6話:冒険者ギルド
とりあえず、冒険者ギルドに登録しておくといいと言われて、ひかりはその通りに冒険者ギルドに登録した。
ここ最近は、手に職のない人間が手っ取り早くつける仕事が、冒険者ぐらいしかないらしい。
登録料として50シルバーを支払い、簡単な手続きと共に登録は終わる。
ヒカリ=カゲハラ、9級冒険者と書かれたタグを、ギルドの受付嬢から貰う。
「冒険者は、まず9級から始まるんだ。一番上が1級な。だいたい5級ぐらいで一人前、3級で一流と呼ばれる」
「ちなみにあたしたちは、5級! 一人前だよ!」
「早く3級に上がりたいがなあ」
口々に階級について説明してくれる、イストとシーリー。
二人は5級冒険者らしい。どのぐらいすごいのかは、まだ推し量ることはできないが。
「んで、9級のうちは、薬草採取とかの簡単な依頼しか受けられねぇ。ゴブリン討伐なら8級からだな。まずはこつこつと9級の依頼をこなしな」
「依頼5つぐらいですぐ8級に上がれるから、ゴブリン討伐もできるよ!」
「えーと」
さらっとゴブリン討伐を勧められているが、ひかりはまだ生き物を殺すことに抵抗があった。
仮にも15の少女なのだ。
人間に近い形状の生き物を、殺害するのは、肉体的にも精神的にも難しいと感じていた。
「あー、近接戦闘スキルと短剣スキルが1だったんだろ? ゴブリンは厳しいかもなあ」
硬直しているひかりに助け舟を出そうとしたのか、イストがそう言った。
「そっかぁ。もしかしたら一緒に冒険できるかもと思ったけどねぇ」
「ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ!」
ひかりの謝罪に、シーリーがそう答えた。
「最初の依頼ぐらい一緒に行ってやりたいが、俺らも仕事でな。まあもし依頼に失敗したら、また改めて聞いてくれや」
「いつでも声かけてね!」
「あ、ありがとうございます……!」
流石に初めての依頼についてきてはくれなかったが、二人の存在は、ひかりにとって頼もしかった。
ひとりぼっちではないと実感できて、改めて感謝した。
「あ、でも装備とかは整えたほうがいいから、店までは付き合うぜ。その服目立つしな」
実はひかりは今、前世の学生の服、冬物のセーラー服を着ていた。
流石に目立つかなーと思っていた矢先だったので、その申し出はありがたかった。
「薬草採取なら、ナイフもいるよねぇ」
「動きやすい服に、水袋に、薬草入れの袋、とりあえずはそんなもんかな」
「カゲハラちゃん、いや、ヒカリちゃん、銀貨はどのぐらいあったの?」
「えーっと、さっき50支払ったので、残り、850シルバーとちょっとぐらいかなと」
最初に貰えた銀貨は、1000シルバーほどあったようだ。
神殿の代金と冒険者ギルドの登録代金、そして宿代などで、残りはそのぐらいになっていた。
「安物はすぐダメになるからな。それなりの装備一式揃えて、400シルバーぐらいはかかると見といた方がいい」
話している二人に、ふむふむと頷くひかり。
本格的に冒険者として生活していくとなると、不安も大きかったが、少しだけ楽しみでもあった。
話しながら二人に先導されて、ひかりは木製の建屋までやってきた。
店には、革鎧や剣、服に水筒に薬草らしき草など、さまざまなものが並べてあった。
店に近づくと、中から大柄な男性が姿を現した。
「ようイストにシーリーじゃねぇか。何か物入りか?」
「よう、おっちゃん。この子に、動きやすい服と、薬草採取用のナイフや水筒、その他もろもろ、なるべく安くて良いものを頼む」
「相変わらず遠慮をしらねぇなぁ!」
この大男が、店主らしい。
イストが何やら無茶をふっかけて、ひかりのために冒険者用の装備一式を買い付けようとしている。
ひかりがあわあわしている間に、商談はまとまり、装備一式が並べられた。
とりあえず代金を支払い、言われた通りに奥の衣裳室で服を着替え、ひかりは店の外で待っている二人の元に出向いた。
「ど、どうでしょうか……」
「似合ってる似合ってる!」
「おおいいぞ! ニンジャっぽくて!」
ひかりの着替えた衣服は、黒っぽい緑色の、軽い服。
上は分厚めのシャツのような衣服に革のジャケット、で、下は短パンにベルト、ブーツを履いている。
背の低いひかりでも寸法はぴったりで、ジャケットやズボンにはポケットがたくさん付いている。
いわゆる斥候向きの軽装備で、さらに採取のためのナイフや皮袋や水筒までまとめて購入できた。
「しめてきっちり400シルバーだよ! 商売あがったりだよイストのちくしょうめ!」
「おうおっちゃん、サンキューな!」
400シルバーでこの装備は、かなりお安めらしい。イストが粘り強く交渉してくれていた。
「かわいい嬢ちゃんのためでもあるがな! 嬢ちゃんも金稼いだら、また買い物してくれよ!」
「は、はい、ありがとう、ございました……」
深々とお辞儀をして、お礼を言うひかり。
どちらにも頭が上がらない思いだった。
「これ、あたしからの選別ー」
「ええっ!?」
そうこうしていると、シーリーの方からもプレゼントがあった。
それは、少し古びた短剣だった。
「あたしのお下がりだけど、護身用の武器一本はあったほうがいいよー」
「そ、そんな、採取用のナイフならありますし……」
「んなもん戦いに使ったら簡単に折れるぞ。採取用ナイフは戦いに使うな」
短剣にしてはずしりとした重みのあるそれを、無理やり押し付けるように渡された。
確かに、身を守るための武器も必要かもしれない。とりわけ、この世界では。
ぎゅっと短剣を抱きしめて、ひかりは言った。
「ありがとうございます。服も、道具も、これも、大切に使います……!」
心の底からお礼を言う。
冒険者二人は、にこやかに笑って答えた。
「いいってことよ! 冒険者稼業がんばれよ!」
「気をつけてね〜」
親切な冒険者たちと別れ、ひかりは新たな冒険者として、この世界に降り立った。




