22話:ゴブリン狩り
「神聖魔法を授かった!?」
「ヒカリちゃんすごーい!」
その日のうちに、ひかりは冒険者ギルドに赴き、たまたま依頼を見ていたシーリーとイストにそれを伝えた。
「神聖魔法を使えるってことは、色々とできることが増えたな。冒険者としても、かなり便利な魔法だ」
「それについてなんですが、魔法について詳しく教えてもらえませんか? わたし、そのあたりに疎くて……」
「んー、神聖魔法は、感覚派だろうからな。理論派の魔術師の俺からは、あんまりいいアドバイスはできなさそうだが」
イストはそう言って、話を始める。
「まず、共通事項として、全ての魔法は『マナ』と呼ばれる特殊なエネルギーを消費する。『マナ』は大気中にもあるが、基本使えるのは個人の体内にある『マナ』だけだと思った方がいい」
「なるほど……?」
魔法とマナの関係。
いわゆるゲームで言う、MPのようなもののようだ。
「体内の『マナ』は、ステータスでいう魔力にも影響する。魔力が高いほど魔法の威力は上がるし、『マナ』の総量も上がりやすい。
ひかりの魔力は、10(+1)だ。
多分、高い方ではないだろう。
「魔力は、生まれつきの才能もあるが、基本的には魔法を繰り返し使っていくことで鍛えることも可能だ。これから要練習だな」
「ねえねえ、せっかく神聖魔法が使えるようになったんだから、一度パーティ組んでみない? ゴブリン討伐!」
イストの解説に、シーリーが口を挟んだ。
思わぬ提案に、ひかりは少し固まった。
「ええと、わたしじゃ力不足、かも……?」
「神聖魔法を使えるなら、簡単なケガを治すことも可能だ。パーティ組むなら、俺たちにもメリットがなくはない」
イストはそう言って、しかし頭をくしゃくしゃとかいて続けた。
「ただなあ、ゴブリン討伐、面倒な割にあんま金にならんのよなぁ。10匹で100シルバーだから、報酬山分けにすると、あんまり稼げんぞ」
「いいじゃん、経験積ませたげようよ! ヒカリちゃんがよければ、だけど!」
(ど、どうしよう)
ひかりはまだ、神聖魔法というものをよく理解していない。
それに、ゴブリンを殺せるのか、まだよく分かっていなかった。
しかしせっかく誘ってもらったのに、無下に断るのも考えものだ。
7級には上がりたいし、ひかりは提案に応えることにした。
「そうですね……では厄介になります」
ペコリと頭を下げて、ひかりはイストとシーリーと、ゴブリン退治のためにパーティを組む事となった。
……。
……。
「ゴブリンはこの領の森に巣食っている。数はまあ、1000は超えてるだろうなあ」
「千……!?」
道すがら、ゴブリンの事についてイストから教えてもらう。
「もちろんとても倒しきれないが、なるべく数を減らしていくのが俺たちの仕事だ」
「100倒せば1000シルバーになるよ!」
「いきなり100匹も倒せるか。まずは慣らしで、キリよく三等分できるように30匹を目指すぞ」
1000匹いる中で一日30匹を間引くとなると、相当気の遠い作業になるなとひかりは思った。
当然、相手は生き物だ。産んで増えることもあるだろう。そう考えると、イタチごっこなのかもしれない。
「それで、わたしは何をすればいいでしょうか?」
「ヒカリは神聖魔法スキル10を持ってるから《ヒール》《キュアポイズン》《プロテクション》なんかが使えるはずだ」
イストが指を立てながら説明する。
「《ヒール》はケガを治す魔法。《キュアポイズン》は毒を治す魔法。《プロテクション》は、簡易的な結界を張る魔法だ。どのぐらいの効果が出るかは、術者のスキルと魔力で決まる」
「基本ついてくるだけついてきてもらって、あたしらがケガしたら《ヒール》してもらうのがいいかな〜」
「そうだな、ケガや毒を受けたら、可能な限り治してくれ」
「はい!」
役割を教わって、意気込みを示すひかり。
ほどなくして、ゴブリンの巣食う森へと辿り着いた。
「シーリーが前衛、俺とヒカリが後衛だな。俺は魔法で援護、ヒカリはさっき言ったとおりだ」
「はい」
「今日もゴブリン狩るぞー!」
元気のいいシーリーを先頭に、一行は森へと入って行った。
入ってすぐ、イストが口を開く。
「あぁ、早速前方にゴブリンだ。数は3か4」
「了解!」
「え? わかるんですか?」
森は草木に覆われ、見通しは悪い。
しかしイストは杖を掲げて、ひかりに答えた。
「《サーチ》って魔法があるんだ。広範囲の生き物を探知できる。おおまかにだがな」
「なるほど……」
ずんずんと進んでいくシーリーが、すぐにゴブリンと出くわした。言ったとおり、ゴブリンが4匹ほど集まっている。
「でりゃー!!」
「ギャギャ!?」
突然の遭遇に驚いているゴブリンに対し、事前に知らされていたシーリーは有利に戦いを仕掛ける。
ほぼ一方的な槍捌きでゴブリンを4匹仕留め、あっという間に決着がついた。
「よーし! まず4匹!」
「す、すごい……」
ひかりは感嘆の声をあげる。
ゴブリンの数匹ぐらいは、この二人には楽勝らしい。
「さ、じゃあ左耳を剥ぎ取るぞ」
「左耳?」
「ああ、ゴブリンは討伐したら、左耳を切り取るんだ。左耳を10個納品で100シルバーだな」
手際よくナイフでゴブリンの左耳を切り取る二人に、ひかりは首を傾げた。
「左耳に何かあるんですか?」
「んや、価値はない。ただの討伐証明だな。ゴブリンは金になるようなモンスターじゃないんだ。だから報酬も安いわけだが」
「まあ、間引かないとねー」
淡々と流れ作業で耳を取り、立ち上がり、森の奥を見る。
「ま、先は長い。気楽にやろうや」
何気ないように、イストはそう言った。




