23話:ロード
「8匹目!」
「ギャギャーッ!!」
さらにゴブリンを4匹倒して、一行は森を進む。
その中で、イストが舌打ちをした。
「チッ、悪知恵つけやがって……」
次に遭遇したゴブリンは6匹だったが、2匹逃げてしまった。
追いかける一行だったが、その2匹は、狭い横穴に逃げ込んでしまう。
横穴は、ひかりぐらいならなんとか通れそうな大きさだったが、鎧を着たシーリーが槍を振るうには狭すぎる。
つまり、実質追う事ができなくなった。
「最近多いよね〜。逃げ込むやつ」
「そういう場合は、こうだな」
イストが何やら唱えると、横穴の上側がガラガラと崩れ始めた。
みるみるうちに穴は塞がり、埋め立てられる。
「これでこいつらは、そのうち餓死する。さ、次に行くか」
「は、はい」
森は入り組んでいるだけでなく、山岳とかかって起伏に富んでおり、ひかりはついていくだけで精一杯だった。
討伐したゴブリンの左耳の数が10を超えたが、まだひかりの出番はなかった。
たびたび横穴を見つけては、イストが魔法を使って塞いでいく。ゴブリンの巣もあったが、構わず埋めて行った。
その様子を見て、ひかりは疑問を挟んだ。
「横穴は、埋める決まりがあるんですか?」
「いや、ゴブリンの逃げ道を塞ぎたいだけ……あ、右前方、ゴブリン、数は3」
「はいよっ!」
話しながら、流れ作業でゴブリンを仕留めていく二人。
その手際の良さに、ひかりはより疑念を深める。
(……この二人、なんでゴブリン狩りしてるんだろ)
ゴブリン10匹で、100シルバー。それはいい。ゴブリンは強くはないし、その分報酬も安い。
しかしこの二人の強さなら、もっと他にいい依頼がある気がした。
なにせ、まだ8級であるひかりの薬草採取の一日の稼ぎが、200から400シルバーなのだ。
このペースでゴブリン狩りを続けて、かつ報酬を山分けするなら、ひかりよりも稼ぎが悪いということになってしまう。
5級冒険者でそれというのは、かなり違和感があった。
「二人は、どうしてゴブリン狩りを……?」
「お、それ聞く? まぁ、おかしく思われてもしょうがないわな」
ひかりの質問に、イストは苦笑いをしながらそう言った。
やはり何か理由があるらしい。
「そうだな……わざわざ金にもならんゴブリンを狩ってるのはー……」
「ねーイストー」
「なんだよ」
「槍壊れそう」
話に割って入って、シーリーがそう言った。
見れば、槍の穂先がグラグラしているらしい。シーリーが手でわざわざ槍のぐらつきをアピールしていた。
「あちゃー、もうか」
「騙し騙し使ってたけど、そろそろ買い替えなきゃ。んで、新しい槍買ったら、あたし素寒貧になるわ」
「そろそろゴブリン狩りもきついな」
「だいぶ前からきついよ〜! だいたい飽きるし!」
すっかり二人で話し込んでいて、ひかりはポツンと話に取り残される。
そんなひかりに、シーリーが申し訳なさそうに話しかけた。
「ヒカリちゃん、ほんとごめん。この前上げた短剣、ちょっとだけ借りていいかな。槍が壊れたらあたし、役立たずだから!」
「あ、それは全然大丈夫です」
そう言って、貰った短剣を取り出して、再びシーリーに渡すひかり。
なんだかいたたまれなくなって、ひかりは切り出した。
「……というかわたし、お金、少しならあるので、渡しても……」
「あー! そっちはいい! あたしは後輩からの施しは受けない……!」
現在、ひかりは400シルバーほどは持っている。
恩人たちに素寒貧になられるぐらいなら、貸すなりなんなりしてもよかったのだが、シーリーは断固拒否した。
「何も俺らも、万年貧乏してるわけじゃないぞ。首都の方へ行けば、それなりに稼げるさ」
イストが苦笑しながらそう答える。
だったら尚更、なぜ金にならないゴブリン狩りをするのか。
それを聞こうとして、ひかりは突如悪寒が走った。
「っ! あのっ、なにか、急に嫌な感覚が……!」
「?」
なんとも言えない、嫌な予感。
それはあの時、“黒髪狩り”に襲われる直前の、あの感覚。
ひかりがそう言うと、シーリーとイストが同時に反応した。
「ほんとだ……何かデカイやつの音がする」
「《サーチ》に反応あり、これゴブリンか? 何か近づいてくる」
油断せず、三人は身構える。
しかし、その予感は、予想以上に悪い方向に当たっていた。
森の向こうから、巨大な影が迫っていた。
見た目は、ゴブリンそのもの。
しかし、大きさが桁違い。
木々をかき分けるように、2メートル近い巨体が迫ってくる。
小型のゴブリンと違い、剣と鎧で武装し、兜までつけている、ゴブリンの偉丈夫。
それは、ゴブリンとは比べ物にならないほどの、プレッシャーを放っていた。
「まっずい!」
「ゴブリンロードじゃねぇか! ずらかるぞ! 逃げろ!」
森の奥。ゴブリンたちの王と遭遇し。
一行は背を向けて、全力で逃げに走った。




