17話:狩りの終わり
(なんだこいつ! 『プレイヤー』でもねぇくせにやたらつええ!)
骸骨の兜の男……ギースのステータスを見て、仮面の男、ヨウジは驚いた。
ステータスならだいたいヨウジより上。
近接戦闘スキルが100超えている人間は、『プレイヤー』以外では初めて見る。
何より、そんな男が急に現れたというか事が驚きだ。
「どうやって嗅ぎつけた!?」
「なに、”黒髪狩り“の獲物になりそうな輩をずっとマークしていただけさ。さっきの少女だな」
ギースは飄々とそう言った。
つまり、網を張られていたらしい。ヨウジは歯軋りした。
しかし、ヨウジの近接戦闘スキルは500越え。
多分だが、普通に戦えば自分が勝つだろうとヨウジは思った。
「返事がないが、まぁ“黒髪狩り”だろうと判断する。大人しく捕まればそれ以上危害は加えないが……」
「うるせぇ! 『プレイヤー』じゃねぇならすっこんでろ! いやそれじゃあ腹の虫が収まらねえ! 切り刻んでやる!!!」
今から《空間歪曲》でひかりを追っても、隠密999は見つけられない。
腹いせに、この邪魔者を殺してしまった方が後が楽だと判断した。
(このステータス、冒険者だとしたら3級以上か……。けど問題ねぇ、装備とギフトにはこっちに分があるはず……)
ヨウジの装備には、マジックアイテムが含まれている。
装備
【アサシンダガー】
このダガーを対象に見られる前に切り付けることができれば、凄まじい切れ味を発揮する(一度見られている相手には1時間はこの効果はない)
【太陽の短剣】
この短剣を抜いている間、生命力が徐々に回復する
【アサシンクロース】
このクロースを着ている間、持ち主は音を立てず、隠密スキルが+50される
ギフト
《形跡隠し》
あなたの戦闘や足跡などの痕跡が残らなくなる
《毒生成》
あなたは手から毒液を抽出できる、毒の種類は一度受けたものでなくては出せない
《超見切り》
あなたはどんな攻撃でも、事前にどこに飛んでくるか察知ができる
《食いしばり》
あなたは致命傷を受けた時、生命力1を残して耐える
相手も何かマジックアイテムを持っていそうだったが、ギフトはない。フィートは、明らかにアンデッド殺しのものばかり。
(アサシンダガーはもう見られてるから無意味。太陽の短剣で時間かけて倒すのは、《遮断結界》の残り時間を考えると現実的じゃねぇ、なら!)
ヨウジは、太陽の短剣を抜き、《毒生成》で指から毒を垂らした。
(毒で殺す!!)
刃に毒を行き渡らせ、ヨウジはギースに斬りかかった。
近接戦闘551の一撃だ。
ギースの骸骨兜の下、喉を正確に狙う。
(獲った!)
当たれば喉を裂かれて死、掠っても毒で死、ほぼ一瞬で、勝負は決まるはずだった。
だが。
「おっと」
「なっ!」
鋭い一撃は、あっさりと見切られるどころか、逆に腕を掴まれてしまった。
(どういう事だ!? スキル差400近くあるんだぞ!?)
「やはり、一度大人しくさせるしかないな」
骸骨兜の男、ギースはそう言って、逆手で短剣を抜いた。
真っ黒な刃を持つ短剣は禍々しく、何か嫌な予感を想起させる。
「離せ、この!」
無理やり身を捩って、腕を振り解くヨウジ。
腕は自由になったが、すぐに直感が、この場にいてはまずいと知らせてきた。
「うぉっ!?」
一瞬でギースの短剣が振られ、腕に掠ってしまった。
《超見切り》がなければ、もっと深手を負っていただろう。
何か、おかしい。ステータスやスキルの数値以上に、強いのだ。
何か、タネがある。そう考えて、すぐに思い至る。
(何か上級のマジックアイテム、『神器』を持ってるに違いねえ!)
そう考えると合点がいく。
ステータスやスキルを補って余りあるほどの高スペックのマジックアイテム、すなわち『神器』。
伝説級の装備を付けているのだと考えた。
(だとすると、分が悪い!)
すぐに力の差を察したヨウジは、《空間歪曲》で部屋から離脱しようと、したが。
「げほっ!?」
すぐに飛んできた蹴りが腹に当たり、壁まで吹っ飛ばされた。
《空間歪曲》は、一瞬のためが必要だ。
相手はそれを知覚し、すぐに妨害を仕掛けてきた。
「逃さんぞ。大人しく縄につけ」
「ぐっ、てめぇ! 『神器』持ちだからって調子乗りやがって!! スキルならこっちが上回ってるんだよ!!」
自分のことをすっかり棚上げして、激昂するヨウジ。
だがギースは、何か納得したように答えた。
「ああ、《鑑定》のギフトかアイテムを持っているのか?」
今になってそんな事を言い出すギース。
その立ち振る舞いには、まだまだ余裕が見て取れた。
「一度、自分を《鑑定》してみるとい。それですぐに分かるさ」
「はぁ!?」
そうキレたが、ギースはそれ以上攻撃してこない。ヨウジは、隙をみて、自分自身を鑑定した。
ヨウジ 『プレイヤー』668pt
ステータス:
生命100
筋力79(-7)
器用65(-6)
敏捷69(-6)
体力46(-4)
感覚44(-4)
知識31(-3)
精神46(-4)
魔力12(-1)
スキル:近接戦闘551(-225)、短剣256(-128)、隠密155(-55)、探知31(-15)、鍵開け52(-26)、窃盗52(-26)
ギフト:《鑑定》、《発情》、《遮断結界》、《形跡隠し》、《毒生成》、《空間歪曲》、《超見切り》、《食いしばり》
『衰弱の呪い』を受けています
『スキル封じの呪い』を受けています
『不治の呪い』を受けています
「なんじゃこりゃー!!!」
ステータスはまだしも、スキルは大きく下がっていた。
呪いが3つ付いているのが、その正体のようだ。
「俺は呪術師。少しの時間さえあれば、お前を弱体化させるなど容易い」
ギースは淡々とそう言った。
「ば、馬鹿な……! いつの間に……!」
相手は呪術スキルが300以上もあるが、術を使う素振りは見えなかった。
というか、それでもおかしなところはある。
「しかしなんでだ! 近接戦闘はまだ200はあるぞ! 100ぽっちのお前に何故押される!?」
ヨウジはそこが腑に落ちない。
まだ、自分の方がスキルでは上回っているはずだった。
あとは神器の性能としか思えない。
しかし、ギースは思わぬ回答をした。
「場数が違うのだよ。お前は転生者、いきなり高いスキルを持って生まれた。しかし俺の方が、いくつも死戦を潜っている。だから、スキルに差があっても、攻撃が見切りやすい」
「嘘だろ……」
そんな事を、ヨウジは知らなかった。
スキルの高い方と低い方では、高い方が勝つのだろうと。そう考えていた。
しかし、スキルの差が100以上あっても、実戦経験の差でこうも立場がひっくり返るのだと知って、唖然とした。
(まぁ半分本当、半分嘘なんだが、説明してやる義理はないな)
ギースはそう思っていた。
呪術師は騙し合い化かし合いが得意だ。
まだまだタネはたくさんあるのだが、全部を説明する必要はなかった。
「さあ、"黒髪狩り”よ、今日でお前の狩りは終わりだ」
「く、くそがああああ!!!」
ギースの黒い短剣が、ヨウジの手首を切り裂く。
ちょうど《遮断結界》が切れ、"黒髪狩り“の叫びが宿中に響き渡った。




