50話:vsリッチ
「ふー、楽勝楽勝」
「お前……大丈夫なのかよ」
ふわりと地上に降りたプラムに、イストが問いかける。
「大丈夫にきまってんでしょ、風魔法で毒は遮ってた……うぷっ」
「おい!?」
「最後の爆発で、毒の蒸気吸っちゃったぽい。きもちわる……」
急に青ざめて、吐きそうになっているプラム。
彼女は毒に非常に弱い体質だ。
なので風系統の魔法で、毒沼の蒸気を遮りながら戦っていた。
だが最後、男が使った爆裂魔法が毒沼で炸裂してしまったために、盛大に毒沼から蒸気がたちのぼり、プラムが吸ってしまったらしい。
毒分解のポーションありきでも、これだけ貧弱なのだ。
「うう……吐きそ……」
「しっかりしろ! 俺はお前背負っていく余裕なんてないぞ!」
イストが慌てて毒消しのポーションを取り出して渡す。
現在、シーリーとひかりが怪我をして倒れているのだ。
プラムにまで倒れられたら、立っているのが火傷したイストのみになってしまう。
なんとか弱ったプラムを介護していると、毒沼の方角から、強烈な気配を感じた。
「な、なんだ!?」
イストがそう言った直後。
毒沼に、人影が現れた。
「ガアアアアア!!!」
場所は、プラムの仕留めた転生者の焼け跡。
そこに現れたのは、しかし人ではなかった。
霧散していた灰が、集まって人型を形成する。
それはかつて転生者だった男の、骸骨。
装備
【死者の指輪】
あなたは死亡した後、『リッチ』となって蘇生する(蘇生後この指輪はなくなる)
現れたのは、骸骨の姿の怪物、リッチ。
【死者の指輪】という神器の効果で、男はリッチとなって蘇生した。
リッチ。
死を超越した魔術師であり、アンデッドの王様。
骸骨の姿をしながら、知性を持ち、高度な魔術を扱える、魔術師の極みとも言える存在。
そんな存在が、毒沼に姿を現したのだ。
「アアアア!! こんなクソ田舎で! 切り札切らされるとはなあああ!! もう食い物も女もたのしめねえ!! むかつくぜえええ!!」
骨だけの怪物は、しかし明瞭な発音で、そう叫ぶ。
「だがなあああ!! いい事聞いちまったなああ!?」
リッチは骨だけの手で、プラムの方を指差し、言い放つ。
「おまええ!! 毒に弱いんだなああ!! じゃあ毒で殺せるなあああ!!」
「くそやべえ……」
イストがそう呟く。
プラムは僅かな毒で弱ってしまう。
リッチは強力な魔法を扱える。おまけに、元が魔術800超えの転生者。
イストも身構えるが、勝ち目はほぼない。
絶望的な状況だった。
「アアアア!! しね! おんなああぁぁぁ!!」
「ぐっ、おんな舐めんじゃないわよ!! 骨野郎があああ!!」
リッチの叫びを打ち消すように、弱りかけているプラムも叫ぶ。
だが、弱ったプラムに、毒沼での戦いは命にかかわる。
一方で、アンデッドであるリッチに毒沼の毒は効かない。
戦況は極めて不利だった。
だが、そこに第三者が割って入る。
「《ホーリーライト》!」
リッチのすぐ手前、至近距離で。
聖なる光が、炸裂した。
「ギャアアアアア!!!」
《ホーリーライト》。それは、アンデッドを焼き払う、神聖魔法。
普通の人間が受けても眩しいだけだが、アンデッドであるリッチには、文字通り身を焼くようなダメージと痛みが走る。
(なんだ! 何をされた! いてぇ!! 目の前で撃たれた!? 隠密999のやつの仕業か!!)
聖なる光に焼かれながら、リッチは状況を判断する。
隠密999であるひかりが、隠れたまま至近距離で《ホーリーライト》を撃ったのだ。
目が眩み、身体が浄化される。
(が、まだ死なねえ! 結界もある! 火で焼き払ってやる!)
リッチは、2メートルほどの虹色の球状の結界で身体を覆っていた。《ホーリーライト》は効いてしまうが、それ以外の魔法や物理は通さない。
苦痛に悶えながらも、リッチは魔術を練り上げる。
燃え上がる火を作り出して、前方に放たんとする。
(至近距離なら! 避けられねぇ! 喰らえ!)
「《ファイアストーム》!」
リッチは、前に向かって火炎魔法を使った。
凄まじい炎が、沼地を焼き尽くす。
「《アースウォール》!」
対岸では、イストが魔法で土壁を作り出す。それで炎は遮られ、イストとプラムは守られた。
しかし、前方にいたひかりには、避ける術もないはずだった。
(やったか!?)
リッチは見えない目の中、《サーチ》を使って気配を探る。
イストとプラムの気配はある。シーリーもまだ息はあった。
ひかりの気配は、どこにもない。
リッチは勝ちを確信し、視力が回復するまで待った。
だが。
シュパッ。
紙切れを切るように、リッチの上半身と下半身が、真っ二つに切れた。
「は?」
「頭を狙え!」
イストの叫びに、ひかりは頷く。
ひかりは、リッチの真後ろにいた。
さらには、結界の内側に入り込んでいた。
(どうやって結界の中に……)
リッチがそれを知る事はなく。
ひかりの【アサシンダガー】が、倒れ込んだリッチの頭を真っ二つにした。
ヒカリ=カゲハラ
ギフト:《幸運の申し子》、《完全免疫》、《空間歪曲》
《空間歪曲》
あなたは空間を歪めて、短距離をワープすることができる
ここまで読んでくださりありがとうございます。
微妙にキリが悪いですが第2章はこれで終了です。
引き続き3章に入りますので、よろしければ引き続きお付き合いください。




