49話:魔術師の戦い
「《コントロール・ウィンド》」
プラムは魔法を唱え、ふわりと空中に飛翔した。
(風を操作する魔法? 何故……?)
プラムの使った魔法に、転生者の男は首を傾げた。
《コントロール・ウィンド》とは、風を操作する魔法だ。それ以上の意味はなく、せいぜい突風を吹かせるぐらいしか効果がない。
のだが。
「うっ、うおおお!?」
ガクン、と。
飛翔している男が、突然落下しはじめた。
(《フライト》が消えた!?)
男は飛翔する魔法を使っていたのだが、それが突然消え去り、自由落下を始めた。
慌ててかけ直そうとするが魔法に反応がなく、そのまま毒沼の中に墜落した。
「くっっそが! なんでだ!」
《ウォーターウォーキング》の魔法のおかげで、沼に沈む事はなく。結界魔法のおかげで怪我はしなかった。
しかし再び飛翔しようとしても、できない。
プラムの方は飛翔したまま、余裕たっぷりに言った。
「えー? わかんないー? 何がおきてるか、教えてあげよっかー?」
「このガキ……!」
煽るような口ぶりに、男は青筋を立てて唸るが、次のプラムの発言は、聞き捨てならない内容であった。
「それはねー、あたしが風を操ってるからなの。飛翔魔法は風系統の魔法だから、あたしに風を操られたら、乗っ取られて消えちゃうの。わかる?」
にたーっと笑うプラムに、男は戦慄した。
「バカな! ありえん! 魔法は術者が操るもの! そう簡単に乗っ取ることなど……!」
例えば火系統の魔法で火の玉を作り出している間に、相手に「火を操る魔法」を使われたら?
火の玉が乗っ取られて、術者が燃やされる。ということは、理屈として決してありえないわけではない。
だが普通は、そのような魔法の乗っ取りは発生しない。
魔法で作った火の玉は、術者の肉体に近いものとして扱われ、術者以外にはそう簡単に操れるものではない。
「ありえるのよ。術者同士の実力に、大きな開きがあればね」
「なっ……!」
そう、術者同士に、赤子と大人ほどの力の差があれば、魔法を無理やり乗っ取ることは、理屈としてありえてしまうのだ。
(つまりこのガキ、格上……!? 魔術スキル800超えの俺より……!?)
だとしたら、分が悪いどころの話ではない。
文字通り、超がつく格上。
スキルの数字では計り知れない、魔術の使い手だ。
「この場において、風系統の魔法の全ては、あたしが支配してるの。だからもうあんたは、風魔法は使えないわよ」
「ぐ、くそがぁぁぁ!!」
叫ぶが、実力の差は明らかだ。
どうにか、テレポートと風魔法以外の手段で逃げるしかない。
その2種類の系統の魔法以外に移動手段が思いつかず、男は背を向けて逃げ出した。
「《ウィンドカッター》!」
「うおおお!!」
ズドォン! と音を立てて、沼地が風の刃に両断される。
男の身体も両断されそうだったが、結界魔法がそれを防いだ。
だが、男の結界には、ヒビが入っていた。
(あれが《ウィンドカッター》!? 初級の風魔法のはずだぞ!? なんつー威力!)
結界魔法を慌てて張り直し、男はなりふり構わず逃げる。
「《ウィンドカッター》《ウィンドカッター》《ウィンドカッター》《ウィンドカッター》」
そんな男に、風の刃が嵐のように降りかかる。
一撃一撃が、必殺の威力。それが、魔力の持つ限り続く。
自力で逃げ回りながら、結界魔法を直し続ける男。
どうにか射程外まで逃げれば、なんとかなるかもしれない、そう考えたのだが。
「はいざんねーん! 《アースウォール》」
あと少しで射程外、というところで、プラムは土系統の魔法を使い、沼から土の壁を生やした。
イストの使う《アースウォール》よりも、はるかに巨大で幅広で分厚く、さらに見た目よりもずっと強度は高い。
今の男では、どんなに魔力を振り絞っても壊せない壁。さらに、風系統とテレポートは使えない。
詰みだった。
「くそがあぁぁ!! 《エクスプロード》!」
ヤケクソになった男は、火系統の高位魔法を唱えた。
大爆発する火の塊を、相手に飛ばす魔法。
当たれば、人間など消し炭だ。
だったのだが。
「《ウィンドショット》」
プラムは、一瞬で風の初級魔法を唱えた。
風の塊を飛ばすだけの、単純な魔法。それは、小指の爪先ほどに圧縮され、ドン! と勢いよく発射された。
その風の小さな塊は、今まさに放たれようてしている爆裂する火球に、ピンポイントに当たり。
ドオオオオン!!!
凄まじい爆発を起こして、術者ごと消し飛んだ。
「いっちょあがり、っと」
プラムは杖を振って、イストたちの待っている地上へと降り立った。




