3話:出会い
「あたしシーリー! こっちの冴えないやつがイスト!」
「冴えないは余計だ! つーわけで俺がイスト。イスト=マルガムだ」
「影原ひかりです。ごめんなさい、さっきは驚かせて……」
ひかりが声をかけた二人。冒険者のシーリーとイストは、ひかりを連れて街に戻る最中だ。
シーリーは鮮やかな金髪を三つ編みにした、槍使いの少女。歳は十七ほどで、発育のいいらしい身体を金属鎧の中に押し込めている。
イストはくすんだ白っぽい金髪を短く切った、魔術師の青年らしい。歳は二十ほど。だぼっとしたローブに、木の杖を持っている。
「いやー、ほんとびっくりしちゃってごめんねー。こんな所に人いるなんて思わなくってさー」
「いえいえこちらこそ……」
「ていうか、どっから出てきたんだ? 急に出てきたように見えたんだが」
「えっと……」
ひかりは言い淀んだ。
素直に隠密999だからです、とは言えない。
おそらく、異常と思われそうな数値だからだ。
ゲームとやらのルールから察するに、これはデスゲーム。『プレイヤー』であることは周りにバレないほうが良いと思う。
しかし、至近距離まで気づかれなかったという事態に、良い言い訳が浮かばない。
ひかりが戸惑っていると、シーリーが助け舟を出した。
「そんなの、森の中から出てきたんでしょ。あたしらお喋りに夢中だったし」
「まあそうだなぁ。気が抜けてたのかもな」
二人で勝手に納得してくれたようで、ひかりはほっと胸を撫で下ろした。
しかし、また次の質問が出てくる。
「で、カゲハラちゃん、なんで森の中にいたの? いまゴブリン大量発生で危ないよ?」
「そ、それは……」
一人で、丸腰で森の中にいた理由。
転生してきたばかりですと正直には言えない。
ひかりは、少し考えて、適当にでっちあげることにした。
「き、気がついたら、森の中だったんです。それで、過去の記憶がなくって……」
「記憶喪失ってこと?」
「た、たぶん、そう、かな、と」
歯切れの悪い物言いだったが、元々ひかりは対人関係を構築するのが苦手なタイプだ。普段とあまり変わっていない。
そう話すと、二人は顔を見合わせて話す。
「んー、森の中で記憶喪失っていうと……」
「まだわからんが、テレポート事故かもな」
「テレポート、事故……?」
二人の話に、ひかりはおそるおそる声をかける。
「テレポートっていう、長距離の瞬間移動魔法があるんだよ。便利だけど、たまーに事故って、めちゃくちゃな座標に飛ばされたり、記憶が吹っ飛んだり、最悪身体がバラバラに飛んで行ったりすることもある」
「そ、そーなんですね……」
内容は恐ろしかったが、どうにか誤魔化すことには成功したようで、ひかりは再び胸を撫で下ろした。
「だとしたら、運が良かったねえ! 身体バラバラにならなくて!」
「よくはねーだろ。知らない場所に飛んできたんだから。カゲハラ? って言ったっけ? 行く当てはあるのか?」
「まったくないです……」
しゅんとしょげるように言うひかり。
実際、これからどうしたらいいか分からない。
地名もわからないし、知り合いもいない。まったくの新天地。
何からしたらいいのか、まるで見当もつかなかった。
「カバン一つあるけど、無一文か? そりゃーきちーな」
「イスト貸してあげればいいじゃん、女好きなんでしょ?」
「人聞きの悪いこというな! まぁちっとぐらいなら、融通してやっても……」
「あ、あの。銀貨ですよね? たぶん、あります……」
ひかりは鞄を開けて、中に入っていた銀貨を見せる。
鞄ギッシリの銀貨を見て、二人は目を丸くした。
「これ全部シルバー硬貨か? 結構な額だな!」
「すごーい! お金持ちじゃん!」
「そ、そうなんですね……」
二人の反応を見るに、それなりの資金はあるようだった。
「国内の銀貨だよな。てことはこの国のどっかか」
「外国じゃなくてよかったね〜」
実は異世界から来たのだが。
ある意味では、テレポート事故という言い訳は通りそうだなと思った。
もっとも、この世界のこの国のどこにも、ひかりの故郷はないのだが。
「ちょっと街戻って、ギルドに仕事の話したら、なんか食いながら話そうぜ。今後のこと考えたら、色々知っておいたほうが良さそうだ」
「イストがいつになく親切だ。やっぱかわいいから?」
「ちげーよ! ここで放置して、明日死体ででも見つかったら気分悪いだろうが!」
「あはは……」
そんなやり取りをしながら、一行は街に戻って行った。