24話:救援
「走れ走れ! 囲まれかけてる!」
ゴブリンの王から逃げる一行だったが、それに反応するように、一般のゴブリンたちも集結していた。
ひかりは、息も絶え絶えだった。
ただでさえ、体力がない。森の中を歩き回って疲れている身体に鞭打って、なんとか二人についていく。
「やばいかも!」
「くっそ! どっから湧いてきやがる!」
ゴブリンロードはなんとか引き離せているが、一般ゴブリンがどんどん集まってくる。
このままでは、囲まれてしまう。
そうなったら、詰みだ。
「はぁっ、はぁっ……」
ひかりは、自分が足を引っ張っていることを察していた。
多分イストとシーリー二人だけなら、もっと早く逃げられる。
せっかくの隠密999も、すでに見つかっている状況では意味がない。
足手纏いにしかならない自分自身が、悔やまれた。
「ふたり、とも……先に……」
足が遅くなり、ひかりはなんとか、そう声を絞り出した。
しかしイストとシーリーは、ひかりを見捨てなかった。
「アホ! 置いていけるか! 死ぬ気で走れ! 三人で帰るぞ!」
「イスト!」
「げっ!」
一行は、そこで足を止めた。
何故なら退路には、すでに数十匹のゴブリンが集まっていたからだ。
これでは、抜けられない。
「シーリー、いけるか?」
「無理そう……」
「仕方がない、か……」
ゴブリンたちは、すぐには襲って来ず、しっかりと包囲することを優先していた。
少しだけ、猶予があった。
その隙に、イストは素早く鞄から水薬を取り出し、ひかりに渡した。
「飲め、スタミナポーションだ。体力が回復する」
「は、はい……」
ひかりはよく回らない頭で、蓋を開けられたポーションを飲む。
品質はいいらしく、ひかりの疲労は、かなり緩和された。
「ヒカリ、聞け。リーダー命令だ」
囲まれる中、イストは真剣な面持ちで、ひかりに言った。
「今から俺が大技をぶっ放す。その隙に、一人で街まで突っ走れ。『ゴブリンロードが出た』って憲兵に伝えてこい!」
「え……わたしだけ?」
「隠密90あるんだろ? 多分お前が、一番逃げやすい。大至急、街に情報を伝えろ」
「ふ、二人はどうするんですか?」
ひかり一人で街まで逃げる。
実は隠密999もあるひかりには、できるかもしれない。
しかしイストとシーリーの二人は、残されたままだ。
けれども、イストは笑って答えた。
「俺ら仮にも5級だぜ? ぶっちゃけお前一人守りながら戦うのはしんどいが、二人ならやりようはある。こっちはこっちでゴブリンをあしらうから、心配するな」
そう言って、イストは呪文を唱えた。
「《サンドストーム》!」
突如、土埃と砂の混じった、砂嵐が吹き渡る。
ゴブリンたちは目を庇ったり、目を閉じたりして、混乱し始めた。
イストが叫ぶ。
「俺たちが心配なら、行け! 街で、救援を呼んでこい!」
「はっ……はい!!」
ひかりは少し迷ったが、言う通りに駆け出した。
隠密999をオンにする。
ひかりはそれだけで、混乱しているゴブリンの群れを、やすやすと通り抜けた。
(ぜったいぜったい! 助けを呼んできます!)
走り出すひかりの背後から、二人の声が聞こえてきた。
「ごめん、槍折れた!!」
「シーリーこっちだ! 穴倉に籠るぞ!!」
はたして、救援まで持つのか。
ひかりは不安を振り払って、無我夢中で駆け出した。
……。
……。
必死に、必死に、ひかりは走った。
ひかりのステータスは、敏捷100もある。これは、かなり高い水準だ。
しかし体力は、9しかない。
あっという間に体力を使い切り、息も絶え絶えで、何度も倒れそうになりながら、無我夢中で街へと辿り着いた。
隠密999をオフにすると、見張りの憲兵にひどく驚かれた。
「な、なんだ? 今朝の子か? どこから出てきた?」
「イストとシーリーに連れられて行った子だよな? 何かあったか?」
死にそうなほど疲労困憊だったひかりは、なんとか、絞り出すような、憲兵に伝えた。
「はぁ、はぁ……ご、ゴブリンロードが、出ました」
「ゴブリンロード!?」
「……二人、森に取り残されています、たす、けて……」
ひかりは、意識を手放す寸前、絞り出すように言った?
「二人を、助けて、くださ……」
なんとかそこまで言って。
体力を使い切ったひかりは、気を失った。




