表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/80

73話:剣術授業

 別の日、剣技授業。

 エイボン魔法学校では、魔法だけではなく剣術も習う。

 最低限の護身術を学ぶためでもあり、また剣術を重点的に習いたい生徒は、選択授業でそちらを中心に学ぶこともできる。


 さて、剣術授業だが、いわゆる体育としての側面も持つ。

 剣を振るためには、まずは基礎体力が必要だ。


「まずは運動場5周! それから剣の素振りだ!」


 生徒一同は、剣術教師の指導のもと学校にある運動場を走らされていた。

 皆制服ではなく、シャツに短パンの運動着である。

 季節は初夏、皆汗をかきながら、必死に運動場を走っていた。


 その中で、圧倒的に皆から遅れている生徒がいた。

 アオイ=ハセガワこと、プラムである。


「ぜぇ……ぜぇ……」

「プラ……アオイさん、大丈夫ですか?」

「ぜぇ……ぜぇ……先行ってなさい……」


 周回遅れになっているアオイに、ひかりが心配そうに声をかけるが、明らかに息も絶え絶えだ。

 ちなみにひかりは高い敏捷とそこそこの体力により、かなり足が速いのだが、目立ってはいけないので、生徒の中での真ん中ぐらいを維持していた。

 それでも、アオイを一周分追い抜かしていたのだが。


「あの子、体力ないのね」

「成績いいのは魔法実技だけか」

「そこ! 無駄口叩いてる暇があったらスピード上げる! 周回数増やすぞ!」


 他の生徒がそう囁いているが、教師が叱咤する。

 ともかく、他の生徒が運動場5周を走り終えた後で、アオイはまだ3周半ぐらいだったので、教師は4周でアオイを切り上げさせた。


「アオイさんはもう少し基礎体力を付けるように。次! 剣の素振りだ!」


 今度は人数分の木剣が配られ、教師の手本通りに木剣の素振りが行われる。

 ひかりは剣を使った事がないので、慣れない木剣に四苦八苦していた。

 一方で、まだ息を切らしていたアオイは、綺麗な姿勢で剣の素振りをしていた。

 その様子を見ていた教師が、アオイに向かって声をかける。


「アオイは剣術を習っていたのか?」

「はぁ、はぁ……実家で、少し……」


 目線を向けないまま、木剣の素振りを繰り返すアオイ。

 彼女はすでにまったく同じ学校を卒業済みなので、剣術指導はすでに受けている。


 実は、身体強化の魔法さえ使えば、アオイも他生徒以上の動きはできる。

 しかし剣術授業では魔法は使用禁止なので、それは使えない。

 基礎体力が貧弱なアオイは、ふらふらになりながらも、とりあえず木剣はまっすぐに振れていた。


 長い長い剣術授業という名の基礎体力作りが終わり、アオイは休憩中に水を飲んでため息をついた。


「し、しぬかと思った……」

「お疲れ様です」


 ひかりことローズマリーが隣に座って、一緒に休憩をする。

 ローズマリーとアオイはルームメイトなので、一緒にいても不自然ではないだろう。


「剣術指導はね……体力半分のあたしには地獄だわ……」

「確か……そういうギフトなんでしたっけ」

「そうよ、生命力と体力半分。もしこの水に毒でも入れられてたら、普通に死ぬわ。あ、でも今は毒無効の指輪があるから、死なないけど……」


 想像以上に大変な体質のようで、ひかりは同情した。

 しかしアオイは、ぐっと拳を握りしめて言う。


「でもこの苦労も、ローランのため。彼のためなら苦労は苦行ではないわ」


 キラキラした表情でそう語るアオイ。

 彼女はよほど、ローランドを好いているようだった。


「好きなんですね、ローランドさんが」

「そりゃーーーもうね! 彼のためなら嫌いな学校だって通えるわ!」


 そう力説するアオイことプラム。

 どうやら異世界でも、恋する乙女は無敵らしい。


「本音を言うと、早く帰って甘えたいなー。そういえば埋め合わせしてくれるって言ってたし、何お願いしようかなー。やっぱ1日デートかなー。いやもう少し踏み込んで……」

「休憩終わり! 全員集合!」

「チッ、もうかぁ」


 休憩時間が終わってしまい、彼女の妄想は途中で途切れてしまった。


 授業は後半、剣術の実戦試験に入るところだ。


「まず二列に並べ! 木剣で対面の相手と実戦練習を行う! 1分戦った後に、二列目をずらして、対戦相手をローテーションする! 頭を狙うのは禁止! 倒れた相手を攻撃するのも禁止! 打撲は魔法で治せるが、相手に打撲以上の大怪我をさせたらペナルティ! 以上! 他質問はあるか!」


 ざっと一対一の剣術訓練の内容が語られる。

 1分ごとに対戦相手が変わるようだ。

 アオイの体力が心配だなと、ひかりは思った。


「では一本目、初め!」


 いざ、一対一の練習が始まる。

 ひかりは近接戦闘のスキルを持ってはいるが、剣は初めて扱う。

 対して他の生徒たちは、剣術の授業は何度か経験済み。

 結果、ひかりことローズマリーは、全敗した。

 何度も木剣で叩かれてアザができ、教師に治癒魔法をかけて貰いながらなんども戦った。


 一方で、アオイの方はというと。


「くっ、このっ!」


 アオイと手合わせている生徒が、大苦戦していた。

 アオイは素の体力こそはないが、剣術は一流だった。木剣で斬りかかる対戦相手を、軽くあしらっている。

 1分という短い時間であれば、相手を圧倒できるらしい。

 一度も斬りかからず、かつ一撃も受けないまま、1分を凌ぎ切っていた。


 そして次の対戦相手に切り替わると。


「げ」

「フフン、調子に乗っているようだな平民が」


 アオイの次の相手が、貴族のクラウンだった。アオイは顔をしかめる。


「魔法は随分と得意なようだが、体力はまるでないらしいな。この俺直々に、本物の剣術というものを見せてやろう」

「いや、別に……」

「賭けをしよう。勝った方が負けた方の言うことを一つ聞くというのでどうだ?」

「いや、やらないけど」

「フン、逃げるつもりか?」


「そこ! 私語は慎め!」


 喋っていたので教師に注意される。

 アオイとクラウンは、改めて剣を構えた。


「では始めるぞ、賭けのことを忘れるなよ」

「だからやらないっての」


 そのやり取りを皮切りに、二人の剣が交錯した。


 そして。


 カアンッ!


「ぐあっ!?」


 勝負は一瞬だった。

 アオイは一撃でクラウンの右手を木剣で正確に狙い、強烈な打撃を与えた。

 彼は右手の指の骨が折れたらしい。木剣を取り落とし、右手を押さえてうずくまった。


「く、クソ、平民風情があぁぁ!」


 クラウンは苦痛よりも、怒りが勝っているらしい。憎しみを込めた目で、アオイを睨みつける。

 アオイ本人は、ふん、と鼻を鳴らして木剣を下ろす。


「おい! 平民教師! すぐに手を治せ!」

「クラウン! 貴様は目上の者に対する礼儀がなっていないな! ここでは貴族だろうがいち生徒に過ぎん! 減点対象だ!」


 結局、治療を受けるのに時間がかかり、クラウンとアオイとの1分間の戦いは、アオイの圧勝で終わるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ