74話:愛
「はぁーーー……疲れた……」
「お疲れ様です……」
また一日が終わり。
限界まで動いて疲れ切ったプラムが、ぐったりとした様子でベッドに倒れ込む。
汗だくだったので、二人はすでに宿舎内の大浴場で風呂に入り、寝巻きに着替えていた。
「剣術授業、久しぶりすぎて忘れてたけど、そうだ、こんな地獄だった。次からサボろう。そうしよう」
剣術授業の基礎体力作りで死にそうになっていたプラムは、ぶつぶつとそう呟く。
よほど堪えたらしい。ひかりは苦笑した。
結局、クラウンなる生徒との剣勝負は、プラムの圧勝だった。
というか、剣術においてプラムに一撃でも入れられた生徒はいなかった。
プラムはなんのかんの言いつつも、剣の腕も真っ当に磨いていたらしい。
剣術授業は、学校に通っていたプラムにとっては復習に過ぎなかった。
ゆえに、体力が全然ないのが悔やまれた。
「プラムさん、魔法も剣もできて、すごいですね……」
「でしょー? まあ剣術を真面目に練習し始めたのは2年生からだったけど」
プラムはそう語る。
エイボン魔法学校は、3年間で卒業することになる。体力にハンデを抱えながらも、わずか2年以内であそこまで剣技を磨いたとなると、さらにすごいことであった。
「もしかして、2年生の時に、ローランドさんに会ったんですか?」
「わっかるぅ〜?」
ローランドの話になった途端、満面の笑みでひかりに向き直るプラム。
よほどローランドの話が好きで、本人のことも愛しているのだろう。
あからさまに見て取れて、ひかりもつられて笑みを浮かべた。
「2年生の時にねえ、5対5のチーム対抗戦があったのよ、魔法使い同士のね」
プラムは2年生の時の思い出を語り始めた。
チーム対抗戦は、2年生、3年生の時に行われる、学校の競技だ。魔法使いとして、5対5で競い、成績にも反映される。
「そんときのチームがねぇ、あたし、ローラン、イスト、シーリー、テティスの5人だったわけなんだけどさー」
思わぬ形で、あの5人の名前が出てきた。
イストにシーリー、領主のローランド、それに1級冒険者のテティス。全員知った名前だ。
プラムを含めたその5人なら、チームとしては無敵だろうなとひかりは思った。
「対抗戦3日前にあたしが風邪引いてねぇ、薬でもなかなか治らなくって、あたしだけ対抗戦出られなかったのね」
「え……」
プラムが風邪で、対抗戦を欠席。
それは、チームの最大戦力が抜けて、4対5で戦わねばならなくなる事を意味する。
下手をすれば、休んだ当人のせいにされかねない。
ひかりは話の内容に、少しぞっとした。
「あたし風邪引いたら1週間は治らないからさぁ、そのまま寝込んでたのよ。そしたら、ローランが見舞いに来てくれてね。ほとんど話したことのない、顔と名前ぐらいしか知らないあたしにね」
ちょっと遠い目をしながら、噛み締めるように語るプラム。
当時の事を思い出しているのかもしれない。
「いろいろ話したわよ。あたしが出られれば絶対勝てたはずとか、こんな時に風邪引いて悔しいとか、もーーーいろいろよ!」
口ぶりからすると、対抗戦は負けたようだ。
確かに、それは悔しいだろう。
「けどずーーーっと話聞いてくれてねぇ。まだまだ見返せる、見せ場はいくらでもあるって、励ましてくれてねぇ」
にっこにこでそう語るプラム。
いかにも楽しげで、ひかりもつられてにこやかになる。
「その後ローランが見舞いから帰ってから、急に、あーーーこの人好き!! って思ってね。もう、惚れちゃったのよ!」
それが、彼女がローランを好いた理由らしい。
恋バナはいつでも楽しい。ひかりはうんうんと頷いて話を聞いていた。
「良いですね、そういうの」
「もーーーそれから、彼に相応しくなれるよう頑張ったのよ! 苦手な剣術も特訓して、勉強も何倍も頑張って、化粧とか料理とかも覚えて〜」
「本当にすごい……」
ひかりには、そこまでする自信はない。
プラムの愛の力が、そこまで徹底して自分磨きに当てられるのは、素直に尊敬した。
「あたしよく人とトラブるんだけど、それも抑え気味にしてね、とにかく、ローランに相応しい淑女を目指したわけ!」
プラムが熱心にそう語る。
確かイストとシーリーも、プラムの性格が丸くなったと語っていた。
ローランドの存在が、良い影響を及ぼしたのだろう。
破天荒で自由人な性格だが、それでも良い子になっていったらしい。
「というわけで、学校生活を頑張りたければ、愛する人を作ることよ! 愛があれば、人は人のために死力を尽くせるのよ!」
プラムは堂々とそう宣言した。
ちょっと極論がすぎるなとひかりは思ったが、現にプラムは成績優秀。
否定する材料もないので、ひかりは一応、頷いた。
「愛する人はまだできそうにないですが、勉強はもっと頑張ってみます!」
まだあまり授業について行けていないひかりは、そう言った。
プラムの話を励みに、勉強を頑張ることにした。
すると、プラムは意外なことを言い出した。
「せっかくだから、あたしがちょっとは教えてあげる」
「え!?」
ベッドから降りてひかりに向き合うプラム。
彼女が指差すと、魔法で鞄から勝手に教科書が飛び出して、ひとりでにページをめくる。
「前やったのが確か72ページまでの基礎部分だったから、明日からは新しく応用問題が出てくるわね。初心者がいきなり全部覚えるのはきびしーーーから、明日から出てきそうな公式と解き方だけ教えたげる!」
「あ、ありがとうございます!」
思わぬ形で助けてもらう形となったひかり。
プラムはとにかく勉強はできる。
魔法使いには理論派と感覚派があるが、プラムは圧倒的に理論派なのだ。魔術という学問においては、教師よりも詳しい。
気分さえ向けば、簡単な勉強を教えるぐらいはできるらしい。
「勘違いしないでよ、あたしの目的は、あくまでもローランのため! この事件をさっさと解決して、褒めちぎってもらうんだから!」
なんのかんの言いながら勉強を教えてもらい、二人は賑やかに夜を過ごした。




