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街の様子(1)

 街の中は外から見るよりもカラフルだった。

 屋根の色はベージュや桃色の建物が多くを占めており統一感が見られる一方、その下の母屋部分は白や黄色、水色といった個性溢れる色合いになっていて可愛らしいい。

 所々に細く背の高い建物の姿も見える。色とりどりの花々で覆われている建物はおそらく教会で、無機質なまま聳えているのが物見やぐらだろう。

 街を彩っているのは建造物だけではない。俺らが入った門と逆側からは川も流れているようで、ほとりに生える木々は街に緑を提供している。


 美しい街並みで、前世であれば間違いなく観光地として大人気となれる要素を持っているのだが……。


「なんとなく、活気がないなー」


 せっかくの石造りの建造物は、人の温かみを忘れたかのごとくひんやりしている。人通りの少ない街中をぴゅーぴゅーと走り抜ける風がまるで楽しむ心を吹き飛ばしてしまったかのようで、どこかどんよりとした空気が漂っていた。


「ここはまだ入り口。商店街に行けば、もう少し食べ物とか売ってる」


 そうリーリャに促され進んでいくと街が開け、広場のような所にたどり着いた。

 中央には噴水――といっても水は止まっているようだが――があり、それを少し離れたところで囲うように屋台が立ち並んでいる。


 そのうちの一つから、しゃがれた声が飛んできた。


「おーい、リーリャちゃーん」


 日に焼けた肌に筋骨隆々とした体。威圧感のある体格だが、顔に刻まれたしわに人柄の良さが滲みでた男が話しかけてきた。


「お、なんだい。今日は男連れか?」


 親しげに微笑む男に対し、俺は先ほどの門番への対応と同じように丁寧に挨拶する。


「うん。あいてるのはおじさんのお店だけ?他の人たちは?」


 周りにはいくつか出店が並ぶが、リーリャの言う通りもぬけの殻となっていた。


「いやーもう日も傾いて来たし客も来ないってんでな、さっき店を閉めて早めに帰っちまったよ」


 リーリャはこの世界に来て始めて少ししょんぼりした顔をみせた。


「俺も閉めようか迷ったんだがな……。せっかくこの時期は魚が美味いんで、なんとか買ってもらえないかと思って粘ってたとこさ」


 そう言って魚の切り身をみせてくる。赤く滑らかな光を放つ、前世と全く変わらない切り身の姿を少し残念に思うものの、同時に安心もした。


「良い色。これは間違いなく美味しい」


 先ほどの悲しげな表情はなりを潜め、今度は確信に満ちた表情でうちのシェフはうなずいていた。


「なあ、すまんが少しだけ食べさせてもらうこととかできないか?」


 異世界初の外食が試食になるのは何ともケチ臭い気もしたが、リーリャも褒めているし興味が沸いた。


「あいよ。兄さんにも、今後ごひいきにしてもらいたいしな。と言っても俺は料理人ではな調味料をかけるだけだが、逆に素材の良さを分かってもらえると思うぜ。兄ちゃんは海外の人か?馴染みがないかもしれないが、この醤油っていうのにつけて食うだけでめちゃくちゃ美味いんだぜ」


 いやー、それめちゃくちゃ祖国の料理なんですが……。西欧風の街並みの中、生魚を食すのにはかなりの違和感はあるが、日本料理を味わえる下地があるのは今後の生活を考えるとありがたい。この調子だと、そのうち納豆とかも出てきたりしてな。


 醤油と刺身の準備ができたようで、「はいよ」と手渡された。さっそくリーリャと共に食していく。

 ほど良い弾力と脂身が醤油にマッチしており……うん、あれだな。これは、普通にマグロだな。


「でもこれは……かなり美味い部類じゃないか?」


 刺身の違いなど明確に分かるわけではないが、回らないすし屋クラスの気がする。


「だからそう言った。リーリャ目利きには自信がある……。試食すればさらに確実。ちょっと前にも食べたけど、その頃よりも美味しい」


「お気に召したようでよかったぜ。昔はこの時期になれば丸ごと一匹買って来ても売り切れたもんだが……最近は大して仕入れてないのに売れ残っちまって。バラで買ってきてる分、儲けも少ないっていうのによー」


 大量に仕入れた方がコストが安くなる、という鉄則はこの世界でも変わってないらしい。


「いいなー、昔の人は。リーリャも丸々一匹使って料理してみたい」

「たぶん一人が丸ごと一匹買ったわけではないと思うぞ」

「でも昔、お父さんが解体してるの見た事ある」


 まあ君の親父さんは何百人用とかの食事作ってたんだろうからな……。

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