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エッセイ

よく調べずに書くということ

作者: Fu



 やあやあ、私はしがない物書き一年生である。


 先にタイトルについて説明しておくと、「イメージって面白いな」という個人的な興味関心をくだくだとしていく与太話だ。「ちゃんと調べてから書こう」という真面目な話ではない。今回は、読者と作者の視点がぐるぐるに入り交じった、私という人間の雑感である。


 さて。


 私はテンプレが好きだ。ナーロッパが好きだ。大抵のことは「異世界で起きた出来事が現代日本人向けに翻訳されている」と認識しているので、異世界に日本のことわざが出てきてもサンドイッチが出てきてもジャガイモが出てきても気になったことがない。


 人様の作品を読んでいて感想欄で知ったことに、サンドイッチはサンドイッチ伯爵が発明したことから、ジャガイモはよく知らないが、おそらく名称の由来であるジャカルタから、その名称のままで異世界に出てくると違和感がある、という話題がある。


 いきなり余談をすると、私はサンドイッチ的な食べものが大好きである。ハンバーガーもパニーニもサバサンドもバインミーもピタパンの中にケバブが詰まっているやつもだ。最近だとキューバサンドが気になっている。今までで一番美味しかったのが、牛肉と青カビっぽいチーズとビネガーのバケットサンドだ。


 これらを、ラーメンも蕎麦もパッタイも「麺」というみたいな感じで大きく括る名称が他にあるだろうか?と思ってwikipediaを見た。引用する。


 「サンドイッチ」の語源について、サンドウィッチ伯爵が賭博しながら食べられる料理としてサンドイッチを発明したとする説がある。しかし、これは俗説である。


 なるほど。サンドイッチ問題は解決してしまった。まあでも世の中の人がみな調べるわけではない。己の常識を疑うことは難しい。自分で何か書くとしたら、「魔物肉サンド」とでもして「イッチ」を省いて誤魔化すことにする。


 という冗談はさて置き。


 問題はサンドイッチでもジャカルタでもない。それらは山に生えている木々の一本一本であって、山の正体は、現代日本人である我々が理解し楽しめる架空の世界、という難題である。理解できるから楽しめる。知っているから興醒めをする。


 サンドイッチが気にならない私も、ゴータマ・シッダールタが転生したら「???」となる(これはジョークである)ので、サンドイッチを気にする人がいることも理解できる。地球の事物を参照している限り、繋がりは切れない。

 しかしながら、だからこそ、ちゃんと気にするとなると、ホモ・サピエンス・サピエンスもアウトで、太陽も月もアウトになる。天地開闢(かいびゃく)から始めるべきである。


 このような程度問題には妙味がある。どこまでなら気にならないか?


 たとえば人物名を付けるとき、ドイツ語であるとかフランス語であるとかを拝借するのが日本語での創作においては一つの有効な手法だろう。しかしながら、向こうのファーストネームは宗教の聖人、ラストネームは地名に由来する場合がある。私は異国語に対する感度が低いので、クリスティーヌもミシェルもジャンも平気でスルーする。


 キリスト教のない世界で(クリスティーヌはキリスト教徒、ミシェルはミカエル、ジャンはヨハネに由来するらしい)。


 それでは日本語はどうかと言えば、「王国の未来を統べ()王子」等とあると私は一旦止まる。そして、この「し」は格調高さのエッセンスなのだろうな、と納得する。正しく現代語訳すると「未来を統べた」となり、意味が通らない。ただ、これが単なる誤用とは思わない。いかにも立派そうな服を着た偉い人が言いそうな雰囲気が出ている。


 こういう、元の意味や歴史的背景を失ったあとに残る上澄みの「それっぽさ」というのを、私は愛している。ドラが鳴り響く。中世日本風といいながら、ゲイシャが出てきてサムライが出てくる。テンプラを食べる。茶の席で使用人が給仕する。ニンジャとショーグンが異能力バトルをする。そういう世界だって楽しい。なぜなら、変遷もまた人の営みだからだ。原義から外れて誤用が常用とされていく言葉のように。


 今更言うまでもないが、ナーロッパは元の意味や歴史的背景から切り離されてゲームやマンガや小説等で醸成された夢や憧れ、それっぽさの集合体だ。肉体から解き放たれた魂のようなものである。きらきらふわふわしている。どこにでも行けて、何にだってなれる。トイレなんか行かない。これに血を通わせようとすると、テーマパークの造営が必要になり、トイレを設置することになる。


 テーマパークの水辺に立つ。塩素のにおいが鼻を掠める。


 お姫様はフリルたっぷりのドレスを着てティアラをしていて金の髪をふわふわと下ろしている。

 紅茶を飲んで甘いケーキを食べる。東インド会社もプランテーションもない世界で。

 子どもの頃に読んだ絵本のような風景。砂糖とスパイスと憧れで出来ている。これは皮肉ではない。


 私は砂糖とスパイスと憧れを愛している。



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