76話:更衣室
大浴場前の更衣室。
二人は服を着ながら、話し合いをしていた。
「びっくりしたよ。まさかローズマリーさんとは」
「ご、ごめんなさい」
別にやましいことはないのだが、隠れていたのが見つかってしまうとバツが悪い。
ひかりが萎縮していると、リーゼロッテは笑って答えた。
「別にいいよー、女の子なら。けどなんで隠れてたの?」
「特に理由があって隠れてたわけじゃなくて、ただなんとなく一人になりたかったので……」
とりあえずそう答えておいた。
嘘はついていない。結局有力な情報は手に入らなかったし、一人になりたかったのも本当だ。
代わりに、リーゼロッテの特異な才能が明らかになったのだが。
「私は精霊憑きってやつでねー。水の精霊ウンディーネ様に好かれてるの。多分ローズマリーさんは姿を消したままお風呂に入ってたんだけど、精霊視点では、そこに人一人分の窪みが見えてたんだって。だから、誰か姿を隠してるってのが分かったの」
「な、なるほど〜」
精霊憑き。
ひかりは詳しくは知らないが、そういう人間がいるらしい。
隠密999のひかりでさえも、水に入っていれば、精霊視点ではそこに空洞が見えてしまうらしい。
目視や《サーチ》ではそんな空洞は見つからないのだが、そんな落とし穴があるとは夢にも思わなかった。
「差し支えなければ教えて欲しいんだけど、ローズマリーさんはどうやって姿を隠してたの? 魔法?」
「ま、マジックアイテムです……」
ひかりは嘘をついた。
もし万が一、隠密がバレた時には、そう嘘をつくように事前に打ち合わせていた。
リーゼロッテは、うーん? と首を捻った。
「マジックアイテムを、お風呂に持ち込んでるの? 見た感じ、そんなマジックアイテムは見当たらないんだけど」
「と、透明な指輪なんです。持ち主以外には触れることもできない、です」
これまた、事前に打ち合わせていた嘘をひかりはついた。
リーゼロッテは、一応納得したのか、ふむふむと頷いた。
「なるほどね。すごいアイテムだー。持ち主が女の子で、よかったよ」
リーゼロッテは覗きを警戒していたらしいので、そんな回答をした。
気の抜けた表情をしていたので、ひかりも気が抜けてほっとした。
そこに、追撃が来る。
「もしかしてローズマリーさんも、転生者?」
「え……!?」
その質問に、思わず、息を呑んだ。
どこからそんな発想が出てきたのか、何故転生者のことを知っているのか。
ひかりが混乱していると、リーゼロッテは話を続けた。
「やー、私、最初からローズマリーさんと仲良くしようとして、一人の時に声かけるつもりだったんだよね。けど授業後に声をかけようとしても、何故か見つからなくてねぇ」
「そ、それは……」
ひかりは授業後に、隠密999をオンにしている。偵察のためという名目だが、人見知りしているというのもあった。
それが、裏目に出たらしい。
リーゼロッテは、ローズマリーが全然見つからない事に、疑念を覚えていたようだ。
「アオイさんは見た目で転生者と分かるとして、一緒に転入してきたローズマリーさんはどうなのかな? って思ってたんだよね。見た目こそ普通の女の子だけど、わざわざ転入生として選ばれたんだから、何か特技とかあるのかな? って。で、全然姿が見つからないから、もしかしたらって思って」
リーゼロッテは一気にそう言い切る。
わずかそれだけの情報から、ひかりことローズマリーを転生者と言いあてたらしい。
ひかりとしては、風呂上がりなのに冷や汗をだらだらとかいている心地だった。
「あ……その……」
「そしてアオイさんは私に、わざわざ他の黒髪の生徒の事を聞いてきた。察するに、二人は例の変死事件を探りにきた、学校側からのスパイ……!」
言い淀むひかりに、リーゼロッテはますます詰め寄って行く。
ひかりは目を白黒させた。
リーゼロッテの推理は、アオイが転生者ではない事以外は、見事に当たってしまっている。
周囲に人はいない。
ひかりは観念した。
「ど、どうか、内密に……」
「なーんて推理してみたけど、流石に話が飛躍しすぎ……あれ?」
「あ……」
どうやら、完全に当てずっぽうの推理だったらしい。
ひかりは魂の抜ける心地であった。




