43話:交渉の終わり
「ふ〜、終わったぞ……」
明け方になって。
イストと、付いてきてきたひかりの二人は、開拓村に戻ってきた。
「おかえり! どうだった?」
「まあ概ね予定通りだ、問題ないさ。内心死ぬかと思ったが」
シーリーの問いかけに、イストは息を吐いてそう答えた。
ひかりが虫使いたちのアジトを突き止め、その会話を聞いてから、すぐに帰ってイストたちに相談した。
先の襲撃は手加減されており、次は本気の襲撃が来ること。
オルブライト領主により、命令されていること。
何かしらの病気であり、セキリュウソウを求めていること。
そしてひかりがギースの依頼でセキリュウソウを取ったことがあることと、現在セキリュウソウは何者かにほぼ独占されていること。
洗いざらい、知っていることを話して、説得の方法がないかを話し合った。
長い相談の末に、イストが虫使いの説得役を買って出た。
そしてなんとか、虫使いたちとの話し合いを終えたのが先ほどの話。
集めていた大蜘蛛たちを引かせて、交渉は無事に終わった。
「急ぎだから詳しく説明できないって話でしたけど……」
「そうだよ! あたしらにも何があったか教えて!」
「わかったわかった」
再度ため息をついて、イストは詳しい内容を語る。
「まず連中は、オルブライト領の所属だ。オルブライト領は知ってるな、シーリー」
「どこだっけ?」
「うちのすぐ北の領だよ!」
どうやら、オルブライト領とはお隣さんらしい。
イストは改まって話を続ける。
「オルブライト領主とうちの領主は、クソ仲悪ぃんだ」
「そうなの?」
「正確には、オルブライト領主がうちを毛嫌いしてるってのが正しいかな。うちの領主、成り上がりだから」
ここの領主、クローバー領の領主は、平民から貴族に取り立てられたらしい。
それを、気に入らない貴族がいるという事だろう。
それが、オルブライト領主のようだ。
「オルブライト領主は、何かと嫌がらせすることに熱心なんだ。今回の虫使いの件も、その一環だろうな。うちが新しい開拓村を作ることが気に入らなかったんだろう」
「訴えられないんですか?」
「下級の貴族の争いに、国がまともに取り合ってもらえるとは思えん。そもそも派閥の問題もあるからな。オルブライト領主は弱小の派閥たが、うちの領主はそもそも所属する派閥がない。やりあっても、うちが負けるだけだ」
「そんな……」
貴族の派閥。
派閥によって、貴族の力関係が大きく影響するらしい。
派閥を持たない貴族は、横のつながりがなく、やっていくのは厳しいようだ。
「話を戻すぞ。ヒカリはセキリュウソウを渡すことで、虫使いたちを説得できると考えたんだろうが、実際はそう甘くはない。虫使いがオルブライトの手下である以上、オルブライトの命令には逆らえんからな」
「なるほど……」
「そこでだ、虫使いたちに、オルブライト領を見限って、うちに付くように説得してきた。なるべくうちにつくメリットを提供してな」
イストの説得は、そう言った趣旨であった。
オルブライト領主を見限って、クローバー領についてもらう。
そのために、セキリュウソウの存在をちらつかせた。
「セキリュウソウの話だけじゃ、向こうが領を裏切ってまで乗ってくれるとは思えねえ。だから、超凄腕の密偵の存在をうまくアピールした。この密偵が、セキリュウソウ絡みの情報を握っている。逆に、そっちの情報も筒抜けだぞ〜ってハッタリをかけてな」
「凄腕の密偵?」
「ヒカリだよ。実際セキリュウソウ絡みの情報を持ってきてくれたし、音も気配もなく手紙やナイフを置いてくれた。向こうは、大分驚いたと思うぜ」
ひかりの隠密999は、虫使いたちにもまったく気づかれなかった。
向こうは、大分驚いただろう。
「そうやって揺さぶりをかけてから、例の布地を見せて、蜘蛛たちの価値を見出せることもアピールしてきた。蜘蛛の糸が金になるって分かれば、グラつくだろう」
「はぇー、イストって頭よかったんだねぇ」
イストの見せた布地は、さくらがギフトで作ったもので、白くて滑らかで丈夫な、いかにも値打ちのありそうな素材だった。
これを作り出せるとなれば、虫使いたちをクローバー領に引き込むのは、十分なメリットになる。
「猶予は、2週間貰った。2週間以内に、うちでセキリュウソウを1本用意する。その2週間の間、虫使いたちは攻めてこない。2週間後に、本当に寝返ってもらうなら、うちからセキリュウソウを渡す。そんな約束だ」
「なるほど!」
「つまりだ」
イストは、ひかりを指差して言った。
「ヒカリ、交渉の成否は、お前にかかっている。本当に2週間でセキリュウソウを1本、用意できるんだな?」
「全力を尽くします!」
ひかりのわがままを聞いてもらったのだ。
今度はひかりが、頑張る番だ。
ひかりは、セキリュウソウを採るために、強く決心した。
「あとは……領主に後追いで、了承貰わんとな……」
「あれ、勝手に話を進めて良かったんですか?」
「良くないが、緊急事態だったしな。それに、メリットも十分あるし、まぁ、いけるだろ」
「ローランドお人よしだから大丈夫!」
「はぁ……」
なんだか領主は領主で大変そうだなと感じるひかりであった。




