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67話:エイボン魔法学校

 ひかりがイストとシーリーに魔法学校の話を聞いてから、2、3週間後。

 まさにその魔法学校では、転入生がやってくるとの話でもちきりだった。


 場所は中央区ブシュネ領、エイボン魔法学校。

 新設されたばかりのこの学校は、いわゆる貴族向けの学校とは違い、多少学のある平民に一から魔法を教えるための学校。

 これまで貴族のものとされていた「魔法」を、より基礎的な学問である「魔術」に落とし込み、平民出でも分かりやすく、才能のない者でも魔法が使えるように伝える、まったく新しい試みが行われている。


 当然のごとく貴族からの激しい突き上げがあったが、そんなもの何するものぞと、本当に設立してしまったのが、ブシュネ領の貴族向けの魔法学校の校長にして、エイボン学校の校長を兼任する、大魔導士アレキサンダー=ツインダートの功績である。


 実際、魔法を習いたいという平民は殺到したし、卒業後には平民でもそこそこの魔法使いになれたり、逆に魔法の才能がない代わりに武術を鍛えたりと、多くの若手魔法使いや、質の良い冒険者を増やす事に成功した。

 まさに、平民に取って夢と希望に溢れる魔法学校なのである。


 さてそんなエイボン学校に、新たな生徒が入ってくるとなって、生徒達はその噂でもちきりだった。


「男かな? 女かな?」

「女の子二人らしいよ?」

「ざーんねん、イケメンがよかった」

「かわいい子だといいなあ」


 そんな比較的好意的な噂から、その逆もある。


「死んだ生徒の補充じゃねーの?」

「あの校長ならやりそう」

「ちょうど二人死んだからな……」

「まああの二人なら、溜飲下がるわー」


 そんな後ろ暗い噂も、同時に上がっていた。


 そう、エイボン魔法学校ではちょうど人死にがあったばかりだ。

 被害者は生徒二人。

 同じ時期に入学して、極めて高い実技成績を収めて注目されていたが、一月ほど前に二人とも死亡している。

 死因は不明。

 少なくとも生徒には、詳しい事情は知らされていないが、当然ながら噂でもちきりになった。

 殺された、自殺した、事故死した、罰が下った、などなど。

 不安がる者、陰口を叩く者、学校の不備を指摘する者なども、数多く出ていた。


 そんな折に、新しい転入生が入ってきたのだ。

 当然、色々と噂になるものだ。


 そんなざわついた教室に、教師が入ってくる。

 1年生のクラス担任の、年配の先生だ。


「皆さんお静かに。今日から新しい生徒が入ります。二人とも、自己紹介を」


 先生に続きやってきたのは、新品の制服に身を包んだ、二人の転入生の少女たち。


「アオイ=ハセガワです、よろしく」


 アオイ=ハセガワと名乗ったのは、黒髪をロングに流した、気怠げな表情の美少女。

 黒髪黒目といった、この国ではやや珍しい容姿をしている。

 口ぶりは、やや投げやりだった。


「また“黒髪”じゃん」

「今度は大丈夫だといいけど」


 アオイを見た生徒たちの何人かは、そう噂した。

 ちょうど1ヶ月前に亡くなった優秀な生徒も、二人とも黒髪黒目だったからだ。


「ろ、ローズマリー=オリーヴです。よろしくお願いします……」


 ローズマリー=オリーヴを名乗ったのは、栗色のふわふわの髪をした、大きな丸メガネをかけた少女。

 丸メガネ以外に取り立てて特徴を上げる方が難しい、地味な少女で、誰もそちらの方には目を向けなかった。

 口ぶりも態度も緊張しきっていて、人見知り全開だ。


「今日から皆さんのお仲間になる二人です。仲良くしましょう。ではアオイさんが右手側の空席に、ローズマリーさんが左手側の空席に着いてください」


 教師にそう言われて、アオイとローズマリーを名乗った少女たちは、席に向かいながらこう考える。



(どうしてこんなことに……)

(あたしが知りたいわよ……)


 二人は、そう頭の中で嘆いた。










アオイ=ハセガワ

出自不明の冒険者だが、極めて高い魔力を買われ、エイボン魔法学校校長の推薦により転入。

という設定。

(中身:プラム=ツインダート)

容姿、ステータス偽装中


ローズマリー=オリーヴ

追加の生徒募集項目にて一定の成績を出し、基礎的な魔術を扱える生徒として、募集項目を満たしたため転入。

という設定。

(中身:ヒカリ=カゲハラ)

容姿、ステータス偽装中


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