27話:結末
ひかりがギースから受けた指示は、以下の通りだった。
「まず魔術スキルに20ポイント振れ。《サーチ》と、その上位版の魔法が使えるようになる。それで二人の正確な場所を探せ」
「残りの22ポイントは、近接戦闘と短剣に半分ずつ振れ。ゴブリンといえど、一撃で仕留めるには慣れがいるからな。スキルでそれを補え」
「これを持っていけ。【アサシンダガー】と言う。このダガーを見られる前に先に斬りつけることができれば、切れ味の増すダガーだ。お前の隠密と合わせれば、強力な武器になるだろう」
「これも持っていけ。【白の煙玉】……まあありきたりな煙玉だな。現場に着いたら、これを石とかで叩き割って、煙幕を張れ。お前の隠密スキルがあれば、実質無制限にダガーを振るえる」
「最後に、これを飲んでいけ。【最高品質スタミナポーション】だ。飲んでから半日は、どれだけ走り回ってもまったく疲れないはずだ。時間切れになると2、3日は寝込むから、その前に帰ってこい」
以上。
ひかりは、上記の指示に従い、イストとシーリーの助けに向かった。
まず【最高品質スタミナポーション】のおかげで、現場まで全力で走っても、まったく疲れなかった。あっという間に森までたどり着くことができた。
次に魔術スキル20で使用できる《サーチ》の上位版を駆使して、ゴブリンの中に人間二人の生命反応を探知、イストとシーリーの逃げ込んだ横穴を特定し、現場まで辿り着いた。
それから【白の煙玉】を叩き割って、ゴブリンたちを煙幕で覆う。大量の煙に混乱している隙に、隠密999が猛威を振るう。
ひかりは、【アサシンダガー】を振るって、ゴブリンを殺害した。
虫より大きい生き物を殺すのは初めてだったが、とにかく二人を助けるために必死だった。
相手に気づかれていない状態での【アサシンダガー】の切れ味は本当に凄まじく、新品のカッターナイフで紙を切っているような感覚で、いとも簡単にゴブリンが切れた。
ひかりは合計68の一般ゴブリンと、3のゴブリンシャーマン、そして、ゴブリンロードをも倒してしまった。
ゴブリンロードは感覚100以上ある化け物だ。並の奇襲では気づかれてしまうだろう。
しかし隠密999のひかりにはまったく気づけず、脚に【アサシンダガー】が綺麗に入って転倒し、訳もわからぬまま首を切られて絶命した。
こうしてひかりは、イストとシーリーの周りに集まっていたゴブリンを全て葬り、二人を助け出せたのだった。
……。
……。
ゴブリンロードが殺された事で、ゴブリンたちは統率を欠いた。
と言っても、すぐ解散とはならない。
今まさに人間たちの街へ攻め込もうと集められていたゴブリンの軍勢は、指揮官を欠いても、その大半は流れでサウスブランチの街へ一斉に攻め込んだ。
総数およそ800。
ゴブリンとの激戦が予測された。
しかし、結果だけ言えば、人間たちの大勝利で朝を迎える事になった。
現場は混乱していて情報が錯綜していたのだが、要点だけまとめると。
どこかから2名ほどの冒険者が現れ。
制止も聞かずにゴブリンの軍勢に突撃し。
そのほとんどを虐殺して。
逃げるゴブリンを追って二人とも森へと消えた。
「ちなみに黒髪だったらしい」
後日、ギースがそう教えてくれた。
サウスブランチに辿り着いたゴブリンはわずか十数匹。全て城壁からの矢の雨で射殺された。
まさかの死人ゼロ、怪我人ゼロでの大勝利である。
こうして、サウスブランチのゴブリン騒動は、拍子抜けするほどの圧勝で終わった。
駿馬で来ていた1級冒険者は、出番がなく、昼にはふてくされながら馬車で帰って行ったらしい。
そう考えると、強すぎる転生者というのも問題だなと、後ほど話を聞いたひかりは思った。
ひかりは、【最高品質スタミナポーション】の反動で、3日寝込んだが、無事に回復して復帰することができた。
イストとシーリーが毎日見舞いに来てくれたのが、申し訳なく感じた。
シーリーはひかりを抱いてわんわんと泣いた。
イストはお店のお菓子を差し入れてくれた。
こうして無事にイストとシーリーを助け出せたひかりだったが、復帰後すぐに、二人に呼び出された。
「おじゃまします……」
冒険者ギルドの、音の漏れない個室で、ひかりは二人と話し合いをすることになった。




