37話:森の強襲
さくらは、比較的スムーズに開拓村に馴染んだ。
料理上手な年頃の少女。人当たりの良さと、見た目のかわいさもあって、村人からは人気も出た。
「サクラちゃんの料理おいしーからねぇ」
「とりあえず転生者であることはバレてないみたいだな」
イストにシーリーにひかりが、集まって話をしている。
とりあえず問題なく仕事に付けたようで、ひかりとしてもほっとしていた。
「急に連れてきてしまって申し訳ないです」
「いいってことよ。こっちも助けられてるからな。なんかあったら、頼れ」
イストの申し出に、ひかりはありがたい気持ちでいっぱいだった。
「でも今この開拓村には服屋がないから、裁縫ができるなら服屋経営してもらうのが最良かもしれんがなぁ」
「できないんですか?」
「登録料が少々かかる。商人ギルドを通さなきゃいかんからな。村の一店舗ぐらいなら、まあ500シルバーぐらい?」
さくらの所持金は、ひかりと同じぐらいだとすれば、1000シルバー前後。
500シルバーも払うのは、なかなか大変かもしれない。
(わたしが出してもいいんですけどね……)
ひかりは口に出そうになった言葉を噤む。
最近稼いだだけでも3万シルバーもあるので、500シルバーぐらいならポンと出せそうなものである。
しかし、あまりさくらに肩入れするのも考えものだし、結構ギリギリな暮らしをしているイストたちにも申し訳ない。
黙っておくことにした。
「それはそれとして……。わたし、この村で手伝えそうな仕事ってありますか?」
「俺ら冒険者は、村の見張り兼護衛だからな。賊やモンスターがでない限りは、やる事ないさ」
「ひかりちゃん、よかったらまた訓練する?」
「いえ、疲れ切っちゃったらお仕事できなくなるので、遠慮しますっ」
シーリーの申し出を、ひかりは慌てて断った。
ともあれ、やる事は少なそうだ。
ひかりは何がないかと考えて、イストたちに提案する。
「森に危険なモンスターがいないか、偵察してきましょうか?」
「いや、もう偵察はしたんよ。流石に危険なモンスターがいたら、開拓どころじゃないからな」
「じゃあ……薬草とか、採取できそうなものがあったら」
「ん〜、一応冒険者は護衛や見張りがメインなんだが、まぁ退屈だよな。そのあたりの仕事手伝いに行くのが妥当かな」
「ギフトもあるしね!」
二人はひかりが暇だろうと気を遣ってか、村人たちに採取の仕事を回してもらうよう声をかけてくれた。
ちょっと申し訳ない気持ちはあったが、ひかりのスキル上、護衛や見張りよりは、森の中を探し回る方が効率がいい。二人の好意に甘えることにした。
「森はかなり深いからな〜、迷わないように気をつけろよ。迷ったら、焚き火を燃やして煙を上げてくれ〜」
「気をつけてね!」
「ありがとうございます!」
二人に見送られて、ひかりは森の探索を開始した。
……。
……。
「またあった、よし、こんなものかな……」
森に生えている山菜と薬草を、背負いカゴに詰めて、ひかりはそう呟いた。
ギフト《幸運の申し子》のあるひかりは、運良く薬草の群生地を見つけ、山菜もそれなりに発見できた。
薬草は森特有の薬草で、チュームと呼ばれるハーブに近いものだった。
山菜は種類が多くて覚えきれなかったが、ゼンマイに似た山菜があったので、それをたくさん採った。
(そろそろ日が暮れる……帰らなきゃ……)
ひかりがそう考えながら、振り返る。
森のそう深くない場所だ。すぐに帰れる。
と、そこに。
ガサッ。
(!?)
茂みから、何かが出てきた。
それは、人間サイズほどもある、巨大な黒い蜘蛛だった。
「ひっ……」
ひかりは声を出して尻餅をついた。
虫は、元女子中学生にしては、平気な部類だ。よほど大きな虫でなければ、丸めた新聞紙で倒せたものだ。
しかしこの蜘蛛は大きすぎる。
巨大な虫の嫌悪感に、ひかりは震え上がった。
(も、モンスター……?)
人間サイズの黒い蜘蛛。
どう見ても普通の虫ではないだろう。
幸いにして、隠密999のひかりに気づく事はなく、ガサガサと茂みを掻き分けて横切っていく。
だが。
ガサガサ。ガサガサ。
ガサガサ。ガサガサ。ガサガサ。
ガサガサ。ガサガサ。ガサガサ。ガサガサ。
(〜〜っ!?)
ひかりは悲鳴を上げそうになった。
蜘蛛は、1匹ではなかった。
十を超え、二十を超える数の、大きな蜘蛛。
それらは、一斉に、開拓村のある方向に向かっていた。
(村が、あぶないっ!)




