃなくて、レジ通してない商品ありますよね?」

「なっ……何を馬鹿なアッハッハッハッハッハ! 本当マジでアッハッハッハッハ!」

「咄嗟に言い訳思いつかなくて笑っちゃってんじゃねーか」

「どこに証拠があるというんだ! 僕が万引きをしたなどという証拠が!」

「さっき鮮魚コーナーでばさーって翼広げたとき、その内側に隠しましたよね。見てたんですよ。来店時からブッチギリで怪しかったんで」

「言いがかりだ! あれはお店出たらすぐ使うからあらかじめ広げたの!」

「じゃあ今ここでもっかいばさーってやれますよね。やってくださいよ。ほら早く」

「う、ぐ、ぐううう……くそっ、やむをえん! 太陽よ、我が翼に力を与えたまえ!」


 ――ホーク・ウイング!


【ゴールデンホークのリョウ、七つの威力その一:ホーク・ウイング】

 太陽の守護者ゴールデンホークの背部に備わる一対の黄金の翼だ。大空を自由に飛び回ることはもちろん、竜巻を起こすことや、翼そのもので敵を真っ二つに切り裂くこともできる、リョウ最大の武器の一つだぞ!


「うおわっ、なんだこの風!?」

「て、店長! さっきの万引き野郎がいません!」

「あンのクソ野郎逃げやがったな、外だ! 外出て探せ! 鳥みてーなマスクかぶった全身タイツの変質者だ! 見りゃすぐわかる!」


 店内からちりぢりに飛び出てくる店員を見ながら、ホークは歯ぎしりした。


(むう……うまく店内から脱出できたのはいいが……これではシンイチくんのもとへ着く前に僕が捕まってしまう。空さえ飛べればいいが、今は諸事情により飛行形態になれない! 何がとは言わないが、せっかくとったものがこぼれ落ちてしまう! かくなる上は――)


 ――ホーク・パルス!


【ゴールデンホークのリョウ、七つの威力その二:ホーク・パルス】

 人の耳には聞こえない超音波を出すことで、周囲全ての障害物を探ることの出来るアクティブ・ソナーだ! 高速で動く敵や透明になる敵も、ホーク・パルスからは逃れることはできないぞ!


「おい、いたかさっきの万引き鳥野郎は!」

「いました! けどなぜかすぐこちらに気づいて逃げてしまうんです!」

「くそ、勘の良いやつだ……。おい! お前らは外側から回り込め! 逃げ場を塞ぐんだ!」


 まずい、とリョウは呟いた。彼のパルスは自身が包囲されつつあることを知らせた。逃げ場を塞がれてしまえばホーク・パルスは用をなさない。「急がねば……!」そう言って、リョウがマスクを深く被ると、鷹の眼が鋭く光った!


 ――ホーク・アイ!


【ゴールデンホークのリョウ、七つの威力その三:ホーク・アイ】

 あらゆる障害を透視し、目的物を捉えることのできる鷹の千里眼だ! 天網恢々疎にして漏らさず、その言葉通りホーク・アイは太陽のごとくあらゆる闇を暴き立てるぞ!


 ――そして、ホーク・イヤー!


【ゴールデンホークのリョウ、七つの威力その四:ホーク・イヤー】

 百キロ先に落ちた針の音すらも聞き分ける超・聴力だ! 可聴半径内であればあらゆる音を捉えることはもちろん、その中から目当ての音――つまり、弱者の助けを聞き分けることも可能なのだぞ!


「……いた! シンイチくんを見つけたぞ!」


 ホーク・アイが五百メートル先のシンイチの姿を捕捉した。


『や、やめてよ! 暴力はやめてよ! お互いの得にならない暴力に何の意味があるってんだよ!』

『うるせえ! テメェが金を出さねえから、俺が手を出してんだろうがクソが! どうだ! 結構うまいことも言えるんだぞ俺は!』


 さらにホーク・イヤーがシンイチの悲痛な声を捉えた。


「……なんてこった、チンピラにカツアゲされてるじゃないか!」


 リョウはあらん限りの力を振り絞り、シンイチへの最短距離を駆けた!


『助けて! 誰か助けてよお!』

「もう少しの辛抱だぞ、シンイチくん!」

『おい! あの寿司万引き鳥クソ野郎はどこだ!』

『いました! あそこにキンタマ泥ぶっかけ泥棒ミミズがいます!』

「ちィ! もう追っ手が来たか! しかし止まるわけにはいかん、僕には使命があるんだ!」

『助けてー! 全財産の二百六十円を盗られたところで痛くも痒くもないけど、ただこんなやつに屈するのが僕のプライドが許さないから誰か助けてー!』

「あと百メートル、もうすぐだシンイチくん!」

『待ちやがれフルバーストうんこっ屁が!』

『店長! 無価値ナメクジがそっちの角曲がりました!』

『絶対警察にぶち込んでやるからなこの、クソ雑魚無能中学生以下軽犯罪で親に合わす顔マイナス未満のスペシャル下痢便オムレツ食べ食べ太郎がよォ!』

「悪夢みたいなあだ名つけられて心折れそうだけど、今行くからなシンイチくん!」


 もはやホークアイを使うまでもなく、胸ぐらを掴まれたシンイチが前方に見えた。「――今だ!」リョウは走りながら拳を固めた。


 ――ホーク・ナックル!


【ゴールデンホークのリョウ、七つの威力その五:ホーク・ナックル】

 その手に正義を握りしめ、あらん限りの力で敵に叩きつける正義のナックルだ! 威力は大の大人が全力で殴ったのと大体同じで、諸事情によりホーク・ウイングが使えないときに使用される奥の手だが、使われる頻度はそれなりに高いぞ!


「な、なんだテメェ――ぐぅえっ!?」


 ホーク・ナックルが見事にチンピラのアゴを撃ち抜き、彼はその場に崩れ落ちた。


「ホーク・ナックル! ナックル、ナッコォ! さらにナッコォ!」

「リョウ! もうやめてあげてよ! チンピラはもう気絶してるよ、それ以上はやり過ぎだよリョウ!」

「まだだ! こんな人の痛みもわからぬ悪党には、こうだ!」


 ――ホーク・デコイ!


【ゴールデンホークのリョウ、七つの威力その六:ホーク・デコイ】

 太陽の力を借りて、相手を一時的にリョウそっくりの姿形に化けさせる力だ! もともとリョウには備わっていなかった力だが、必要に駆られて後から個人的に習得した超奥義だぞ!


 *


「店長、あそこです! 万引き犯があそこに倒れてます! ……って、あれ? 万引き犯が二人?」

「やあ! 遅かったね、君らが追いかけていた万引き犯は僕が捕まえておいたよ!」

「ど、どういうことだ。鳥野郎が二人?」

「いるんだよね、僕の格好を真似して犯罪を働く不貞な輩がさ……。そいつは僕の偽物だ。調べたまえ、そいつの身体から盗んだものが出てくるはずだ」


 店長が半信半疑で偽ホークのマントを広げると、盗られた寿司パックがこぼれおちた。


「……へ? あれ? えっえ?」


 目を覚ました偽ホークが、自分を囲むスーパーの店員たちを見て目を白黒させた。


「……えっ? じゃねえだろテメェこの万引き野郎が!」

「万引き……って、え、いやいや、俺何にもやってないっすよ!?」

「知らないわけあるかボケが! テメェの懐から盗まれた寿司が出てきてんだろうが!」

「え、ええええ!? いや違うんですよ、俺そっちは本当に知らなくて」

「うるせえ、言い訳なら事務所で聞いてやる! さっさと立って歩け泥棒野郎が!」

「待って待って待って、話聞いてくれ、俺は――そうだ! あいつだ! あの鳥野郎に急に殴り倒されて――」

「人のせいにするのはやめたまえ、この無価値ナメクジ野郎!」

「俺は、俺は急に殴られて気絶して――」

「早くそのクソ雑魚無能中学生以下軽犯罪で親に合わす顔マイナス未満のスペシャル下痢便オムレツ食べ食べ太郎を連れていきたまえ!」

「最後まで言わせろよ! 食い気味にめちゃくちゃなあだ名かぶせてくんなよ! なあ、なあって! 話を聞いてくれよ、なあ!」


 店員に両脇をガッチリ押さえられ連行されるチンピラを、リョウは満足げに眺めた。


「ふう……危ないところだったな、シンイチくん!」

「あ……ありがとう、リョウ。助けてくれて」

「何、お安いご用さ。僕はいつだって君のそばにいるからね! いやー走ったらお腹減っちゃったね、寿司食べるかい?」

「えっ、お寿司あるの!?」

「僕はいつだって寿司を持っているのさ! 六パック――ああいや、一つ減ったから五パックか。でも一人じゃ食べきれないから一パックあげよう!」

「……あの、リョウ、一つ聞いてもいい?」

「ん? なんだい?」

「このお寿司どうしたの?」

「アッハッハッハッハッハッハ!」

「さっきの店員さん、寿司を万引きされたとか言ってたような」

「アッハッハッハッハッハッハ!」


【ゴールデンホークのリョウ、七つの威力その七:ホーク・手癖】

 ストレスが溜まったときや、給料日前についついやっちゃう盗癖だ! 一度痛い目を見ないと治らないぞ!

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