40話:森の斥候
「この大量の糸、全部貰っちゃっていいんですか〜?」
「むしろ困ってるぐらいだから、頼む。是非とも全部糸に変えてくれ」
さくらという思わぬ救世主の登場に、イストらだけでなく、開拓村の全員が色めきだった。
何せ、村中が蜘蛛の糸で覆われて、困り果てていたのだ。
それを、白い美しい糸に変換できるというなら、まさに一石二鳥、値千金の能力を秘めていた。
「サクラちゃんお願い! あたしの鎧を回収したいから、糸に変えて!」
「いいですよ〜」
シーリーの鎧も無事回収でき、とにかく大量の糸が生み出された。
「じゃあ布に変えてみせますね〜」
さくらはそう言って、とりあえず集まった大量の糸に向かって何やら念じる。
すると白い糸が瞬く間に高速で縫い合わされ、長く美しい白い反物へと変化を遂げた。
「こ、これが、ギフトの力か……」
「サクラちゃん、すごーい!」
村を悩ませる蜘蛛の巣が、いかにも価値のありそうな布地へと姿を変えた。
これができるなら、蜘蛛の糸は相当な資金源へと姿を変えるだろう。
改めて、さくらのギフトに、一同は戦慄した。
……。
……。
「村の蜘蛛の巣はどうにかなりそうだ。だが、根本的な問題は消えてねえ」
イストは改まって、シーリーとひかりたちに言った。
さらに今回は、開拓村の警備隊長もいる。
4人での会話は、緊張感のあるものだった。
「肝心の蜘蛛の件だな?」
「ああ、次こそは、積極的に殺しに来るかもしれん。昨日のあの戦いぶりだと、一方的にやられかねん」
イストの意見に、警備隊長は苦々しい表情を浮かべた。
「不甲斐ない限りだ。なんとか建物の上で戦えればいいのだが……」
「それはぶっちゃけ、どうにもならんと思う。あんな組織だったモンスター、3級ぐらいの魔術師が味方にでもいないと、何もできずにやられると思う」
「ではどうする?」
警備隊長の質問に、イストは唸るようにしてから答えた。
「まず開拓村を放棄するのは視野に入れておいた方がいいな」
「やはりそれしかないか……」
「いや、あくまでも視野に入れる、だ。やり方次第では、ワンチャンあるかもしれん」
イストの物言いに、警備隊長は食いついた。
「何か手があるのか?」
「かなり博打になるが……ヒカリ、お前が鍵だ」
「わたし……ですか?」
話を振られ、困惑するひかり。
イストは頷いて、話を続ける。
「恐らくなんだが……。蜘蛛たちの逃げていった方角に、蜘蛛を操ってる人間がいる」
「人間なの? 蜘蛛のリーダーとかじゃなくて?」
シーリーの意見に、イストは首を振って答えた。
「十中八九、人間の仕業だ。ただのモンスターの群れなら、もっと積極的に人を襲うはずだ。恐らく指揮を取っている、テイマーがいるんだろうな」
「虫のテイマー?」
「ありえん。テイマーと言えば動物形や鳥類系のモンスターと相場が決まっている。虫のテイマーなど、聞いたことが……」
「まぁテイマーかもわからんが……とりあえず、虫を操れる何者か、人間がいると俺は睨んでいる」
イストは真剣にそう言って、ひかりの方を向いた。
「ヒカリ、お前に、蜘蛛の足跡を追って欲しい。そこにテイマーらしき人間がいたら、なるべく情報を集めて欲しい」
「待て、危険ではないか?」
口を挟む警備隊長に、イストは真顔で答えた。
「こいつは、隠密に優れてるんだよ。恐らく、大抵の相手には見つかることはない」
「はい、大丈夫です!」
ひかりも、そこはアピールした。
何せ隠密999である。
これで見つかるようなら、どうにもならない存在がいるのだろう。
「わかった……信用する。それで、一人で行ってどうするんだ?」
「犯人のアジトが見つかれば一番いい。領主お抱えの1級冒険者をなんとか引っ張り出して戦わせれば、なんとかなる、はず」
「テテさん、乗ってくれるかなぁ」
「陳情出せば乗ってくれるとは思う。というわけで、ヒカリに重要ミッションだ」
イストに名指しされ、ひかりは背筋を伸ばした。
「蜘蛛の跡を追ってくれ、できればアジトを、さらにできるならできる限りの情報を集めてくれ。決して無理するなよ、生きて変えるのが斥候の仕事だ」
「や、無理に引き受けなくてもいいと思う。危険でしょ? ヒカリちゃん。よく考えて」
「いえ」
気遣ってくれるシーリーだが、ひかりは迷わず答えた。
「やらせてください。できる限りのことはします!」
「すまんな、助かる」
こうして、ひかりの潜入ミッションが始まるのであった。




