表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/80

71話:情報整理

「うーん……やっぱり難しい」


 翌日の夜、ひかりは再び難しそうに教科書とにらめっこをしていた。

 二人はまた変装して、アオイ=ハセガワと、ローズマリー=オリーヴとして授業を受けていた。

 算術の授業は、掛け算割り算レベルで、元中学生のひかりには簡単だった。歴史の授業などは、今から勉強するのでも十分に追いつけそうではある。

 しかし魔術関連の授業については、一度遅れてしまうとついて行くのが難しかった。


 悩んでいるひかりに、プラムが頬杖をつきながら言う。


「ねーねー、当初の目的は忘れてないわよね」

「うっ……その……」


 ひかりは言い淀んだ。

 別に忘れているわけではない。

 ただ内部の事情を、どう探ればいいのか分からないのだ。


「正直な話……どうやって情報収集すればいいんでしょう? まさか怪死事件を追っていると、周りに言うわけにもいきませんし……」


 ひかりが正直にそう言うと、プラムもうーんと頬杖を付きながら言った。


「まあ確かに、無闇に聞き込みをするのもなんだし、隠密でしらみつぶしに探すのも限度はあるわよね」


 怪死事件の調査方法については、ひかりとプラムに一任されている。

 しかし、具体的に何をどうすればいいのかは、ひかりにはわからなかった。


「多分長期的に潜り込んで、気長に手がかりを探せってことよねぇ、はぁぁ……」


 プラムがそう言ってため息をつく。

 彼女はさっさとローランドの元に戻りたいのだろう。

 先の見えない任務に、プラムは面倒そうにしていた。


「ええい! とりあえず状況を整理するわよ!」


 プラムはそう言って、事件のあらましについてまとめ始めた。


「事件は約1ヶ月前、二人の生徒が死亡した。名前はアキラ=カミジョウと、サオリ=タカハシ。アキラ=カミジョウは魔術において高い成績を出し、サオリ=タカハシは精霊魔法においてこれまた高い成績を出した」


 指を立てながら、プラムがそうまとめる。

 被害者2名。

 アキラ=カミジョウ、男子、18歳。

 サオリ=タカハシ、女子、16歳。

 どちらも1ヶ月前、1日差で死亡している。


「死因は不明。死体には傷なし、毒や病気の痕跡なし、深夜帯に寮内の自室で死亡。ルームメイトによると、部屋に入ってきた侵入者や、部屋で大声を出したりした様子はなし。夜中に静かに死んだみたいね」

「よ、よく覚えてますね」

「このぐらい暗記できるわよ」


 被害者および周りの情報を詳しくまとめた書類は、持ち出し禁止とのことで全て頭に入れておけと言われていた。

 ひかりも別に忘れていたわけではないが、情報を淀みなく喋るプラムに、ひかりは驚いた。


「問題なのはこっから。二人とも、おそらく転生者。この事から、転生者を狙った『プレイヤー』の可能性があるということ」

「……『プレイヤー』のルールについて、知っているんですか?」

「いまさら? お義父さまに教わったのよ。転生者は人並外れたスキルと複数のギフトを持ち、それから転生者……つまり『プレイヤー』同士で殺し合うと高得点が貰えるルールがあるとかなんとか」


 プラムも、転生者と『プレイヤー』にまつわるルールを把握しているらしい。

 ひかりに転生者の話を持ちかけたことも聞いているだろうし、ひかりが転生者だというのもバレているだろう。

 それを踏まえて、アオイ=ハセガワとして囮になっているのだ。考えてみれば、当然かもしれない。


「話を戻すわよ! だから『プレイヤー』による他殺の可能性があるってわけだけど、あくまで可能性。単純にそうだとは言い切れない理由はある。それはなんだかわかるかしら?」

「ええっと」


 ひかりはあまり頭の回る方ではないので、押し黙った。

 10秒ぐらいしたら、痺れを切らしたのかプラムが正解を教える。


「理由は単純よ。わざわざ学校の寮内にまで侵入して、成績優秀な転生者二人を殺す必要がある? もっと戦闘向きじゃない転生者を狙えばいいんじゃない? ってこと」

「な、なるほど……」


 ちょうど“黒髪狩り”がやっていたように、初心者『プレイヤー』の初見殺し。

 それができるなら、わざわざ強い転生者を狙う必要はない。ついでに言えば、すぐ隣で寝ているルームメイトは殺されていない。殺してしまえば、口封じ兼ポイント稼ぎになるだろう。

 となると、『プレイヤー』の仕業とは考えづらい。


「もう一つ考えられるのは、魔法を独占したい貴族たちによる嫌がらせ。平民向けの魔法学校の生徒が死ねば、そちらの信用はガタガタになる。成績優秀な生徒が殺されたのも、一応納得はいく」

「なるほど……」


 そちらの線は考えていなかった。

 平民向けの魔法学校は、これまで魔法を独占してきた貴族たちにとっては、許し難い存在らしい。

 だから生徒を死なせる事で、信用を落とそうとしたのかもしれない。


「ただこっちはこっちで、腑に落ちない点はある。ピンポイントで転生者二人を殺せるかしら? 転生者は人並外れたスキルがあるし、殺すなら普通の生徒でも充分信用は落とせる。わざわざ転生者を狙った理由は? って点が問題ね」

「なるほど〜」


 ひかりは、すっかり聞き入っていた。

 犯人を探すだけなら、プラム一人でも充分かもしれないと思うほどだ。


「あと考えられるのは……。怪我、毒、病気以外での、転生者だけの突然死。ヒカリ、あんたも転生者なのよね? なんか心当たりはない?」

「な、ないです……」


 怪我、毒、病気以外で、転生者の、元日本人が死ぬような現象。

 急な心臓麻痺ぐらいしか思いつかないが、16歳17歳でそれはないだろうと、ひかりは候補から弾いた。


「うーん、手詰まりねぇ」


 プラムは腕を組んでそう言った。

 実際、これだという候補がない。

 これ以上の案は、出てきそうになかった。


「地道に調査するしかないってことねぇ。時間はかかるかけど、しょうがないかぁ」

「そうですね」


 すぐに辿り着けそうなとっかかりがない。

 潜入捜査は、それなりに長期のものになりそうだと予測された。


「とりあえずあたしは、まっっったく気乗りしないけど、明日から死んだ二人について聞き込みしてるわ」

「わ、わたしも、がんばります」

「あんたはいいのよ、目立っちゃいけない枠なんだから。代わりに、授業後は隠密したままあたしを尾行しなさい。あたしを尾行してるような奴を逆に炙り出すのよ」

「な、なるほど」


 そう諭されてしまった。

 確かにひかりの隠密999があれば、誰にも見つからずに尾行し、プラムの後を付けようとしている相手を特定できるかもしれない。

 理にかなっていた。


「明日から実技授業だから、あたしはとにかく目立つわ。逆にあんたは、あくまで目立たないように行動なさい」


 行動指針が決まり、2日目の夜は過ぎていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ