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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢の中で私の好きな人は妹と結婚した。

作者: ありま氷炎

 時折夢に見る。

 私が男になって騎士団で活躍する夢。

 側にいるのは幼馴染のアッシュ。


 私は攻撃魔法で魔獣を倒し、人々を救う。

 なんてすばらしい夢なんだろう。


 夢を見るようになって、私は騎士団に憧れた。

 いまだかつて女性で騎士になったものはいない。

 だけど、女性は騎士になれないという法はない。


 幼馴染アッシュに私の夢を聞かせると彼も面白そうだと言っていた。

 両親は大きくなれば、私が現実を知って諦めるだろうと思っていたらしいけど、攻撃魔法が使えるようになってから、状況が変わった。


 偶然、私は魔獣に襲われていた王女様を攻撃魔法を使って救ってしまい、騎士になる夢が現実味を帯びてきた。

 私たちの家系は魔力が高い。

 だけど、女性が攻撃魔法を使えることは珍しくて、両親は驚きながらも応援してくれた。

 ただ、妹カリーナだけはものすごい反対した。

 いつもは大人しい妹が叫ぶのを初めて私は見た。

 だけど、私は騎士になりたかった。

 皆を救うを騎士に。

 カリーナを一生懸命説得しようとしたのだけど、泣いてしまい、どうしようもなかった。

 妹カリーナと仲がよいアッシュから説得してもらおうとしたら、妹はアッシュを睨んで、私から目を離さないようにと約束させた。

 なんだろうか?

 普段は無邪気で可愛らしい妹だけど、時折大人びた表情を見せた。

 その度に胸が苦しくなったのだけど、なんだろう。

 妹カリーナがどうにか折れてくれて、念願の騎士への道が開けた。


 王女が後押ししてくれると言えでも、実力のないものは騎士にはなれない。

 だから、入団試験を受けた。

 アッシュも一緒に受けて、二人で受かった。

 私とアッシュはいつも一緒に鍛錬していて、実力も一緒くらいだった。

 女性である私。

 そのうち周りに追い越されるのかと怖かったので、鍛錬を絶やさなかった。


 騎士団に入団して、私の夢は鮮明になった。

 まるで過去に経験したような鮮明さ、騎士団の同期なども全員同じ顔触れ。

 夢ではないのだろうか?

 そんな疑問が徐々に浮かんできた。


 夢の中の私は、アッシュに恋心をいだいていた。

 男の身で。

 今も私はアッシュのことが好きだ。

 だけど今の私は女性で、彼を好きなのは自然なことだ。

 だけど、夢の私が男であるアッシュを好きなのは間違っている。

 夢の中の私もそれを知っていて、苦しんでいた。


「クレオ。体調が悪いのか?」

「ううん。体調は大丈夫」


 ただ夢見が悪かった。

 私は夢の中で死んだ。

 アッシュが妹と結婚して、自暴放棄に陥った私は戦場に行き、命を落とした。

 私はアッシュを愛していた。

 今の私はどうなんだろう。


「休むか?」

「いいや。参加する。体を動かしていたら多分すっきりするはず」


 アッシュは私の大切な人だ。

 傍にいてくれると安心する。

 小さい時から仲が良かった私とアッシュ、婚約が結ばれたのは自然の流れだった。

 アッシュも私のことを好きなはずだ。

 そう思っていたけど、夢が鮮明になってくるにつれて、私は不安になった。

 本当にアッシュは私のことが好きなのか?

 本当は、妹のことが好きじゃないのか?

 あの夢のように。


 アッシュは私を大切にしてくれる。だけど、それは友人としてではないのか?あの夢のように。

 不安は広がっていき、夢の中でアッシュが妹と婚約したあたりから、私はアッシュと妹の様子を観察するようになってしまった。

 妹は可愛い。

 私とは違う。

 私は夢と違って女性だ。

 だけど、背はアッシュと同じくらいだし、その胸も大きくない。お尻も。

 だから、私のことを男だと勘違いする人は沢山いる。

 騎士として動いている時は、そのほうが好ましい。

 女だと分かるとあからさまに嫌な顔をする者も多いからだ。


 本当はアッシュは私との婚約を嫌がっているのではないか?

 妹がいいのではないか?

 夢の中で何度か女であればと願ったこともあった。

 けれども現実は一緒だ。

 アッシュは妹カリーナが好きなのだ。

 例え、私が女であろうと好きな人は変わらない。


「悪い。今日は体調悪いから、カリーナと話をしていて」


 私はアッシュを避け始めた。

 その代わりにカリーナに私の代わりを務めさせた。

 もちろん、騎士として勤めは果たした。

 見習い期間を終え、従騎士になり、一人前の騎士になった。

 私は十七になった。

 本当なら、そろそろ結婚してもいい歳だ。

 妹は十六歳になり、大人の仲間入りを果たした。


「アッシュ。婚約を解消しないか?」

「は?」


 私はアッシュに以前から考えていたことを伝えた。

 彼はびっくりした顔をして、私を見ている。


「君は、私ではなく、カリーナが好きだろう?」

「は?何を言っているんだ」

「隠さなくていい。カリーナは私と違って可愛いし、小さいし、素直だ。好きになるのもわかる」

「だから、何を言ってるんだ」

「私と婚約を解消して、カリーナと婚約を結び直せ。私が男に興味ないとか、そういう話にしてもいい。それか、子供を産めないとか」

「クレオ!」


 珍しく怒鳴られた。

 アッシュは顔を真っ赤にしていた。


「好きな男ができたのか?」

「な、何言ってるんだ」

「そういえば、お前、同期のダレンと仲いいよな。ダレンは俺より背が高くて、お前と並んだらちょうどいい。俺はお前と同じくらいの背丈で物足りないだろう」

「アッシュ、何を言って」

「お前は、ダレンが好きだから俺との婚約を解消したいんだ。前から思ってたんだ。お前はダレンが好きなんだろうなあ。昔から」

「誤解だ。私にそんな気持ちはない!」


 アッシュがそんなことを思っていたなんて、驚き悲しかった。

 確かにダレンとはよく話をしたけど、好きとかそんな感情を覚えたこともなかった。仲間意識はあったけど。


「じゃあ、なんで俺との婚約を解消したいんだ。折角、女になったお前と結ばれると思ったのに」


 女になった?


「アッシュ、どういう意味だ?」

「な、なんでもない。とりあえず婚約は絶対に解消しない。この話は終わりだ」


 アッシュはそう言って、部屋を出て行ってしまった。

 女になったってアッシュはそう言ったよな。

 ってことは、私が夢だと思っていたものは現実? 

 でも、私は生きている。

 夢の中の私は魔獣に襲われ、命を落とした。


 ☆


「アッシュ様。姉上がそんなことを?」

「そうだ。訳がわからない。やっぱりクレオはダレンが好きだったんじゃないか?」

「そんなことありません」


 数日後、屋敷に戻ると二人が応接間でそんな話をしているのを聞いてしまった。

 二人がこうして私に隠れて会っていることを私は知っている。

 だけど、話の内容は私のことだ。


「私に隠れてこそこそ何を話している?秘密でもあるのか?」


 いつもの私なら聞いてない振りをしただろう。

 でも今日は私のことで、根も葉もないことを話していたので聞き流すことはできなかった。


「姉上!」

「クレオ!」


 二人は同時に私を見る。


「やっぱり二人は相思相愛じゃないか。だから私は婚約を解消する、」

「姉上!それはなりません」

「誤解だ!」


 二人は一斉に反論してきた。


「姉上は誤解してます。私がアッシュ様を好きだなんて誤解です。それは以前はカッコいいと思ったこともありましたが、もうこりごりです」

「……俺は過ちを犯した。だから、今回は間違わない」


 二人の話は微妙によくわからなかった。

 何か二人は二人だけの秘密があるようで、気に食わない。


「言い訳は必要ない。お互いに好きなら私は応援する」

「応援?そんなものされたくない」

「姉上、応援なんておっしゃらないでください」


 二人は駆け寄ってきて、私に詰め寄る。


「姉上。もしかして夢のせいですか?」

「あ、夢か。クレオにとっては夢だよな」

「二人ともおかしい。何か知っているのか?あれは単なる夢じゃないのか?」


 二人は口を閉じて、お互いの顔を見合わせる。

 こういう二人を見ているとやっぱり、相思相愛だと思ってしまう。

 言い訳なんてしなくていいのに。


「アッシュ様。下手に隠すと誤解しそうです。この際すべてを話してしまいましょう」

「そうだな」


 二人は頷くと、私の一度目の人生の話をし始めた。

 夢だと思っていたアレは、私の一度目の人生だったらしい。

 私は騎士で、戦場で死んだ。

 あの感覚は嫌でも覚えている。夢だと思っていたけど。

 私は自分の気持ちを誰にも話したことなかった。

 カリーナとアッシュは結婚した後、色々揉めたみたいだ。

 アッシュはどうやら、私が好きだったらしい。妹はそれを知り、自分が身代わりだと知り、悲しんだということだ。

 私はそんなこと知らなかった。

 アッシュは全然そんなそぶりを見せなかったから。

 ……そういえば、今もそう言えばそうだ。

 私が死んで、妹は人生をやり直すことにしたらしい。それは気持ちを切り替えるとかじゃなくて、人生を巻き戻す魔法を探したらしい。

 それにアッシュを巻き込んで、性別を変える魔法と巻き戻す魔法を生み出し、二人はそれを展開して、私の人生は巻き戻された。

 記憶があるのは、アッシュと妹のみ。

 他の誰もしらない。

 私も記憶がないはずなのに、どうやら夢として見るようになった。カリーナは私が大人しく令嬢らしく暮らして、アッシュと結ばれることを願っていたらしいけど、私は一度目の人生と同じで攻撃魔法を使えるようになり、騎士への道を歩み始めた。

 妹は嫌な予感がして私を止めたらしい。

 それであの態度だったのかと今なら納得できる。


「ということです。納得いただけましたか?姉上」

「うん」


 実際、納得はしてない。

 私の性別を変えて、勝手に人生を巻き戻すとか、あまりにも自分勝手じゃないか?

 確かに、私は女になりたいと願ったこともあった。

 だけど、こういう風に強制的に変えてしまわれる事には抵抗感がある。


「……女になったのは嫌だったか?」

「いや、うん。わからない。私は一度目の人生を夢だとずっと思っていたから。アッシュはずっと記憶があったんだよな」

「ああ」


 アッシュはバツが悪そうだ。それはそうだ。

 なんかずっと上から見られていたと思ったら、なんかむかむかしてきた。


「アッシュは、私の一度目の人生ので、私がダレンを好きだと思っていたんだ」

「あ?え?いや」


 アッシュは動揺している。


「さっき、そう言った。酷い誤解だ」

「わるかった。だけど、俺がカリーナを好きだっていうのも酷い誤解だぞ」

「姉上!そんな誤解されていたんですか?なぜ?」


 アッシュとカリーナは再び私に詰め寄ってきた。


「だって、二人で時たま話していたし、カリーナは可愛いだろう」

「まあ、可愛いなんて。嬉しい」

「二人で話すって言っても話しているのはお前の近況のことばっかだぞ」


 どうやら私は盛大な誤解をしていたらしい。


「誤解は解けましたね。お邪魔虫の私はこれで失礼します。今度の人生、私は間違いませんわ。カッコいい殿方を探しますから」

「さりげなく、カリーナって俺のことをディスってない?」

「いや、違うと思う」


 ヘンな空気になりかけたので、フォローする。


「じゃあ。改めて。クレオ。俺は前の人生からお前のことが好きだった。お互い男同士だったし、告白もできなくて、しかもカリーナと結婚してしまって済まなかった」

「謝る必要はないよ。私も自分勝手に思い込んで、死ぬような前をしてごめん。……本当は怖がらず気持ち伝えればよかった」

「今度は、誰にも咎められることなく、気持ちを伝えることができる。クレオ、俺はお前が好きだ。結婚してくれ」


 憧れの騎士の告白。

 部屋の中だったけど、片膝をついて結婚を請われれば、胸が高鳴る。


「喜んでお受けします」


 女性の立場で返事できるなんて、本当に夢みたいだ。

 実際、一度目の人生を私は夢だって思っていたから、本当に不思議な気持ちだ。

 やり直してしてくれて、よかった。

 魔獣に殺され消えていく意識の中で、悲しみだけが私を支配した。とても孤独な死だったから。


「幸せにするから。今度こそ」


 アッシュは立ち上がり、私を抱きしめ囁く。

 唇ではなかったけど、頬にキスされただけで、くらくらした。


  Happily ever after



 



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