60話:ダンジョン攻略②
「罠さえなけりゃ、ヒカリに探索させてもいいんだがな。流石に《サーチ》込みで探さなきゃいけない分、テティスに任せるしかないな」
ダンジョン攻略は、階段の時と変わらず。1級冒険者のテティスを先頭に、イストが《サーチ》でモンスターや罠を探して、シーリーとひかりが援護する形だ。
ひかりの隠密999を活かせばモンスターは素通りできるが、落とし穴などは普通に踏んでしまうのでやめようという結論になった。
「? ヒカリさんは、何かギフト持ちなんですか?」
「あぁいや、隠密スキルが高いんだよ。モンスターだけなら避けて通れると思って」
「なるほど」
テティスだけはひかりのスキルを知らないので、イストはそう誤魔化した。
「とりあえずモンスターと物理的な罠は私が片付けますので、イストはテレポート罠を警戒してください。万が一テレポート罠ではぐれると、私だけはテレポート罠にかからないので、追いかけれませんので、気をつけて」
「りょーかい」
「テテさんがんばって!」
後ろで応援しているだけのシーリーに、イストは鞄から紙とペンを取り出して渡した。
「お前はやる事ないだろ。マッピングしとけ」
「ええー! あたしマッピング苦手!」
「いいからやっとけ。何ごとも経験だ、下手でもいいから、とりあえず部屋と扉と廊下だけわかりゃいい」
そんなやりとりをしている二人に、ひかりは首を傾げた。
「マッピング、ってなんですか?」
「ああ、ダンジョンってのは、広くて入り組んでいるのが普通でな。だから道に迷わないようにマッピング……つまり、地図を描くのが一般的なんだ」
「なるほど!」
確かにぱっと見で行く道が複数ある。全部記憶しながら進むのは無謀だろう。
地図を描きながら進んでいくのは理にかなっていると、ひかりはまたひとつ学習した。
「まずはどっから探索するか……」
「マッピング優先なら手前からしらみ潰しに進むんですが、今回は人命救助なんですよね?」
「確かに、じゃあ扉は無視して、ひたすら奥を目指すか」
一同はそう方針を決め、進み始めた。
シーリーは慌てるように地図を描いている。
少し進んだところで、先頭のテティスが振り返って言った。
「あ、もしダンジョンでお宝が出たら、私込みで四等分にするということで、よろしくお願いしますね」
「テテさん、人命! 人命救助!」
「わかってますけど……私、今回無報酬で来てるんですよ。財宝も狙わないとやってられないです」
「ああ、お宝は四等分で異存ねぇ」
「は、はい」
確かにテティスは、何の依頼も受けていないので、ダンジョン攻略には相応の利益があってもいいだろう。
四等分は妥当……。というより、1級冒険者の実力を考えると、まだ少ないのではないかと思えるほどだ。
しかしひかりは、そのあたりはまだよく分かっていないので口を閉ざす。
「あ、なんか《サーチ》にかかった。近づいてくるな」
「人間?」
「いや、アンデッドだな。数は2つ、これ、前と左から挟まれるぞ」
どうやら、モンスターが近づいてきているらしい。
ひかりたちは気を引き締めた。
「前は私がやりますので、左を相手しておいてください」
テティスが前方を向いたまま、身構える。
武器はない。杖もない。というか、話からして魔法が使えないはず。
(素手……?)
ひかりが疑問に思う前に、そいつらは同時に迫ってきた。
ガシャガシャガシャガシャ。
正面の通路の奥と、左側の通路の奥から、何かが勢いよく迫る。
それは、鎧を着た、人の骸骨。剣と盾を持ち、騎士のような姿をしたスケルトンだ。
スケルトンナイトと思わしき2体が、それぞれの方向から襲い掛からんとしていた。
「ヒカリ! 充分引きつけてから撃て!」
「はいっ!」
スケルトンナイトが、テティスとシーリーの間合いに入る、その寸前を狙って、ひかりは呪文を唱えた。
「《ホーリーライト》!」
「〜〜〜〜!!」
スケルトンナイトたちは、聖なる光に浄化され、苦しむように声なき悲鳴を上げた。
《ホーリーライト》は眩しいだけではなく、アンデッド特攻の攻撃魔法でもある。
目が眩み、身体を焼かれたスケルトンナイトは、大きな隙を見せた。
「せいっ!」
その隙をシーリーは逃さず、まずは足を薙ぎ払って転ばせた。
鎧を着ているとはいえ、骨だけの敵である。容易に地面に転がった。
「てやあっ!」
そのままの勢いで、シーリーはスケルトンナイトの頭蓋骨を槍で砕いた。
頭を潰されたスケルトンは絶命する。
敵はこれで、ピクリとも動かなくなった。
「シーリーも成長してますね。そちらは、神聖魔法の使い手でしたか。見かけで侮れませんね」
一連の流れるようなスケルトン退治に、テティスもシーリーとひかりを褒めた。
見ればテティスに向かっていたスケルトンナイトは、すでに頭を砕かれて床に転がっていた。
(いつの間に……!)
シーリーより早くに、スケルトンナイトを倒している。
1級冒険者の実力を垣間見て、ひかりは驚いていた。
「さあ、先を急ぎますか。スケルトンナイトはお金にならないので」
テティスは何事もなかったかのように、通路の奥に向かって進み始めた。




