51話:クローバー領主
3章!(だと思う)
「すぅー……はぁ……」
「緊張しなくていいって。うちの領主、平民上がりだからよ」
転生者とリッチとの戦いから、はや1週間が経った。
ひかりは、ノースブランチの街で、領主ローランドとの面会をするところであった。
そう、ノースブランチの街。
ひかりが拠点にしていた、サウスブランチの街ではなく、その北部にある、少し大きな街。
初めてくる街だと言うのに、おまけに領主との面会を行うという。
ひかりはバリバリに緊張していた。
あれから1週間で、いろいろなことがあった。
ほうほうのていで街に帰ってきた一行は、まず身体を休めることに専念した。
イストは火傷、シーリーは切り傷、ひかりも全身打撲。プラムは毒が周り、養生しているらしい。全員命に別状はなかった。
それから1週間後。
ひかりはノースブランチに住んでいる、クローバー領の領主から、直々にお礼を言われる運びとなった。
貴族との対面はなんだか怖いので辞退したかったが、イストが怖がる必要はないと強く推してきたため、しぶしぶ足を運ぶことになった。
そして現在。
ひかりは領主宅にて、領主と面会することになった。
「でもやっぱり緊張します……」
「まあお礼を言われるだけだから、そうかしこまるなって」
領主との面会は、イストも立ち会ってくれるらしい。そこだけは頼もしかった。
「ほら、ここが領主の待ってる部屋だ。入るぞ」
「ま、まだ心の準備が……」
「おーい、ローランド、入るぞー」
ひかりの意見を無視し、イストはそう声をかけてから扉を開けた。
イストが先に部屋に入り、ひかりもビクビクしながら部屋に入った。
「やぁ、二人とも、お疲れ様」
中で待っていたのは、柔和な笑みを浮かべた、身なりのいい、20歳ぐらいの男性だった。
緑の髪に、整った容貌。貴族にしては、親しみやすそうな雰囲気。
彼がローランド。このクローバー領の領主らしい。
「は、はじめまして、ヒカリと、申します……」
「そうかしこまらなくていいよ。僕も平民上がりで、貴族の礼儀作法は勉強中でね、気楽に接してくれ」
ローランドからそう言われても、ひかりはあまり気が抜けなかった。
ソファに座ると、メイドさんがやってきて、紅茶とお茶菓子を用意してくれた。が、ひかりにはとても喉を通らなかった。
領主がお茶を飲みながら、ひかりに話しかけてきた。
「ヒカリさんだね。お会いできて光栄だよ。イストから大体の説明は受けているよ」
領主はお茶を置き、深々と頭を下げた。
「この度は、本当に感謝している。セキリュウソウ関連の情報に関してと、虫使いの民たちとの交渉のためにセキリュウソウを採取してくれたこと。そしてなにより、邪悪な転生者からイストたちを助けてくれたこともね。感謝してもしきれないぐらいだ」
「そんな……わたしは全然、何も……」
セキリュウソウ絡みはギースからの依頼から得た情報だったし、虫使いとの交渉を実際に行ったのはイストの功績だ。
さらには転生者には手も足も出ず、プラムがほとんど倒したようなものだ。ひかりはリッチになってからの止めしか刺していない。
お礼を言われるほどの功績は、立てていないと考えていた。
しかし領主は、柔和な笑みを浮かべて続ける。
「セキリュウソウ絡みの情報はとても貴重だったし、虫使いと交渉できたのは、君がセキリュウソウを取ってきてくれたからだ。サクラさんのおかげで、虫使いの人たちの作る糸から、高品質の布が作れるようになった。おかげでこの貧しい領が、ようやく潤うと思うよ」
「今まで薄給だったからな」
イストの物言いに、ローランドは苦笑いをした。
「苦労をかけるね。利益ができたら、必ずボーナスは弾むからさ」
「まあ、楽しみに待ってるわ」
イストと領主は、相当仲が良いようで、お互いに遠慮なくやりとりをしていた。おもにイストが。
ひかりは、話に口を挟む。
「虫使いの人たち、味方になったんですね」
「ああ、セキリュウソウと、この土地での仕事を約束するのと、糸の利益を割り振るのを引き換えにね。オルブライト領から、こちらの領に引き抜くことに成功したよ」
「ざまあねえぜ、オルブライト領主、今頃カンカンだろうな」
イストがくっくっと笑う。ひかりも苦笑した。
何にせよ、セキリュウソウが無事に渡ったようでよかったと思った。
虫使いの人たちが味方についてくれれば、さくらが蜘蛛の糸から布と服を作ってくれる。そうすれば、領地に利益が出る。
いい事ずくめだった。
「それで、功績者であるひかりさんに、報酬を支払いたい」
「え!? わたし、ほんとに何も……」
「たくさんしてくれたんだよ。繰り返すけど、セキリュウソウの情報は貴重だし、虫使いの交渉も、君のスキルありきだった。何より、危険な転生者……リッチを葬ってくれたこともね」
「転生者の人は、本当に止めだけ持って行っただけなんですけど……」
「それが助かったんだよ。プラムは、とても毒に弱い体質でね、あのままリッチと戦っていたら、命を落としていたかもしれない」
ひかりは後から聞いたのだが、あの時のプラムという助っ人の魔法使いは、極めて毒に弱く、毒沼ではかなりギリギリの戦いをしていたらしい。
だから、ひかりがリッチに止めを刺したのは、かなりのファインプレーだったようだ。
ひかりとしては、あまり実感は湧かなかったのだが。
「とにかく、報酬を受け取ってほしい。ただいくつか申し訳ないことがあってね、先に謝罪したい」
「謝罪?」
報酬が貰えるらしいと聞いて、ひかりは内心遠慮しようかなと思ったが、その言葉に首を傾げた。
「まず、うちの領は貧しくてね。即金で支払えるお金があまりないんだ。だから、現物支給という形で、報酬を支払いたい」
「は、はい」
別に現物支給でも、ひかりは問題なかったのでそう答えた。
「助かる。例のものを」
「はい」
領主がそう言うと、傍に控えていたメイドが、部屋の隅から何かを取り出した。
それらを、テーブルの上に並べる。
「これは、先の転生者でありリッチの持っていた、マジックアイテムの数々だ」
「おお……」
テーブルの上には、5つのマジックアイテムが並べられた。
どれも見たことのない、魔法の品物である。
そして領主は、大きな紙を手渡してくる。
「これがその、マジックアイテムのリストと効能だ。後で確認しておいてくれ」
紙を渡されて、内容を確認するひかり。
どれも、便利そうなアイテムだった。
「この中から、1つ貰っていいってことですか?」
「いや、5つとも差し上げたい」
「え!?」
恐らく高価であろう、マジックアイテムが5点。
これを5つ全部貰えるとなると、破格の報酬であった。
「色々と理由があってね。まず、例の転生者から、プラムがマジックバッグを奪ってくれた。その中には20点を超えるマジックアイテムが含まれていた」
「そんなに……」
強い転生者だとは思っていたが、まさかそれほどまでに装備も揃えていたとは。
ひかりは内容に驚いていた。
「で、そのうちの大半が、危険だったり違法だったりする品物だった。爆弾とか、毒薬とか、奴隷化の首輪とかだね。そういったものは、こちらで没収した。その残りが、6点のマジックアイテムだった」
「6?」
ひかりに渡されたのは、5つのマジックアイテムだ。1つ足りない。
疑問に思っていると、領主が苦笑いを浮かべながら説明する。
「そうだね、まず、例の転生者の撃破は、プラムと君のニ人の功績だ。だから6点のマジックアイテムを、二人で分け合ってもらうつもりだったんだ」
「なるほど……」
たしかにひかりは、転生者との戦いではあまり活躍していない。プラムの方が、功績としては大きいだろう。
3点ずつ分け合うのでもいいし、なんならプラムが5つぐらい持って行ってもいいと、ひかりは思っていた。
「で、プラムなんだが、彼女は非常に毒に弱くってね。マジックアイテムの中に、【毒無効の指輪】があったのを見て、是非欲しいと言い出して聞かなくてね……」
「なるほど、わたしは全然問題ないです」
ひかりはそう言った。
【毒無効の指輪】は、《完全免疫》のギフトを持つひかりにはまったく意味がない。
欲しいなら、プラムに上げてしまって全然構わなかった。
「助かるよ、代わりに、他のマジックアイテムはいらないと言っててね、だから残りの5つは、君に差し上げようと思って」
「ええええ?」
話はまだまだ続いていく。




