47話:毒沼の助っ人
ひかりは宙を舞い、凄い勢いで土の地面に叩きつけられた。
「ぐぁっ……」
「ヒカリ!」
シーリーのすぐ側に叩きつけられ、苦悶の声を上げるひかり。
男は、ひかりの姿をじっくり見てから、どこか納得したように答えた。
「ヒカリ=カゲハラ。やっぱ転生者が紛れ込んでたか。スキルが隠密999? 通りで《サーチ》にも引っかからんわけだ……」
ひかりのスキルを当てている男。
彼は、《鑑定》のギフト持ちだった。
ひかりのステータス、スキル、ギフトを、一瞬で全て見抜いていた。
「イスト=マルガム、魔術74か。シーリー=イングリス、槍79ね」
イストとシーリーの名前とスキルも、当てられている。《鑑定》ギフトの恩恵だ。
「雑魚だなぁ。スキル100もないのか。まぁこれで102ポイントなら、ボロい稼ぎだなあ……」
「お前が……セキリュウソウを独占してたのか?」
イストが苦しみながらも、そう質問した。
男は、上機嫌で答える。
「いや、俺は雇われだよ。セキリュウソウとかいうのを死守してるのは、別のやつ。俺は転生者を殺して、ポイントを稼げればいい」
やはり、転生者……。『プレイヤー』なのは間違いないようだった。
ひかりを殺せば、100ポイント。ついでにイストとシーリーを殺して、2ポイント。
完全に、ポイントでしか人を見ていなかった。
「転生者は知ってる? 俺がそれでさあ。魔術スキルに800振ってるんだよね」
「魔術、800……!?」
驚異的な数字に、イストは声を上げた。
魔術スキル100もあれば、プロ級。300あれば、超一流の世界だ。
800なんて数字は、もはや化け物を通り越して、神にも等しい、異常値だった。
「転生者っていいよなぁ、最初から才能がある……。俺、前世はなんの才能もなくってさあ、何やっても長続きしなかったんよ」
男は自虐するように語る。
イストはどうにか身を起こしたかったが、火傷が引き攣って、痛む。簡単には動けそうになかった。
「この世界に来て、思ったよ。やっぱ世の中、才能よな。お前ら見てると、そう思うわ。努力なんてぜーんぶ無駄。何年もかけてスキル100ぽっちまであげても、なんの努力もしてない転生者の俺には、逆立ちしても勝てないだろ? なんせ魔術800台だからなあ……」
「ぐっ……」
イストは腹立たしかった。
彼なりに勉強はして、訓練も積んでいる。
魔術スキル74というのは、一人前の水準だ。ここまでたどり着くのは、何年もかかった。
しかし男は、転生者。最初から魔術スキル800台。努力などしなくても、化け物級の魔術の使い手。イストではまるで歯が立たなかった。
努力しないでも強いという、不条理。
才能という名の、圧倒的な差。
ただ負けるだけでなく、その事実をわざわざ突きつけられて、イストは地面に爪を立てた。
「無様だよなぁ。転生者かどうかで、こうも変わるもんなあ。だから、愉快なんだよ。俺は才能あってよかったーってな!」
はっはっはっ、と男は高笑いして。
魔法で宙に浮かび、新たに呪文を唱える。
空に浮かんだまま、男の杖の先に火の玉が生成された。
「光栄に思えよ! 俺の魔術800の《ファイアボール》を受けられることをな!!」
そうして漢は、火球を放り投げた。
それは、バスケットボール大のサイズ。
しかし、地面に着弾する寸前、盛大に弾けた。
ドオオオオン!!!!
轟音と地響きと共に、《ファイアボール》が炸裂する。
それは、イスト、シーリー、ひかりの3名を焼き尽くすのに十分な業火を巻き上げ、キャンプ地は瞬く間に炎に包まれた。
避ける余裕などなく、防ぐ手立てもない。
どう見ても、消し炭になっていくしかなかった。
「さー、これでプラス102ポイントっと……ん?」
男は自身のステータスを確認して、首を捻った。
ポイントが、増えてなかった。
間違いなく相手は焼き尽くしたはず。
改めて燃え上がる炎を見ると、何かキラキラと光るものが見えた。
それは、虹色に輝く、球状の結界。
それが3つ。イスト、シーリー、ひかりを守るように張られており、三人は無事だった。
「これは一体……?」
男が信じられないものを見たかのように呟く。
一方で、イストたちも何が起こっていたのか分からなかった。
気がついたら、結界で守られていた。
魔術スキル800の、《ファイアボール》から。
わけもわからず混乱していると、突風が吹き。
山の方から新しい人影が姿を現した。
「あっはは! イスト、苦戦してるみたいね!」
「おまっ! プラムか!?」
「他の誰に見えるのよ」
プラム。
そう呼ばれたのは、1人の少女だった。
見た目は15歳ぐらいの、細身の少女。背はひかりよりは高いがシーリーよりは低いぐらい。
髪は茶髪でポニーテール。化粧もしており、まつ毛はピンと立ち、口にはグロスが塗ってある。
やや露出のある、ヘソ出しのショートパンツ姿に、外套を纏い、手には煌びやかなワンドを持っていた。
見るからに洒落た魔法使いといった出立ちの少女が、彼らを助けたらしい。
「お前、領主の護衛だろ!? なんでここに!」
「そーなの! ローランがあんたらをちょーーー心配してたから、ちょーーーっとだけ様子見にきたの! ねぇ、えらい? 褒めてくれると思う?」
「絶対心配されてると思うぞ!」
「心配? しんぱいかーーー! それはそれでいいかもーーー! 心配してくれるかな? ローラン!」
キャーーーと身悶えし、自分の世界に入ってしまった少女。
宙に浮いていた男は、ようやく我に返った。
(な、なんだこの女……《鑑定》!)
すぐさま、新しい人物を《鑑定》のギフトで調べる。
結果は、驚くべきものだった。
プラム=ツインダート
ステータス:
生命25
筋力29
器用41
敏捷54
体力15
感覚102
知識455
精神401
魔力834
スキル:近接戦闘74、剣93、隠密29、探知72、料理13、薬学59、錬金術43、魔力制御782、魔術745、火魔法652、水魔法563、風魔法701、土魔法512、光魔法693、闇魔法593、強化魔法523、精神魔法53
ギフト:《マナの肉体》
『プレイヤー』ではありません
「な、なんだこいつ!」
圧倒的な、魔力値とスキルの数々。
異彩を放つギフト。
それでいて、プレイヤーではない。
異常どころの騒ぎではなかった。
「そこのやつ!」
あまりの結果に唖然としていると、少女、プラムの方から、男に話しかけてきた。
「なんだ……?」
「才能がどうとか言ってたわね!」
「聞いてたのかよ……」
イストの悪態を無視し、プラムは話を続ける。
「特別に教えたげる。世の中、才能が全てじゃない。才能なんて上回る、圧倒的な力があるのよ!」
「なにぃ……?」
プラムの言葉に、男は眉を顰めた。
転生者の才能。それすら上回る、力。
それは一体何なのか。
男は真剣に話に聞き入った。
「それはね……愛よ!!」
「は?」
思わぬ言葉に、男は呆気に取られた。
プラムは、なおも話を続ける。
「愛があれば、限界を超えられる! 愛があれば、全てを賭けられる! 愛があれば、自分は変えられるのよ!!」
高らかにそう宣言した。
愛を叫ぶ魔法使いの少女は、恍惚としていて、なおかつ真剣な眼差しで、男にこう言った。
「さあ! 愛の力ってやつを、教えてあげるわ!」
「なんか、やべぇ女が出てきたな……」




