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53話:高級服飾店『オウカ』

「まず、シーリーはああ見えて頑固だから説得は難しい。今回の依頼は失敗ということにして、代わりに埋め合わせの依頼を出したらどうかな?」

「埋め合わせの依頼を?」


 時は少し遡り、領主ローランドの話を聞くひかり。

 確かに新しく依頼を出すというなら、やぶさかではない。


「そう、安全な街中での護衛をしてもらうんだ。それなら依頼失敗の可能性は低いし、シーリーも鎧がなくても安全だ」

「でも乗ってくれるでしょうか?」


 仮に、安全な街中の護衛で5000シルバーを出すと言っても、露骨に施しをしようとしているとして、断られるかもしれない。

 ひかりはそう思ったが、領主はこう話を続けた。


「そこでだ、僕がひかりさんに依頼を出そう。内容はサクラさんの服飾店の宣伝。彼女の服を着て、街中を歩き回って宣伝してみて欲しい」

「はぁ……」


 ひかりとしてはあまり気の乗らない依頼だ。目立つのは好きではない。宣伝など、苦手分野だ。


「それで、せっかく綺麗な服を着て街中を歩くんだから、もしかしたら人攫いなんかに目をつけられるかもしれない。そうすると、街中でも護衛が欲しくなるよね?」

「な、なるほど……」


 ひかりは少し感動した。

 確かにその手を使えば、街中で護衛するという名目で、イストとシーリーを雇えばいい。


「でも、ガチガチに鎧を着た冒険者で周りを固めてしまったら、宣伝効果は半減だ。そこで、雇われの冒険者にもサクラさんの服飾店の服を着てもらう。これで、宣伝費用として報酬も払おう」


 領主の提案は、なかなかに良いアイディアだった。

 確かに街中で護衛を雇っても自然だし、シーリーも鎧がなくても安全、追加報酬まで貰えて、服の宣伝もできる。

 一石二鳥どころか、三鳥四鳥も行ってそうな、良いアイディアだった。


「その依頼、詳しく詰めさせてください!」

「もちろん!」


 そうして、領主からひかりに2万シルバーの報酬、ひかりからイストとシーリーに5000シルバーの報酬、領主からイストとシーリーに5000シルバーの報酬という形で、話はまとまった。




……。

……。




「ちょっと、失敗したかも……」


 ひかりは早くも挫けそうになっていた。

 服は貴族のお嬢様の着ていそうな、かわいらしくとも目立つ服装。さらに化粧もしている。


「あああ……恥ずかしい……」


 シーリーはふりふりのメイド服。なまじ顔もスタイルも良いだけに、とても目立つ。こちらも化粧をしている。


「おら、しゃんとしろ。宣伝にならんだろ」


 イストはピシッとした執事服で、伊達メガネをかけていた。


 こんな三人組が固まって街中を歩いているので、とびきり注目されていた。

 あまりにも目立つ。

 なんだなんだと通行人が足を止め、ガヤガヤと騒ぎになっていた。


「えー! 高級服飾店『オウカ』、オープン前の宣伝でございまーす! よろしければチラシをどうぞー!」


 イストだけは堂々と、執事服のままビラを配っている。

 シーリーは看板を持ち、ひかりは特にすることはなかった。


「この衣服、珍しい素材が使われてるのね」

「そうなんですよ〜! モンスターの糸を使った特別な布地で、手触りも良い割に丈夫なのが特徴で……」

「え、だれかと思ったらイストじゃん、何やってんの?」

「お前執事服似合わないな〜」

「うるせぇ! いま宣伝中! 新しい服飾店が出るんだよ! よければチラシ持ってけ!」


 知らない人と顔見知りの人とで、スイッチを切り替えるように手慣れた宣伝をしていく執事服のイスト。


「あ、シーリーじゃん、何その格好」

「うわぁぁ! 知り合いには見られたくなかったー! みないでー!」

「いいじゃん、メイド服似合ってるよ!」

「似合ってないよ〜!」


 とにかく目を引くので、立ってるだけで宣伝になるメイド服のシーリー。


「かわいい子だね〜いくつ?」

「良い服だね〜、宣伝のお手伝いしてるの?」

「あ……う……」


 たまに話しかけられるが、うまく話せないひかり。


 ひかり視点では苦行のような長い時間を過ごして、三人は無事に、高級服飾店『オウカ』の宣伝を完遂したのだった。



「いやぁ、これで1万シルバーはボロいな〜! はっはっは!」

「いや、あたし超恥ずかしかった……」

「二度とやりたくないです……」


 仕事を終えて、それぞれがそう感想を述べた。

 イストは満足げだが、シーリーは疲れ、ひかりは満身創痍だった。

 目立ちたくないのに、こうも目立ってしまう役回りをしてしまうとは。

 これなら、セキリュウソウを採取した方がまだ気が楽だった。


「確かに1万シルバーは貰えたけどさ……。これってもしかして、ローランドの入れ知恵?」

「えっと……」

「そうだぞ」


 言っていいものかひかりが迷っていると、イストがあっさりと答えた。

 今回の依頼、あくまでひかりからの護衛依頼という形になっているが、計画を立てたのは領主ローランドだ。


「お前が頑なにひかりの報酬受け取らないから、こうしてローランドのやつがわざわざ考えてくれたんだ。その1万シルバー、大事に使えよ」


 ビシッと指差して、そう言うイスト。

 シーリーは少し口をへの字に曲げたが、すぐに俯いて、呟く。


「ごめん、ありがとう……」

「礼ならヒカリに言いな。人見知りながら、1日頑張ってくれたんだからよ」

「ヒカリちゃん、ごめん、ありがとうね」

「い、いえいえ!」


 どうやらイストは、ひかりが宣伝で疲れ切っているのも見越して、シーリーに話をしていたらしい。

 もしかすると、ローランドもこの流れを読んでいたのかもしれない。


 ともかく、ひかりのもやもやは晴れ、ひかりとシーリーとイストは、無事に1万シルバーを手に入れたのだった。


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