66話:雑談
「そういえばヒカリちゃん、テレポート罠で飛ばされた後、具体的に何があったの?」
ひかりがダンジョンでテレポート罠にかかった事に話が行く。
この酒場は賑やかで、聞き耳を立てられている可能性が低いとは思うが、ひかりはなるべく転生者の話を伏せて答えた。
「ええと、何か豪勢な部屋に飛ばされて……。わたしの出自の件で、試練を与えると言われて、フレッシュゴーレムってのをけしかけられました」
「出自の件?」
「あー、あれだろシーリー。ヒカリの秘密の、アレ」
「あー」
転生者絡みの件と、なんとなく察してもらえたらしく、二人は頷いた。
「しかしフレッシュゴーレムか……。なんとか倒せたのか?」
「はい、本当にギリギリでしたが……」
「あたしフレッシュゴーレムは知らないけど、よく頑張った! 乾杯!」
何故かもう一度シーリーと乾杯をする。
イストはエールで酔いながらも、考えをまとめた。
「うーん、目的がわからんが、フレッシュゴーレムっていうギリギリ倒せるラインの敵を用意して、報酬を用意してるあたり、完全な敵ではないのか?」
「何か言ってました。上質な魂を得るためとか」
「ふむ?」
「やってるやつの目的が、まだ分からんな」
話はそれ以上広がらなかった。
が、気を取り直したように二人は笑う。
「まー、おかげで大金得られる機会を得たわけだから、ヒカリさまさまだなー」
「本当にね! お疲れ様!」
「いえいえ、珍しい武器も手に入りましたし」
酔っているのかよく笑う二人。
ひかりも釣られて笑った。
「そういえば、ヒカリちゃんの出自、っていうか、育った環境? とか聞いてなかったね。どんな感じだったの?」
そう聞かれて、ひかりは硬直した。
彼女の過去は、親からの虐待といじめの記憶が強い。
あまり楽しい話ができそうになかった。
「えっと……。暗い話になっちゃいそうなので、あまり……」
「あー、そうだったの、ごめんね、ずけずけ聞いて!」
「いえいえ! もしよければ、二人の話をもっと聞かせてください!」
ひかりから楽しい話は振れそうになかったので、二人の話をもっと聞こうとした。
シーリーとイストは、快く話をしてくれた。
「あたしら、元々は中央の魔法学校の同期だって、話したっけ?」
「平民向けに魔法やその他諸々を学べる学校が、割と最近設立されたんだ。で、俺、シーリー、ローランド、テティスさん、あとプラムが、その一期の生徒だったんだよ」
話は二人の昔話になる。
彼らは皆、同じ学校に通っていたらしい。
ひかりはふむふむと話に聞き入る。
「ローランドは成績優秀な優等生、俺とシーリーはまぁ普通の生徒だった」
「魔法学校なんですよね? シーリーさんも魔法を習いに……?」
「あたしもちょっとは魔法使えるかなーと思ってたけど、割とからっきしで。でも武器戦闘の授業もあったから、そっちは成績優秀だったよ!」
シーリーは胸を張ってそう答える。
確かにシーリーが魔法を使っているところを見たことがない。代わりに実戦的な武器戦闘を習っていたようだ。
「あれだ、テティスさんとかも、自分の体質をどうにかできないかとかで、魔術を習ってたらしい。結局、できなかったみたいで、練気の勉強に落ち着いたけどな。生徒の希望に応じて幅広く学べるのが、あの学校の強みだ」
ぐいっとエールをあおりながら、イストはそう言った。
どうやら、ひかりの世界でいうと大学に近い感じのものらしい。
各々が好きな項目を学べる形式のようだ。
「俺もまあ、魔術に関しては優秀な部類だった。プラムのやつには劣るが……」
「プラムちゃん、筆記実技全部満点だったからねー!」
「ヒカリもちょっとは会ったことあるよな? プラムは当時は性格に難ありでなぁ。めちゃくちゃなやつだった」
「今は丸くなったよね!」
「変人なのは代わりないがな」
ひかりはプラムについて、少しは聞かされていた。
領主ローランドにベタ惚れしているらしいことと、転生者をも返り討ちにする魔術の力。そして、極めて病弱なこと。
テティスとは違った意味で、大変そうな境遇だなと思った。
「プラムさんは、領主さんが好きなんですよね」
「ああ、詳しい経緯は俺も知らんが……」
「あたし応援してるよ! プラムちゃん! 恋する乙女って感じで好き!」
「ローランドからすればどうだかなあ……」
「そんなことないって!」
プラムがローランドを好いているのは間違いないが、周囲の評価はまちまちなようだ。
ローランド側にその気があるかよく分からなかった。
「魔法学校、ヒカリも行ってみてもいいかもなあ。魔術の基礎が学べるし」
「友達もたくさんできるよ!」
「うーん……」
ひかりにとって学校は、半分ぐらいは良い思い出がない。
現在の生活で満足しているし、友達を作るほどの積極性もない。ひかりは難しい顔をした。
「今の所は、あんまり気乗りしないですね、怖くって」
「ありゃ、残念」
「まあ気が向いたら検討しといていいと思うぜ。魔術以外のことも学べるからな〜」
そう勧められて、ひかりは一応頭の片隅に入れておく事にした。




