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80話:実家

「休みだってのに忙しないわねあんたらは」

「いやー、ヒカリさまさまです! 鞄ありがとう!」


 ひかりとプラムの相部屋に戻り。

 事のあらましを説明してもらって呆れ返るプラムと、鞄を取り返してくれたひかりに感謝するリーゼロッテだった。


「あ、プラムさん。これ、ケーキです、よろしければどうぞ」

「お、気がきくじゃない。いただくわ」

「あぁ〜、本当は私が奢るつもりだったのに〜。お金さえ抜き取られてなければ……!」

「あ、いえ、お店はリーゼロッテさんに教えてもらったおかげですので!」


 とりあえずケーキ箱を受け取り、プラムは上機嫌のようだった。

 リーゼロッテがケーキの代金を出したがっていたが、鞄からお金が抜き取られてしまっていては仕方がない。

 ひかりも十分お金はあるので、ケーキぐらいは奢ることにした。


「お金の方は、ウォルフさんて方がなんとかするとか言ってましたし……」

「うあ〜、実家に面倒かけたくないよ〜!」

「あんたの実家ってどこ?」

「秘密!」


 リーゼロッテの言う実家がどこなのかは分からないが、とりあえずどこかの商会なんだろうなと、ひかりは想像した。


「そうそう、プラムさんに相談が」

「ん〜? ケーキ分ぐらいの相談ぐらいなら乗ってあげるけど」


 ひかりの相談事に、早速ケーキの箱を開けながらプラムが答える。

 ひかりは昼間の路地裏でのやりとりを振り返って、話をする。


「わたし、鞄盗んだ人に対して何もできなくて……。何か、人を怪我させずに気絶させる魔法とか、ないでしょうか……」

「んー、気絶とか混乱とかさせたりするのは、本来なら精神系統の魔法ね。でも精神系統はねぇ、違法な魔法が多いから、学ぶのが割に合わないのよ」

「そうなんですか?」


 プラムの回答に、ひかりが疑問符を浮かべる。

 そんなひかりに、プラムは話を続ける。


「精神系統の魔法は、基本は相手の頭を混乱させる魔法から始まるの。そっからの派生で、相手の精神に干渉したり、記憶を弄ったり、奴隷のように従わせたりする魔法があるんだけど、ほどんど違法だから、教えてもらえない。学ぶにしても、無駄が多いのよ」

「なるほど……」

「嘘感知ぐらいかしら? まともに使えるの。だからこっち系統は、おすすめしない」


 言いながらプラムは、魔法でフォークと皿とケーキを宙に浮かせて素早く並べ、早速食べ始めていた。

 プラムの傍でリーゼロッテが、すごいすごいと目を輝かせている。


「だから、動きを封じたいなら、肉体系統で麻痺させるとか、氷系統で足ごと凍らせるとかかしらねぇ」

「私得意ですよ! 氷魔法なら!」


 そんな解説に、リーゼロッテが大きく胸を張ってそう言った。


「水の精霊憑きなんで、水や氷の魔法は得意なんです!」


 リーゼロッテがそう言うと、彼女の周りに、水の水球が浮かび始めた。

 水球は小さいもので、3つ、4つと数を増やしていき、彼女が水を操れるとアピールしていた。


「精霊憑きならね。ヒカリは精霊憑きじゃないから、地道に勉強するしかないわね」

「なるほど〜」

「な、何か教えられるような事があれば……」

「無いんじゃない? 精霊憑きは基本、本人の感覚だけで操るものだから。そも精霊がいないとマネできないし」

「ううう……」


 リーゼロッテなりに何かしたかったようだが、結果は空回りに終わってしまった。

 プラムはケーキを食べて、満足げにしている。


「ま、真面目に少しずつ勉強しなさいってことね。魔術は努力よ、近道なんてないわ」

「3年勉強すれば、プラムさんみたいになれますか?」

「あたしの場合は物心ついた頃からだったから。10歳まではずっと勉強漬けだったし。そっから3年鍛えたって感じね」

「そんなに!?」


 プラムの経歴を聞いて、リーゼロッテが驚いていた。

 ひかりはイストからだいたいのあらましは聞いていたが、それでも改めて聞くと凄まじい経歴だなと思った。


「う〜ん、3年で、プラムさんみたいにはなれないのか……」

「なる方法なら、ないでもないわ」

「本当に!?」


 リーゼロッテのぼやきにプラムがそう答えると、当然ながら彼女は食いついた。

 が、返答内容は、おおむねひかりの予想通りだった。


「それはね……愛よ」

「……愛?」


 ぽかんとするリーゼロッテに、したり顔でプラムは続ける。


「胸の内に愛があれば、毎日何時間でも勉強できるし、苦手な運動も頑張れるってわけ。実際あたしがここまで魔術を使いこなせるのも、まぁ元々勉強してたのもあったけど、学校入ってしばらくしてからだからね。2年間で爆発的に伸びたのよ」

「そ、そうなんですね」


 リーゼロッテは、ちょっとたじろいでいた。

 流石に愛はそう簡単に手には入らない。

 愛の力で勉強を頑張るのは、すぐにできることではなかった。


「ま、人への愛じゃなくても、魔法への愛着とか、家族愛とかでもいいんじゃないかしら? もしくは、まだ見ぬ未来の旦那様とか」

「うーん、うーん。わたしは結婚相手は実家が決めるだろうしなぁ……」


 リーゼロッテがそうぼやいたのを聞いて、プラムはズバッと聞いた。


「あんた貴族?」

「いや……。まあ……別に言ってもいいか。とある商会生まれの、長女なんですよ、一応」

「なるほど」


 リーゼロッテの話にひかりは納得した。やはり商会生まれののご令嬢らしい。

 平民にしてはお金持ちなわりに、貴族にしては気さくなのも、それなら頷けた。


「実家は超優秀な弟が継ぐから、私は貴族との繋がりのための、政略結婚の材料にされそうなんで……」

「なんか……かわいそうですね……」

「そーなの! 貴族と結婚できるからいいでしょとか言われるの! 良くないって! 相手の年齢も容姿もわかんないのに!」


 ひかりが同情すると、リーゼロッテはヒートアップしてそう語った。

 プラムはあんまり興味なさそうに、ケーキを食べている。


「そんなに嫌なら、家から自立すればいいじゃない」

「それができれば苦労しないよ〜! 学費も生活費も実家持ちだもの!」


 リーゼロッテはそう言うが、プラムは淡々と話を続けた。


「いーい? 良いとこに嫁ぎたければ、自分をピッカピカに磨いて、親にも好かれることよ。そうすればあんたの両親も、そのへんのボンクラ貴族に嫁がせるような真似はしないでしょうよ」

「な、なるほど……?」


 フォークでリーゼロッテを指して、プラムはさらに話を続ける。


「自由を得たければ、自分磨きはかかせないのよ。自己愛を持ちなさい。誰にも渡したくないぐらいに、自分自身を好きになるのよ」

「なるほど……!」


 プラムの言い分はある意味極論ではあったが、リーゼロッテには響いたらしい。


「私、もうちょっと頑張ってみます!」

「がんばりなさいな。あ、ケーキごちそうさまー」


 リーゼロッテの意気込みを聞きながら、3人の休日は過ぎていった。


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