69話:学校の依頼②
転生者ということがバレている。
ひかりは何故かと思ったが、理由は酷く単純だった。
「こちらの学校の教員に、転生者が居てね。なんでも独特な名前の響きだけで、見分けがつくらしい。あとは黒髪が目印だな」
やはり本名で登録したのが不味かったらしい。
転生者がいれば、ヒカリ=カゲハラを日本人の名前だと見抜くのは難しくないはずだ。
「ヒカリ=カゲハラさんは、実はこちらでもマークしていてね。転生者であると判断して、色々と経歴を調べさせてもらった。虫使い絡みでは、随分と活躍したようだな」
「そ、それは……」
まさか領主やイストたちがばらした訳ではないだろう。相当な情報通のようだ。
「しかし、追跡していたこちらの密偵が何度か撒かれている。何かしら、潜伏するスキルやマジックアイテム、もしくはギフトを持っていると見た」
「……!」
いつの間にか密偵にマークされていたらしい。ひかりは全然気づかなかった。
そして気づかないうちに、撒いてしまっていたらしい。隠密999のなせる技だろう。
「今回はその能力を見込んで、潜入捜査を依頼したい。学校に一般生徒として、潜り込んでもらい、内部から犯人や原因を探って欲しい」
アレキサンダーの目は、ひどく真剣で鋭いものだった。
ひかりが口ごもっていると、ローランドが二度目の助け舟を出した。
「ただ、その黒髪と名前だと、やはり目立ってしまいますよね? だから、ヒカリさんには姿と名前を偽装して潜入してもらう、と。それでいいんですよね?」
「その通りだ。言葉足らずだったな」
つまり。
ひかりには名前と姿を偽装した上で、転入生として学校に潜伏してもらいたいと。
だいたいひかりは理解した。
「それと並行して、プラムのやつにも、姿と名前を偽装した上で、潜入してもらう。プラムには、囮になってもらう。黒髪で転生者らしい名前を見繕って、さも転生者であるかのような姿で転入してもらうつもりだ」
「それって、危険なんじゃ……」
プラムが何も言わないので、ひかりが代わりに尋ねた。
返事は至極単純だった。
「プラムの実力があれば、転生者を返り討ちにするのは容易いはずだ。先のセキリュウソウ絡みの一件でも、転生者をねじ伏せたのだろう? そう言った情報が耳に入っている」
(いつの間に……)
ローランドが口走ったのか、独自の情報網で調べたのか。
いずれにせよ、プラムなら転生者を撃退できると思っているようだ。
そんな中、プラムがびくびくしながら、再び小さく挙手をした。
「あの……拒否権は……?」
「一応、ある。だが、やってくれるなら相応の報酬も提示しよう」
一応、断ってもいいらしい。
が、報酬というのは、ひかりの想像していたものとは違った。
「まず、ヒカリ=カゲハラさんの報酬だが。単純に金で動いてくれるとは思えない。故に情報で支払おうと思う。内容は、俺のコネクションで調べることのできた、他の転生者一同の情報、ざっと20人分だ」
「!」
他の転生者の情報。
危険な転生者もいれば、友好的な転生者もいるだろう。
それらの情報を、教えてくれる。それも、20人分。
確かにひかりに取っては、貴重な情報だった。
「同じくプラムも、金で動くタイプではない。だが、現時点でローランド=クローバーに掛けられている嫌疑を、俺の力で払拭することで、報酬としたい」
「嫌疑?」
ローランドの話に、プラムは食いついた。
その話は、ローランドが補足した。
「実はね……セキリュウソウの流通を邪魔しているのが、クローバー領の領主、つまり僕ということになっているらしい」
「な、何それ!」
プラムが声を荒げた。
セキリュウソウの流通の妨害者が、ローランド。それはめちゃくちゃな情報だ。
「もちろん、でたらめだとも。僕はそんなことは、誓ってしていない。だが、一部の貴族たちが、その説を強く提唱していてね。このままだと、嘘の証拠や証言で、無理やり犯人としてでっちあげられかねない……」
「そこで俺のコネクションをフル動員して、そんな意見をねじ伏せる。二度とそんな説を提唱できないようにしてやるつもりだ。それが、プラムに出せる報酬となるな」
「つ、つまり、ローランを人質にしてる……ってこと?」
プラムは先ほどの震えぶりはどこへやら、わなわなと怒りの感情を見せた。
それに対して、ローランドは、申し訳なさそうに口を挟んだ。
「これに関しては、完全に僕自身の問題だから、プラムにカバーしてもらうのは筋違いなのは、理解しているよ。でも、このままだとこの領自体が、何もできないまま他の貴族に潰されかねない。プラム、この埋め合わせは必ずするから、どうか考えてみてもらえないだろうか」
「うっ、ううっ……」
プラムとしても、愛しいローランドにいらぬ嫌疑を掛けられ潰されるのは、避けたいのだろう。
もちろん人死にの出た場所での潜入調査は危険を伴うだろうが、それでも惚れた弱みの方が勝ったらしい。
プラムはうなだれて、答えた。
「やり、ます……」
「本当にごめんね」
ローランドは心底申し訳なさそうに声をかけた。
「そして金で動くタイプではないとはいえ、現物支給がないのでは、やる気も起きないだろう。追加の報酬として、一ヶ月潜伏してもらうたびに、それぞれに10万シルバー。生徒死亡の手がかりを入手してもらうごとに、内容次第でそれぞれに10万から20万シルバー。完全な事件解明をしてくれたら、それぞれに200万シルバーを報酬として支払おう」
(200万!?)
提示された報酬の桁に、ひかりは目を白黒させた。
相当な金が動いている。
それだけ、真剣に事件解決をしたいと思っているらしい。
「プラムからの了承は得た。あとは、ヒカリ=カゲハラさん、君次第だ。プラムと結託して、学校に潜伏してもらえないだろうか?」
アレキサンダーがそう伺いを立ててくる。
ひかりは迷ったが、ややあって口を開いた。
「やり、ます……」
「感謝する」
ひかりの決断に、アレキサンダーは礼を言った。
ひかりとしては、他の転生者の情報はなくてもなんとかはなるし、無理に大金を得る必要もない。
ただ、この流れで話を断る勇気が、ひかりにはなかった。




