異世界転生(3)
張り切って「お店のデータが見たい」とシーラに頼んだのは良いが、動く気配がない。
不思議に思い見つめていると、徐々に恥ずかしそうな表情になりながら口を開いた。
「そ、その前に、どういった条件でこのお店を助けてくれるのでしょう?」
条件?あー給料ってことか。転生に浮かれて頭が回っていなかったが、新生活で生活資金も必要だし大事な問題だな。何も言われなければ無条件に引き受けている所だったが、わざわざ教えてくれるとは根が善良なのだろう。
「俺を召還したおばあさんは何て言ってたんだ?」
「えーと……そのー……」
これまではきはきと話していたのに急に口ごもる。何だ?相当言いづらい条件なのか?
もしかして、願いと引き換えに命を取るとでも勘違いしているのだろうか?
それかむしろ逆に、召還された俺は使い魔や奴隷のような待遇になるのだろうか?
ぶっちゃけ二人とも美少女なので下僕になっても新しい扉を開けそうだが、まだ特殊な癖を持つ人間にはなりたくない。
「おばあさんは、『男でよかったな。乳でも揉ませてやれば大人しくなるだろう』って言ってた」
「…………………………………………ほう」
「…………………………………………」
シーラからの冷たい目線が迫っていたので、逃れるように「ごほん」と咳払いをする。
「リーリャ、今度から”おばあさん”じゃなくて”ババア”って呼んでいいよ」
「わかった」
一瞬欲望に揺らぎかけたが、とりあえずババアが碌でもないやつだと分かった所で仕切り直しだ。
「この世界の給料事情とかは分からないけど、とりあえず当面の宿代と飯代くらいはもらえるとありがたいな」
俺の返答を聞いて、シーラはほっとしたように胸を撫で下ろした。
「父が使っていた部屋が空いています。料理については、飲食店なので賄いが出せます。お給金も少しは出せると思いますが……本格的にはお出しできるのは売上が回復してきたらになるかと」
「いや俺は全然その条件で構わないけど……いいのか?」
食と住を提供してもらえるなら、最悪給料は後回しでも大丈夫だろう。
業績回復を条件に働くことになるのだから、本格的に支払われるのは結果が出てからというのも頷ける。
だが、二人はどうだろうか?女性だけで暮らしていた所に謎の男が住み込むのは抵抗があるだろう。
俺の心配を察してか、シーラが優しい笑みを浮かべた。
「私たちが呼び出したんですから。当然です」
「うん、あきら、おっぱい求めてこなかった。信用できる」
あぶねえ、ババアの口車に乗ってたらホームレスになるところだった。
だが二人は信じてくれた。契約が成立したことだし、仕事にかからないといけないな。
「じゃあ、早速だけどさっき言った店の運用に関する書類をあるだけ持ってきてくれ」
「はい!」
話がまとまって上機嫌になったのか。初めてシーラが少女らしい笑顔を見せて、書類を捜しに向かった。
――さあて、鬼が出るか蛇が出るか。
大体の数字を予測しつつ、シーラの背中を見送るのだった。