64話:神器
「つ、疲れた……」
フレッシュゴーレムの核を破壊すると、動かなくなった。
かなり遠回りをしてしまったが、なんとか30分以内にフレッシュゴーレムを倒せて、ほっと一息をつくひかり。
そこに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『上出来だ、適合者よ』
それは先ほどまで聞こえてきた、男性の声。
ひかりを転生させた人物の声だった。
「あ、あの! なんでこんな事をするんですか!?」
『こんなこと?』
思わず声を上げたひかりに、男の声が不思議そうに聞き返す。
「ひ、人を殺すようなルールを、つくったりとか……今みたいな、試練とか……です!」
ひかりは意を決してそれを尋ねた。
しかし返す男の声色は、冷たいものだった。
『勘違いをしては困るね。私はあくまでもチャンスを与えただけに過ぎない。本来死に行く魂に、特別に我が力をブレンドして転生してやったのだよ。感謝こそされ、恨まれる筋合いはないな』
「じゃ、じゃあなんであんなルールを……」
ひかりがなおも食い下がると、男の声はこう答えた。
『上質な魂を得るためだ。ただ質がいいだけじゃない、研鑽し磨き抜かれた魂が。それこそが我が望み』
「上質な魂……?」
疑問符を浮かべるが、男の声は話は終わりとばかりに告げる。
『さ、これでこの試練は終了だ。約束通り、報酬をやろう。受け取るがいい』
その言葉と共に、部屋の中央に光り輝く何かが浮かび上がった。
それは刀よりは短い、小刀だ。
黒い漆喰の鞘に収まっていて、蝶の装飾がついている。見た目だけでもなかなか美しい。
ひかりはかなり迷ったのちに、その小刀に手を触れた。
すると小刀はさらに眩い光を放って、手の内に収まった。
神器
【忍刀「首切蝶々」】
この刀の所持者は、跳躍能力が飛躍的に向上する
また1回まで空中でもジャンプが可能になる
この刀の切れ味は、所持者の敏捷に比例して向上する
(所持者:ヒカリ=カゲハラ、変更は不可)
突如メニューウィンドウが開いて、そんな説明が出てきた。
神器とは、マジックアイテムの上位版らしい。
現代の技術では作ることのできないほどの逸品。それをひかりは手にした。
『それから、ダンジョン攻略中だったんだろうな? その神器はお前にしか使えないから、おまけで報酬をやろう』
そんな声と共に、ひかりの手元に再び光が輝く。
見れば、一枚の金色の硬貨が手にあった。
百円玉ぐらいの、小さなサイズだ。
(金貨……? 初めて見た)
どのぐらいの価値かは分からないが、推定金貨のようである。
『では、武器を回収しておきたまえ。元のダンジョンに戻してやろう』
そう言われて、慌ててフレッシュゴーレムに刺さったままだった【炎熱のスティレット】と【メイジマッシャー】を抜き取った。
ややあって、ひかりの足元に魔法陣が現れ、ひかりは転送された。
……。
……。
ひかりは、元のダンジョンの大部屋にテレポートで戻された。
30分近く経っていたので、イストたちはすでに移動していた。
ひかりのことを探してるのかもしれないとダンジョン内を歩くと、案の定イストら一行と鉢合わせた。
「ヒカリ! 無事か!」
「ヒカリちゃーん! 大丈夫!?」
慌てて駆け寄ってくるイストとシーリー。遅れて歩いてくるテティスに、救助された少女。
イストとシーリーは、ひかりのことをずいぶん心配していたようだ。
「だ、大丈夫です。ちょっと知らない場所に飛ばされただけで」
イストとシーリーだけなら詳しい事を話せるが、ひかりが転生者だと知らないテティスがいると話せない。
とりあえずあるがままを、転生者の件だけ伏せて伝えることにした。
「よく分からない部屋で、よく分からない声の人に試練だって言われて、モンスターと戦わされて……。これが、その報酬みたいです」
ひかりは神器と、小さな金貨を二人に見せた。
テティスも覗きに来たので、三人がまじまじとそれを見る。
「短剣か? ちと妙な形だが、マジックアイテムなのは確かだな」
「モンスターに一人で勝ったの? すごーい! どんなモンスターだった?」
二人は興味深そうに報酬の小刀を見る。
テティスだけは、少し難しそうな顔を見せた。
「ダンジョンの報酬は四等分する約束でしたが……この場所、ヒカリさん一人で獲得したことになるんですかね?」
「あ、なんかわたしにしか使えない神器だって教えてもらいました」
「神器!?」
「うそー!」
ひかりが思っていた以上に、もらった神器というものは、貴重品のようだ。
「一点ものの神器となると、値段は少なくとも100万シルバーにはなるでしょう。でも、ヒカリさん個人でしか使えないとなると、文字通り値段が付けられませんね、山分けは無理そうです」
テティスがちょっと残念そうにそう語る。
もしこれが売却可能なら、一人当たり25万シルバーずつで分けられることになる。
それをひかりが独占してしまうとなると、ちょっと申し訳ない気がしてきた。
「そっちは、金貨? たしか1万シルバーだよ!」
シーリーが小さな金貨を見てそう語る。
金貨はどうやら、1枚1万シルバーの値打ちがあるようだ。
「となると、4人で分けたら2500シルバー?」
「おー! 計算早いね!」
山分けするとなると、そうなる。
苦労した割に、一人2500シルバーというのは、少し肩透かし感があった。
と思っていたら、イストが声を上げる。
「え、ちょっと待て。鉱物分析の魔法を使ったんだが、これ金貨じゃねぇ! 白金だ!」
イストの言い分では、どうやら金ではなく、プラチナでできているらしい。
一同はざわめいた。
「白金貨って、いくら?」
「1枚100万シルバーだ! 相当の値打ちものだぞ!」
「4人で分けたら、25万シルバー……!?」
「お金持ちじゃん!」
想定価格が100倍に跳ね上がり、ますます熱が入る一同。
その中で、テティスが冷静に声を上げた。
「落ち着いて、これ古代人の貨幣ですよ」
「え、まさか使えない……!?」
「いや、もっと価値があると言うことです。古代貨幣は、好事家が高く買い取ってくれます。オークションにかければ、ざっと倍ぐらいの値段がつくでしょう」
「てことはえーと……」
「200万シルバー……!?」
「一人当たり50万シルバーか! かー!たまんねぇ! これだから冒険者稼業はやめられん!」
最初の想定の数百倍の値段だと分かった。
思わぬ大金に、一同はさらに色めき立つ。
冷静そうなテティスも、実は目を輝かせていた。
「というわけで、白金貨はオークションにかけて4人で分ける……ということで異存はないですか?」
「大丈夫!」
「あの、わたし神器貰ってしまったんですけど、そのあたり大丈夫でしょうか……?」
ひかりだけ、ひかりにしか使えない特別な装備を貰ってしまっている。神器は100万シルバー以上の価値がある。
その点大丈夫なのかを聞いてみたが、テティスは呆れたような表情を浮かべた。
「神器はヒカリさんが獲得したものですし、ヒカリさんにしか使えません。本来なら白金貨も、ヒカリさんが獲得したものなんですよ。でも流石に私たちもここまで苦労してきて無報酬というのは、まったく美味しくない。だから、白金貨だけでも4等分させて欲しいというのが、私の希望です」
「つまり神器のことは、遠慮なくヒカリが使えってこった」
思っていた以上に、周りの意見は優しく感じた。
ひかりは、ありがたく神器を受け取ることにした。




