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城下町へ!

「うーん!良い天気じゃないかー!」


 リーリャと店を出た俺は、思いっきり伸びをして体をほぐす。

 時刻は十六時頃だろう。今の季節は春先に当たり、快適に過ごせる時期らしい。ずっと室内で書類と向き合っていたことも相まって、外の空気がとても美味しく感じられた。

 店内に篭っていたため気づかなかったが、どうやらお店は城下町へ続く馬車道沿いにあるようだ。馬車道だと判断できたのは土を固めて作られた道の上に蹄や車輪の跡が見て取れるからである。

 召還魔法なんてあるくらいなので一概には判断できないが、文明のイメージとしては近世ヨーロッパくらいだろうか。

 さらに店の周りを見渡すと、向かい側の通りにも何軒かお店が並んでいる。森を開拓して作られた場所なのか、道路に面している所以外は木々に囲まれていた。


 大通りに出て「あっち」とリーリャに示された方を振り向くと城壁に囲まれた街があった。壁越しにはベージュや桃色の屋根々々が見え、中でも一際高い石造りの建物はお城だろう。夕焼けを反射して輝く姿が幻想的で、思わず「わぁ……」と感嘆の息がこぼれてしまった。遠くからは控えめな野鳥の声が響き、まるでここが長年捜し求めていた故郷かのように錯覚させられた。


 一方、冷静になって反対を見ると、長く続く道と木々が見えるだけであった。お店があるこの場所は、前世で例えるとサービスエリアのような所と言えるだろうか。交易が発達してくれば有利な立地だと思うが、不景気と言っていたので往来はそう多くはないのだろう。


「歩いて二、三分で着く」

 辺りをきょろきょろしている俺を気に留める様子もなく、リーリャは街の方へ歩いていく。やっぱりマイペースな子だなー、と思いながらその後を追うのだった。


 城下町に着くと簡単な検問はあるようで、すぐさま門番と思しき屈強な男に話しかけられた。


「やあ、リーリャちゃんと……そっちの男は少し変わった格好だが、新しい料理人でも雇ったのかい?」


 しまった。全く気が回っていなかったが、良くも悪くも洋風居酒屋の勤務中に死んだので、そのときの服装のままだった。

 黒の長袖シャツに、普通のエプロンではなく下半身だけを汚れから保護するソムリエエプロンを着用。確かに今の俺をみれば、小洒落た料理人だと思うのも無理はない。

 まだ三人しか会っていないが、全員西欧風の見た目なので、順日本風の見た目も珍しいのかもしれない。


「料理人……?なんだっけ?」

「うーん、多少手伝えはするけど違うと思うな」


 まだぎこちないやり取りを見て、門番は怪しい視線を向けてくる。


「おいおい、大丈夫かい、リーリャちゃん?怪しい男じゃないのか?」

「大丈夫、怪しくはない」


 リーリャがはっきりした口調で否定する。堂々とした物言いに門番がひるんだ隙に、前世で培ったサラリーマンスキルを叩き込む。


「ご挨拶が遅れてすいません。堂前あきらと申します。知人の紹介でリーリャさん達のお店で働くことになりました。料理はあまり担当しませんが、会計などお店全体の運営に関わることを任せてもらう予定です」


 営業職ではなかったが、取引先との会合に何度も出席させられたせいで挨拶はお手のもの。昔は堅苦しくて無駄だと思っていたことが役に立つとは、人生何があるか分からんものだ。

 まあ、その人生は一回終了してるみたいだが。その辺の事情はかなりの特殊ケースだろうし、余計に混乱させたり、変な勘繰りを入れられるのもごめんなのでお茶を濁しておく。


「お、おお。そうなのか。疑って悪かった、よろしくな。」

「店頭に立つこともあると思うので、もしお越しの際はよろしくお願いします」


 俺にできる最大限の爽やかさで笑みを浮かべながら、街の中へと入って行った。

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