68話:学校の依頼
「あんたがヒカリ? ふーん……まあ顔はフツーね」
話は2、3週間前のクローバー領の領主宅まで巻き戻る。
プラム=ツインダートと改まって顔を合わせたひかりは、いきなりそう言われた。
「え、ええっと、プラムさん、ですよね。あの時は、助けてくださって、ありがとうございます」
「助けたって? あー、そういやそうだっけ? べつにー、あれはローランのためだしぃ」
プラムは、毒沼での一件を全然意識していなかったらしい。
ひかりを助けたことも、ひかりに間接的に助けられたことも、どうでもよさそうだった。
ただ、毒無効の指輪はしっかり付けていた。
ローランというのは、ローランドの事であろう。ひかりはそう考えた。
「えと、領主さんと、仲良いんですか?」
「えー! いきなりそれ聞く? そーなのよ、あたしとローラン、学校の同期だったんだけど、もー運命の出会いしちゃってー! ほんとかっこいいったらなくってねー!」
「あはは……」
突然一人で盛り上がっているプラムを、ひかりは乾いた笑いで見守った。
「てわけであたしはローランが好き! だから、変な女が寄ってこないように見張ってるワケ!」
ビッとひかりの鼻先に指を刺して、そう言い放つプラム。
ひかりを、領主に寄ってくる変な女ではないかと疑っているらしい。
どうしたものかとひかりが悩んでいると、プラムは飽きたのか、ソファにどかっと腰を下ろした。
「ていうかローランまだかなー? 流石にあたしとはいえ、待たせすぎな気がするんだけどー!」
そう、ひかりとプラムの二人は、今まさに領主であるローランドに呼び出しを受けて、話をする手筈になっていた。
現在二人は、来客用の綺麗な部屋で待機している状態である。
ひかりが来た時には、すでにプラムがいて、開幕早々品定めをされていたところだ。
「え、と。要件って、なんでしょうね」
「わかんなーい! 込み入った話だから、客室で二人まとめて話すんだって! あたしにぐらい事前に知らせてくれればいいのにー!」
ソファに寝そべり、足をジタバタさせてそう叫ぶプラム。
自由な人だなぁとひかりは思った。
ややあって、領主であるローランドが、部屋の扉を開け、入ってくる。
「やぁ、待たせてすまないね、二人とも」
「おそーい! ローラン、何やってたのー!」
口ぶりに反してめちゃめちゃ機嫌の良さそうな顔と声で、プラムががばっと起き上がってローランドにそう声をかける。
のだが。
「邪魔をする」
「おとうさまっ……!!?」
続いて入ってきた、つり目の壮年の男性を見て、プラムはそう声を上げた。
……。
……。
「改めて自己紹介をしよう。ヒカリ=カゲハラさんだね?」
「はっ、はい」
ソファにはひかりとプラム。対面のソファにはローランドと謎の壮年男性。
男性はいかにも貴族が着ているような、身なりのいい礼服に身を包んでおり、ピリリと気が引き締まるような雰囲気を出している。
彼が部屋に来た時点で、プラムはソファに礼儀正しく膝をそろえて座っている。
それほど怖い人なのかと、ひかりはガチガチに緊張していた。
「私の名はアレキサンダー=ツインダート。ブシュネ領で教鞭を振るっている、貴族のはしくれだ。プラムの養父でもあるな」
「プラムさんの……」
ちらっとプラムの様子を見ると、きちんと座って俯いたまま、だらだらと冷や汗をかいている。
先ほどまでソファでだらけていた姿など、微塵も感じさせない。
「今回は、ヒカリ=カゲハラさんと、プラムに、依頼をしたい。内容は、我が設立した平民向け魔法学校、エイボン。そこの潜入捜査だ」
そう言われて、一同は沈黙した。
次の言葉が出てこないと、何も言えなかったが、プラムがガチガチに固まった手を小さく上げて、挙手をした。
「お……お義父さま、質問をしてもよろしいでしょうか」
「ああ」
(お義父さま!?)
どう見てもひかり以上に緊張しているプラム。呼び方もあるが、礼儀正しく敬語を使っている。先ほどまでとはまるで別人だった。
ひかりはますます緊張してしまう。
「あ、あたし、は、もうその学校卒業しているんですが、その……なぜ……?」
「だから、潜入捜査だと言っている。お前たちには身分を変えて、学校内に転入生として、潜入してもらいたい」
そう言われて、再び場に沈黙が降りる。
なんで? とはなかなか言い出せない二人に、ローランドが助け舟を出した。
「ツインダート様、もう少し順を追って話をしませんと、二人が付いて行けていません」
「ふむ、質問に答える形で言おうと思っていたが、いいだろう。一から順に説明しよう」
アレキサンダーは、きちんと話をする事にしようとしたようだ。
姿勢を正して、語り始める。
「まず、2週間ほど前、我が学校のエイボンの生徒が二名、変死体で発見された。調査はしたが、手がかりになるものはなく、犯人がいるのかいないのかも、はっきりとしていない」
アレキサンダーはなおも語る。
「特徴的な生徒だった。この国では珍しい、黒い髪で、異質と言えるほどの高成績を振るっていた。その二人が、ほぼ同時期に、原因不明の死体で見つかっている。生徒の死は、学校の損失。急ぎ原因を突き止めたい」
そんな事情があるようだったが、ひかりは別の意図を察していた。
黒い髪で、異常な高成績。転生者という言葉が、頭をよぎる。
「我々はその黒髪の生徒二人を、”転生者“と仮称している」
「!」
ひかりはびくりとした。
ひかりもまた転生者の一人だ。
話に挙げられて、体が強張った。
「もう分かるね? ヒカリ=カゲハラさん。君を転生者と見込んでの依頼となる」




