59話:ダンジョン攻略
「とりあえずピアスは返しておくぜ」
イストからピアスを受け取り、持ち直すひかり。どうもピアスは、耳に付けなくても効果は発動できるらしい。
わざわざ付けなくてもよかったなぁと思いながら、中身の空になったピアスを鞄にしまう。
「で、ここがダンジョン、ですね」
地下へと続く階段を降り、扉の前に立つ1級冒険者のテティス。
目の前には螺旋階段が続いており、その階段にはすぐにテレポートの罠が仕掛けられている。
「そうそう、1段目にテレポート罠があるから踏まないように」
「どれ」
「うぉい!」
テティスは迷わず、罠のあるらしき階段に足を踏み入れた。
そこに踏み込んだが最後、テレポートで何処かに飛ばされてしまう、はずだったのだが。
「あれ!? なんともない」
「私には効かないんですよ、体質的に」
「あ、そうだった」
「わかってるけど、ひやっとするからやめてくれ……」
納得している二人に、疑問符を浮かべるひかり。
ひかりに向けて、テティスは説明した。
「”マナ非伝導体“というギフト持ちなんです。私にあらゆる魔法、魔法罠は通じませんが、代わりに魔法が使えないエルフなのです」
「な、なるほど……」
ギフト
《マナ非伝導体》
あなたは魔力が0になる代わりに、いかなるマナの力も影響を受けない
「回復魔法なんかも弾いちゃうので、デメリットばかり目立つんですけどね」
テティスはそう言いながら、テティスの次に立っていたシーリーに手を伸ばした。
「わわっ! 重たいよ!?」
「大丈夫です。よいしょっと」
そう言いながら、軽々と、鎧を着込んだシーリーを両手で持ち上げ、テレポート罠の向こう側に下ろした。
「ほら、イストも」
「いや……俺はいいよ……罠見えるし、ジャンプして通り抜けるから」
「螺旋階段でジャンプして、転んだら大事でしょう。いいから」
「くそ、しょうがねえ……」
イストは女性に抱き上げられるのが嫌らしかったが、あまり時間もないので大人しく言われるままに抱えられ、向こう側に渡された。
「ほら、あなたも……そういえば名前聞いてませんでしたね」
「ひ、ひかりです」
「ヒカリさんも、向こう側に渡しますよ」
ひかりも罠の向こうに下ろしてもらい、これで全員が螺旋階段に立つことになった。
(この人細いのに、すごい力だ……)
鎧を着たシーリーを軽々と抱き上げたあたり、見た目以上に怪力らしい。
それを言えば、半日近くでイストを背負ってここまで走ってきたのも凄まじい体力である。
これが1級冒険者かぁと、ひかりは感心していた。
「じゃあ、私が先頭で階段を降りますか。イストは《サーチ》で魔法の罠を調べてください。私は魔法を素通りしてしまうので、気をつけてくださいね」
「はいよ」
火が無くとも光る魔法のランタンを、テティスは自前のマジックバッグから取り出した。
テティスを先頭に、イストを探知役に、一同は螺旋階段を降りていく。
階段は深く深く、底が見えない。だいぶ歩いても、まだまだ先があるようだった。
「どんだけ深いんだろ……」
「も、もし落ちたら、死んじゃいますね……」
「今のところ魔法罠はないな……」
「生き物の気配は?」
「ちと待て、《サーチ》を切り替える。……うん、まだ生き物も引っかからねえ」
罠はなく、生き物もおらず、深い深い螺旋階段を降りていく一同。
かなりの時間をかけて、ようやく階段の底が見え始めた。
「お、やっと終わりか」
「随分と深い穴ですね……。イスト、罠の気配は?」
「まだないな」
とりあえず螺旋階段を降り切ると、再び一本道の廊下が広がっていた。
罠がないことを確かめつつ、廊下を進むと、再び扉を見つけた。
扉はしっかりと閉じており、誰かが通った形跡もなかった。
「イスト、罠はないんだよね?」
「魔法で探知できる分にはな。ふつーに落とし穴とかあったらわからん」
慎重に扉のある場所までたどり着くと、扉は鍵もなく、多少軋むが開けられそうだった。
「じゃ、開けますよ」
テティスがそう言って、両開きの扉を開ける。
その先には、石造りの、広大な遺跡が作られていた。
石の柱が立ち、木製の扉があちこちに設置されている。
何故かここは朽ちたり埃が被ったりしておらず、妙に真新しい。
「これは……道が複数ありますね」
「うわぁ! ダンジョンって感じ!」
「ちと待て、急に《サーチ》に反応が出てきた。これは……モンスター? 多分魔法罠もあるぞ」
「せ、生存者は……?」
「探知できる範囲にはいねえ」
無数の道。モンスター。罠。
いよいよもって、一同のダンジョン攻略は、本番へと向かおうとしていた。




