44話:エンチャント
「あとはサクラのやつがどのぐらいのペースで布地を作れるかにかかってるかもな」
「村の蜘蛛の巣の4分の1は布と糸に変えちゃったよ」
「マジで?」
「ほぼ不眠不休だけど、楽しそうに服作ってる」
どうやらさくらは、大人しそうに見えて職人気質であったらしい。
徹夜で布地を作り、裁縫を楽しんでいたようだ。
「じゃあ俺は領主に急いで報告書を……あ」
「どったの?」
「サクラのギフトのことはバレてるから報告するとして、セキリュウソウ絡みの一件をどう説明しようか。どう考えても、俺たちで情報を集めたにしては矛盾が出る。ヒカリの話題を出さずに都合のいい話が思いつかない」
ひかりもあっと気づいた。
セキリュウソウは、ひかりにしか取れない。
セキリュウソウが独占されているという情報も、ひかりづての情報だ。
ギースはこの件に関してはほぼ無関係だし、彼の所為にするのも気が引ける。
ひかりは、思い切って言った。
「領主さん、いい人なんですよね。なら、わたしの事を他に秘密にしてくれる条件付きで、教えてもいいと思います」
「すまんな、助かる」
「いえ、こっちが巻き込んだ事ですので……!」
ひかりの隠密999も、クローバー領の領主に伝わることになるだろう。
けども、虫使いの人たちを説得したいと申し出たのはひかりだし、イストがそれに乗ってくれたのに、これ以上わがままは言いたくなかった。
「じゃあ、俺は報告書書いてくるわ。……ついでに1級が空いてたら、こっちに派遣してくれるように頼んでみる」
「テテさん呼ぶの? 虫使いの人たちと戦うつもり?」
「いや、セキリュウソウの件。……ゴーレムまで配備されてるとなると、どうもきな臭いんだよな。ただの勘だが」
イストはそう言って、報告書を書くべく建屋へと入っていく。
残されたひかりとシーリーは、手持ち無沙汰だ。
「ヒカリちゃん寝てないでしょ? 休んだら?」
「そうですね、そうしま……」
「あ〜! ヒカリさん〜!」
間延びした、ちょっと大きな声で、ひかりを呼び止める者が現れた。
セーラー服から目立たない村娘の服に着替えていた、さくらである。
彼女は目の下に隈を作ったまま、ふらふらとしながら近寄ってくる。
「さ、さくらさん? 大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよぉ。服作るのが楽しくて、徹夜しただけなんで」
疲れながらも、ニコニコしているさくら。
どうやらスキルだけでなく、本当に裁縫好きらしい。
「で、ひかりさん。ここに連れてきてくれたお礼に、ヒカリさんの服に、エンチャントを付与しようと思いまして〜」
「エンチャント?」
「はい〜、《エンチャントマスター》の効果で、服を作ると何かしらの良い付与効果がつくんですよ〜」
そう言えば、そういうギフトを持っていたなとひかりは思い出した。
彼女の作る生産品は、何らかのエンチャントという付与効果が付くらしい。
「えーと、ありがたいんですけど、わたしは今の服が気に入ってて……」
「あ、大丈夫ですよ〜。服はそのままにして、新しくエンチャントだけ付けれますので〜」
「そ、そうなんですか? それなら……」
お願いしてみようかな、と言いかけたところで、さくらは自分の服からハサミと針を取り出した。
「じゃあさっそく、作り直しをしますね〜」
そう言うと。
ハサミが一閃。一瞬でひかりの服がバラバラになり、はらりと落ちた。
「え、ひ、ひゃぁぁ!」
下着だけの姿になって、ひかりは小さく悲鳴を上げた。
それも数秒のこと。
今度は針が一閃。一瞬でバラバラになったひかりの服が、元通りに修繕された。
まるで何事もなかったかのように、ひかりは元の服を着ていた。
「い、いま一体何が……」
「おー、すごい! ヒカリさん、今のでエンチャント3つも付きましたよ〜! 大当たりです〜!」
戸惑うひかりに、気にせずそんな事を言うさくら。
どうやら、今のがエンチャント付与のやり方らしい。
「服に、敏捷強化、疲労軽減、自動再生、がつきましたね〜。おめでとうございます〜!」
「あ、ありがとうございます……。えと、次からは、屋内でやってください……」
一瞬とは言え屋外で下着一枚にされてしまったのを恥じ、ひかりはなんとかそう言った。
「いいな〜。鎧には付与できないの?」
「鎧は裁縫の対象外ですね〜。ごめんなさい〜。靴とかならできるんですけど〜」
「靴……」
シーリーとさくらのやり取りを聞いて、ひかりはある事を思い出し、さくらに話しかけた。
「あのっ、靴に欲しい効果があるんですけどっ」
「おお?」




