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【ハイファンタジー 西洋・中世】

戦を終わらせた少女

作者: 小雨川蛙

 

 今から八十年程前に戦場で起きた奇跡を知らないものは居ない。

 数百年程前から続く西と東の戦争。

 その、最後にして最大の戦いだった。

 投入された兵士の総数は百万近くにも上り、雨のように降り注ぐ矢によって太陽は完全に姿を隠し、人々は傘の代わり盾を掲げて移動せねばならないほどだった。

 この戦を制した方が世界を支配する。

 そんな考え故に双方の陣営は一歩も譲らなかった。

 死者の数は数十万にも及び、遺体は埋める余裕もなくその場に放置された。

 遺体が散らばる戦場に疫病が流行り、さらに多くの人が死に……そして、それでも戦争は終わらなかった。

 終わらせられなかった。

 やがて、両陣営が「もしや勝者などこの戦いでは生まれないのではないか」などと考えていた頃。

 奇跡が起きた。


 史書は語る。

『神聖なる神の遣いが現れた』


 当時を生きた人々は語る。

「黒々としたローブを身に纏った少女が現れた」


 史書は語る。

『神聖なる神の遣いは戦場の様に嘆き、人々に戦を止めるように声をかけた』


 当時を生きた人々は語る。

「おぞましき少女は戦を止めるように言ったが『別に続けても構わない』とも言った」


 史書は語る。

『彼女は神聖なる奇跡により、死した人々を甦らせそのまま黄泉の国へ下った』


 当時を生きた人々は語る。

「彼女は身の毛もよだつ禁術により、死した人々を甦らせそのままいずこかへ消え去った」


 史書と当時を生きた人々は共に語る。

「『彼女の存在が戦を終わらせた』」


 史書は語る。

『神の遣いの言葉を双方受け入れて戦は終わった』


 当時を生きた人々は語る。

「あの死者たちが自分達に牙を向けるのを恐れて、私達は戦を止める他なかった」


 そして、今。

 私の目の前で退屈そうに欠伸をしながら老女が言った。

「私みたいなネクロマンサーが戦を終わらせるなんて、あの戦は本当に馬鹿げたものだったとしか思えんよ」

 彼女の城の外では虚ろな目をした物言わぬ死者達が今日も彼女の命令通り働いていた。

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