57話:森を進んで
森を進む一行。
イストが時々《サーチ》の魔法で人とモンスターの気配を探るが、浅い場所には何もなく、森の深い場所までやってきた。
「目印はずっと続いてるな」
「結構深い場所まで来てたんだね〜」
赤いロープの目印は、まだまだ続いていた。
それを頼りに、一行は進む。
すると、少し開けた場所に、何かがあった。
「あれ? 骨だ」
「なんだこりゃ、スケルトンナイトの死骸か?」
一見すると、草むらに白骨死体が散らばっていた。
先の冒険者の死体かとひかりはびくりとしたが、どうもそうではないようだ。
「人の骨だね。バラバラだけど」
「剣と鎧に……ちと待てよ……うん、僅かだが、魔力の気配もあるな。スケルトン系列なのは間違いない。推定、スケルトンナイトだ」
「それが、もう倒されてるってこと?」
「周りに争った形跡もあり、だな。多分そういうことだ」
つまり。
先の冒険者たちらスケルトンナイトの近くまで来ており、スケルトンナイトは恐らく討伐済み。
そこから、冒険者が帰ってきていないのだ。
「つまりスケルトンナイトの討伐って意味では、俺たちはもう帰ってもいいわけだ」
「よくないでしょ!」
「わーってる、冗談だよ」
「あはは……」
確かにスケルトンナイトは討伐されているので、依頼はクリアということにならないではない。
しかし、それでもいなくなった冒険者を探すべきだという話で、一同は合意した。
人命救助になり、お金にもなるからだ。
「とりあえずここを中継地点として、周りを探していくしかないか」
「《サーチ》には引っかからないの?」
「結構範囲を広げてるんだが、人間は引っかからんなぁ。動物とかはいるんだが」
そう話しながら、一同は近くから探索を広げる。
とはいえイストが《サーチ》の魔法を使っても反応がないと言っている。
近くにはひかりらの他に、誰もいないようだ。
「マジでどこいったんだろうなぁ」
「森から出ちゃってる?」
「もしくはもう生きてないか……」
「縁起でもないでしょ!」
「割とマジでそれはありえるぞ。アンデッドじゃない死体は《サーチ》じゃ見つからんからな」
「ひぇ……」
最悪の事態の想定も視野に入れ始めた頃、探索をしていたひかりが、あるものを見つけた。
「ん?」
「どうした?」
「いえあれ、穴……?」
近くに寄ってみると、森の中の草むらに、四角い大きな穴が空いているのが見えた。
覗き込むと、苔むした石の階段が見てとれる。
「え? 階段?」
「こんな森の中にか?」
見れば蓋のようなものがあり、それを引きずって開けられた形跡がある。苔むした石でできた、重そうな蓋だ。
その穴を蓋するのにちょうど良さそうで、それまで隠されていたのではないかと予想できる。
「降りてみよう! ここにいるかも!」
「それしかないかぁ……充分に気をつけろよ」
一同は、シーリーを先頭に慎重に階段を降りた。
階段はすぐに石の床に辿り着き、そのまま真っ直ぐ廊下が続く。
ややあって、扉のようなものが見えた。
「ありゃ、開いてる」
「扉が開けっぱなしってことは、誰かここを通ったな」
「先の冒険者たちでしょうか?」
「断定はできないが、それだと辻褄は合う」
スケルトンナイトを倒した後、何らかのきっかけでこの隠し蓋を発見して、廊下を通り、扉を潜ったと。
それなら確かに、しっくりとくるのだが。
「なんで帰って来ないかですよね」
「確かに……。まて! それ以上進むな!」
「んえっ!?」
突然イストが声を上げて、シーリーがびっくりして足を止めた。
イストがシーリーをぐいっと押しやって、扉の入り口に近づく。
扉の向こうは、深い深い、下りの螺旋階段が続いていた。
相当な広さと深さだ。中に何が潜んでいるか想像もつかない。
階段は奥深くまで続いており、底が見えなかった。
「どうしたの?」
「《サーチ》を魔法関連の探知に広げたんだ。見てみろ」
イストはそう言うと、荷物の中から保存食のパンを1つ取り出して、階段に放り投げた。
パンは階段を転げ落ちようとして……フッと音もなく消えた。
「消えた!?」
「魔法の罠、それも、テレポートの罠だ。どこに飛ばされるかわかったもんじゃないぞ」
もしシーリーが踏んでいたら、シーリーがテレポートの罠でどこかに飛ばされていたらしい。
ひかりたちはぞっとした。
「これはただの穴じゃねえ」
イストが冷や汗をかきながら言った。
「古代人の作った、罠と迷路の遺跡……“ダンジョン”だ!」




