70話:潜入捜査
「あーーー! つっかれた!!」
アオイ=ハセガワことプラムが、変装の魔法を解いて、本来の茶髪に戻りながらベッドに倒れ込んだ。
「お、お疲れ様です……」
ローズマリー=オリーヴことひかりも、変装魔法を解かれて黒髪に戻る。
変装魔法は、自分や他人の見た目をある程度変化させられる。
変装魔法は一定時間維持すると消えてしまうのだが、ギフト持ちのプラムは24時間寝ててもぶっ続けで維持できる。
今変装を解いたのは、ひかりとプラムの二人部屋までやってきたからである。
そう、二人は魔法学校の寮内で生活する。二人部屋なのでルームシェアというやつだ。
二人はここから学校に通い、魔術に関する授業を受けながら、例の変死事件に対応する手筈となっている。
アオイ=ハセガワと、ローズマリー=オリーヴの名前は、用意された偽名だ。
予定通り、プラムが黒髪で転生者っぽく振る舞い、ひかりは地味な生徒として、隠密を駆使して学校を探る。
それが、当面の目標であったが。
「初日から質問攻め! きーつーいー! 授業も知ってるやつばっかりだし! めんどくさいー!!」
ベッドでジタバタしているプラム。
黒髪の転入生というだけあって、クラスでは相当話題になり、プラムは休憩時間には囲まれて質問攻めを受けていたようだ。
一方でひかりに話しかけてきた人は、僅か。いずれもひかりが人見知りを発揮して口籠もると、飽きてどこかへいってしまった。
プラムは卒業済みであるから、授業内容も飽きるのだろう。
ひかりはひかりで、授業の内容に全然ついていけなくて困っていたりしたが。
「大変そうですね……」
「もー! 大変よ! だいたいローランのいない学校なんて、価値ないし!」
ゴロンとベッドに仰向けになって、ふーっとため息をつくプラム。
養父の前での殊勝な態度はどこへやら、すっかりわがまま娘へと戻っていた。
「あー、ローラン大丈夫かなー。暗殺者とか来てないのかなー。心配だなー。心配してくれるかなー……」
ベッドをゴロンゴロンと転がりながら、そんなことを呟いているプラム。
ひかりは苦笑しながら、魔術の基礎についての教科書を取り出した。
「わたしは、少し勉強してます」
「密偵の仕事は?」
「まず授業についていけないと、学校にいられなくなるかもしれないので……」
ひかりに求められている仕事は、隠密を生かした学校内の情報収集だ。
だが、そもそも成績が悪ければ退学もあり得るのがこの学校。勉強はきっちりしなければならない。
ひかりは、勉強は嫌いではない。
むしろ、魔術の勉強ができることに、少しだけワクワクしていた。
何せ学校での学費も教科書代も寮の支払いも、校長が全て手配してくれているのだ。
実質タダで魔法を学べるのだから、ひかりとしてはそう悪い話ではなかった。
「いーけど、仕事も忘れないでよ。事件の真相さえ明らかになったら、さっさとおさらばするんだから」
「わ、わかりました」
釘を刺されて、背筋を伸ばすひかり。
それでも改めて、教科書をめくりはじめた。
(魔術はスキルを振っているから使えるけど、勉強するのは初めてだなぁ)
ひかりの魔術スキルは24あるので、とりあえず基礎はできているのだが、その理論を文書に書かれると、かなり難しかった。
もし魔術0だったら、一から学ぶのは相当厳しかったかもしれない。
それと四属性魔法もイストに教わったので、そちらも基礎だけはわかっていた。
途中参加で、授業についていけるかは、ギリギリと言ったところだ。
「む、難しい……」
「がんばってねー、あたしは寝るから」
全然応援していない様子で、プラムはごろんと寝に入る。
ひかりは一人、教科書をめくりながら魔術について勉強をし始めた。




