38話:大蜘蛛
クローバー領の新たな開拓村は、大混乱に陥った。
人間ほどの大きさを持つ蜘蛛の群れが、開拓村に襲いかかってきたのだ。
数は二十を超えている。
「作業員たちは建屋に避難しろ!」
「くそっ、モンスターはいないんじゃなかったのか!」
「イスト、援護お願い!」
「わかってら!」
時刻は真夜中。篝火をつけて、総出で迎え撃つ。
イストとシーリー、そして村の警備隊を集め、村の出入り口に防衛ラインを構築した。
「来てるぞ!」
大蜘蛛はガサガサと村に殺到し、防衛戦が幕を開ける、ように思われた。
しかし何故かすぐには襲いかかって来ず、包囲するように村を囲み始めた。
(妙に統率が取れてやがるな……)
こちらが防衛ラインを完成させてなお、まだ攻め込んでこない大蜘蛛たち。
モンスターにしては統制の取れた動き方に、イストは悪い予感がしていた。
こういう予感ほど、よく当たる。
「で、伝令! 北側から蜘蛛が入り込みました!」
「どっから入ってきた!?」
「柵を乗り越えられてます!」
「くそっ!」
堀を準備し、柵を作ってはいた。これがあれば、大抵の獣は入って来れないか、時間は稼げるはずだ。
だが相手は、統率の取れた大蜘蛛である。
見れば、村の北側の建物の上を、ガサガサと黒い大蜘蛛が歩いている。
大きな蜘蛛のモンスターは、糸を噴射し、他の建物に橋をかけるようにしている。
来た道にも、多数の蜘蛛の糸が張られており、足場ができてしまっている状態だ。
このままでは次々に侵入され、村の中は大蜘蛛だらけになるだろう。
「南からも入り込まれてます!」
「くっ、柵を乗り越えられるんじゃ意味がない! 防衛ラインは最小限! 各地で入り込んだ蜘蛛を撃破しろ!」
大蜘蛛は建築中の建物の上に陣取り、次々と糸を吐いて場を制圧していく。
建物の高さにいるので槍は届かず、矢を射るぐらいしかできない。
火を使えば蜘蛛の巣は焼き払えるかもしれないが、村の建物は基本的には木組み、大火災になってしまう。
どうにもならない状況に、現場は混乱する。
「イスト、蜘蛛だけ落とせない?」
「あんな高い場所にいられちゃ、蜘蛛だけってのは無理だ! 建物ごと壊しかねん!」
「土で足場作って! あたしが登る!」
「それしかないわな! 行け! シーリー!」
イストが《アースウォール》の魔法を唱えると、シーリーの足元から高い土壁がせり立つ。
その勢いのまま、シーリーは建物の上に飛び乗り、大蜘蛛と対峙した。
「でりゃー!!」
しっかり槍を引いて鋭い突きを放ち、シーリーは早速、大蜘蛛を1匹貫いた。
大蜘蛛は外殻こそ硬いが、腹部はやわらかい。
槍の射程内に入れば、倒せないこともないのだが。
「蜘蛛が続々と入り込んでいます!」
「くそっ! どいつもこいつも建物の上か!」
「俺がなるべく土魔法で足場を作るから、登れ!」
大蜘蛛たちは、徹底して地面には降りて来なかった。
じわじわと侵入数を増やしては、糸を吐き、足場を作る。
次第に上は蜘蛛の巣で覆われていき、矢が糸に遮られ始める。
少しずつ警備兵たちが建物に登り始めるが、巣を張った蜘蛛たちの機敏さには追いつけない。
対応は、大分後手に回っていた。
「う、うわ、囲まれちゃっ、わあぁ!?」
建物に登って応戦していたシーリーも、巣を作った大蜘蛛3匹に囲まれ、大量に糸を浴びせられた。
糸は粘着性で、非常に丈夫。シーリーは上半身を絡め取られ、動けなくなった。
「イストー! たすけてー!」
「くっそ、俺も上に上がる! 待ってろ!」
イストも《アースウォール》で、自身を建物の上に押しやる。
建物の上では、散々な光景が広がっていた。
バランスの悪い建物の上、大蜘蛛には地の利があり、足元もおぼつかない警備隊は、数でも負けている。
警備兵たちも、シーリーに続いて、大蜘蛛の糸に絡め取られていた。
どう考えても、このままでは全滅する。
……そうよぎった時、視界の端で、大蜘蛛が両断された。
「ん?」
イストがそちらを向くと、真っ二つに両断された大蜘蛛が一体。
「ギッ!」
そして、そのすぐそばにいた蜘蛛が、今まさに体と腹を両断されて、死骸になった。
それを行った人物の姿は、見えない。
だからこそイストは、ようやく反撃のチャンスが来たと思った。
「もう少し持ちこたえろ! 建物に上がれ!」
イストはなるべくあちこちに足場を作るべく、土魔法を駆使した。
イストの予想通りなら、蜘蛛を一方的に両断できる味方が、1人いる。
そいつのサポートをすべく、立ち回った。
のだが。
「ギッ、ギッ」
「ギッ」
「え、引くのかよ!」
蜘蛛たちは、何を考えているのか、一斉に来た道を引き返し、村の外へと出ていく。
統制の取れた動きのままで、森の中へと去っていった。
時刻は明朝。
辛くも勝利、とはとても言えない惨状で、開拓村の夜が明けた。




