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20話:セキリュウソウ

 それからセキリュウソウの採取について、ギースから色々と話を聞く運びとなった。


「セキリュウソウの採取だが、ギルドを通した方がいい。それに、単独で8級冒険者一人を毒沼に行かせるほど、俺も鬼ではない」

「と、言いますと……」

「そうだな、俺が3級冒険者だから、そのパーティメンバーとして同行する、という形が最も楽だ」


 ひかりからすれば、なんともよくわからない提案だった。

 意図は理解できるが、二人で行っては隠密999を生かしきれないからだ。


「わたし一人だと、やっぱり危険ですか?」

「毒を無効にできて隠密スキルが999もあるなら、まず問題はないと思うが、問題は地形だ」


 ギースはそう言って、持っていた鞄から地図を取り出した。


「毒沼周辺は山岳と合わさって非常に入り組んでいる。何も知らずに向かえば、確実に迷って野垂れ死にだ」

(聞いておいてよかった!)


 毒よりもモンスターよりも、迷子で死にかねないと。

 間違っても初見で一人で行くべきではないと分かった。


「で、パーティを組む話だが」


 ギースが顔を上げる。

 詳しい打ち合わせがあるのかと、ひかりも顔を上げた。


「まず現状俺とお前ではパーティが組めない」

「あれ?」

「階級が4以内の冒険者でないと、パーティとしての登録が不可能だからだ。俺は3級、そっちが8のタグを付けてるから8級だな。だから、いま5階級分の差がある」

「な、なるほど……」


 ひかりからすれば、パーティ登録というものがよくわからない。

 一応質問を挟んだ。


「パーティ登録ってのをせずに仕事をすると、まずいんですか……?」

「9割方問題はないと思う。だが全て自己責任でやる事になるから、何がトラブルが起きた時にギルドは何も対応してくれなくはなるがな。例えば口約束だけで、俺がタダでセキリュウソウを取り上げるつもりかもしれん」

「流石にそんなことは……」

「ないとは言い切れん。冒険者ギルドを通していない約束は、基本信用するな」


 そう言われると、ギルドを通す意義は理解できた。

 ギースが悪者ではない事は分かるのだが、そういった手続きを踏む事で、トラブルを防ぐことができるのだともまた理解できた。


「あと、7級に上がる事にも意義がある。8級から7級に上がるには、討伐依頼などの実戦経験がほぼ必須事項だ。ゴブリンでも倒せば、すぐに7級には上がれるだろう」

「それは……その……」


 ひかりには、まだ覚悟がない。

 ゴブリン一匹を殺すだけの覚悟が。


「多分、お前の戦闘経験は非常に浅い……と見ている。”黒髪狩り“に襲われた時、身構えていなかったからな。戦いとは縁遠い生活をしていたのだろうと想像できるが」

「それは……その通りです」


 戦闘スキルがない。それ以前に、戦った経験が無い。

 そしてまだ、生き物を殺す覚悟もできていないのだから、どうしようもなかった。


「ふむ、ゴブリンを殺すのに抵抗があるのか?」

「え……心が読めるんですか?」

「顔色からしてそう読み取れる」


 どうやら、顔に出ていたらしい。

 ギースの指摘に、ひかりは複雑そうな顔をした。


「肉とか魚とか……食べられるんですけど、生きてる状態のを、こう、殺す事に、抵抗感が……」

「なるほど」


 言っていて、ひかりは辛くなってきていた。

 相手は3級冒険者だ。モンスターを殺害するなど、お手のものだろう。

 そんな人を相手にして、ゴブリン一匹を相手にできないとは。


「いくつか提案がある」


 しかしギースは笑うも呆れもせずに、そう言った。


「まず大前提として、最低限の護身術は学んでおいた方がいい。それこそゴブリンを追い払えるぐらいにはな。冒険者としてやっていくなら、最低限の荒事には対処できるべきだ」

「は、はい……」


 それは、ひかりも分かっている。

 隠密スキルが999あるが、荒事にはだんぜん弱い。

 冒険者として、身を守る術は欲しいと思った。


「それで、だ。いくつか戦闘スタイルがあると思うが、俺の考えを述べる」


 ギースは指を立てながら、話を続けた。


「まず、1つ目。弓や魔法などの遠隔の攻撃手段を身につけ、ゴブリンを狩る。何も刃物やで鈍器を使うだけが戦いではないのだ、生き物を遠隔で討伐するなら、忌避感は薄れる」

「……」


 ひかりは、情景を浮かべる。

 確かにゴブリンの喉元に短剣を突き立てるよりは、ぐっと気持ちが楽かもしれない。

 我ながら、現金なものだと思ってしまった。


「2つ目。ゴーレムマスターと呼ばれる職業がある。これはゴーレムと呼ばれる魔法生物を、遠隔で操って戦わせる職業だ。ゴーレムとスキルさえあれば、直接戦わずともゴブリンを倒せる」

「でもわたし、そんなスキルないですよ?」

「確かに普通はそうだろう。だが、『スキルポイント』というものを貰わなかったか?」


 ギースの指摘に、ひかりはあっと気づいてメニュー画面を開く。


スキルポイント:42


 何のことだろうと思っていたが、よく考えれば、スキルに割り振るものだとわかりそうなものだ。

 色々ありすぎて、頭から抜け落ちていた。


「スキルポイント42ってあります!」

「……と、いう事は、新しいスキルを42まで割り振ることができる、はずだ」


 ギースも、その旨を別の転生者から聞いていたらしい。

 ここにいないイスト曰く、スキルが50もあれば一人前なのだとか。

 だったら、その一歩手前までは、簡単に行き着けるということだった。


「まだ振るなよ、俺の案はまだある」

「は、はい!」


 ついゴーレムとか書かれているスキルを探してしまったが、ギースの提案はまだ続くようだった。


「と言っても、最後だがな。3つ目は、殺す以外の方法でパーティをサポートする。神聖魔法を使う神官や、仲間を強化する付与術師なんかもこれに当たるな」


 ひかりからすれば、それが一番スマートに思えた。

 何も殺さずに済むし、仲間の役にも立てる。

 良いことづくしだ。


「重ねて言っておくが、ゴブリン程度を追い払える手段ぐらいは用意しておけよ。……もし仮に護衛任務で、仲間がやられて自分一人になってしまった時、逃げ出すのだけはするな。重罪になるぞ」

「は、はい」


 やはり考えが少し甘いようだった。

 冒険者たるもの、やはり戦いは避けられないようだ。

 色々と、覚悟を決める必要があった。


「案は以上だ。俺個人の意見としてだが、『スキルポイント』は魔法関連に振るのがおすすめだ」

「魔法……」


 ひかりの世界には、縁のない言葉だった。

 もちろん意味はわかる。小説やゲームのように、火を飛ばしたり傷を癒したりできるのだろう。


「さらに言うなら、精霊魔法か神聖魔法あたりがおすすめだ。何故ならこれは才能ありきだから、努力しても身につかない者は身につかないし、才能があればいきなり高スキルでもおかしくはないからだ」

「それ、怪しまれないんですか?」


 転生者であることを伏せたいひかりは、そう尋ねた。

 しかし、ギースはこう返す。


「そのぐらいでは怪しまれない……。というか、実際いるんだよ、流れ者なのに騎士団を負かすほどの剣の使い手や、突如現れて聖女を上回る神聖魔法を使う女、歴代最強の精霊魔法の使い手なんかがな」

「あ〜……」

「決まって皆、黒髪だ」


 他の転生者たちには、自由にやっている者もいるらしい。

 そう知って、ひかりは苦笑いした。


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