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死神のクリスマス

作者: 諏訪 惠
掲載日:2026/02/27

死神は、誕生日を祝われたことがありません。誰からも祝福されたことがありません。

たった一人の子どもが死神とことばを交わす、小さなお話。

 冬の街いっぱいに、明るい光が溢れていました。

 あちこちから聞こえてくるよろこびの言葉とキャロル・ソング。

 街はにぎやかに、教会はおごそかに、幼子の誕生を祝福しています。

 降る雪のなかを速足に歩いている、黒い帽子に黒いコート。

 あれはいったい誰でしょう。

 死神です。

 嫌われ者の死神が、街を歩いておりました。

「メリークリスマスだって!」

死神はつぶやきました。

「何がめでたいもんか。まったく、一年で一番嫌いな夜だ」。

 死神には誕生日がありませんでした。

 生まれたこともないのに生きている死神を、町の人はみんな嫌っていました。

 生まれたことのない死神は、死ぬこともありません。

「だいたい人間っていうのは、この世のことしか考えていない。生まれてばかりいたって、何がいいもんかね」

 この世での役目を終えた人に、そのことを告げるのが死神の役目です。

 死神は、神様と同じように正しく、平等でした。

 なのに、この世ばかりを愛している人々は、死神をのけものにするのです。

「生きているということは、いずれは私のもとに来るのだろうさ」。

 死神は神様と兄弟であり、友人であり、敵であり、互いでありました。

 誰か、死神のことを祝福してくれる人はいないでしょうか。

 そうしてくれたら、死神も誰かを祝福できるのです。

 賑やかな表通りの裏に、寂れた路地がありました。

 そこには身を寄せ合いながら震える子どもたちがいます。

 ひとりの男の子が、かけよってきました。

 そして差し出された小さな手。

 物乞いの子どもを憐れんで、死神はいいました。

「私のところに来るかね?」

 子どもはびっくりしていいました。

「行けないよ、ぼくがいなくなったら妹たちが悲しむもの」

「何人でもつれておいで」

 どうせこの子たちは、冬を越さずに凍えてしまうでしょう。

「神さまみたいな紳士さま。死んでしまった母さんも、あなたみたいにやさしかった」

 死神ははっとして、子どもの手に一枚の金貨を乗せました。

「これであたたかいスープをのみなさい」

 子どもは手を伸ばし、死神を抱きしめました。

 冷えきった体は熱く、ふるえる肌の下ではどくどくと血がめぐっています。

 生きているもののぬくもりを、死神は初めて知りました。

 突然、死神は自分の鼓動を感じたのです。

「メリークリスマス!生まれてきておめでとう」

 街はにぎやかに、教会はおごそかに、幼子の誕生を祝福していました。


あなたへ、生まれてきておめでとう。

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