13話:8級
「ヒカリちゃん、冒険者の8級に上がれるわよ」
「え、もうですか?」
数日後。
三度目のヒールベリー納品依頼をこなしてすぐ、ひかりは冒険者ギルドの受付嬢にそう声をかけられた。
「持ってきたヒールベリーの量が量だからね、もう8級に上げてもいいって、ギルド審査から許可が降りたのよー」
「おお……ありがとうございます」
思ってた以上に、8級に上がるのは簡単であったようだ。
「これからは8級の依頼……モンスター退治も受けられるようになるわね。薬草採取なら今までと変わらない依頼しか受けられないけど……」
「なるほど……」
8級からは、ゴブリンを始めとした、下級モンスターの討伐依頼が受けられるらしい。
逆に、薬草採取だけしか受けないのであれば、特に受けられる依頼は増えないようだ。
ヒールベリー以外の薬草も仕事で受けられないかと思っていたが、無理なようだった。
と、いうわけで、8級になるメリットはそんなに大きくないようだ。
「7級になれば、安全な護衛依頼とか受けられるんだけどね。て、ヒカリちゃんにはまだ早いかしら」
「あはは、そうですね……」
ひかりは笑って誤魔化す。
ゴブリンも倒せない冒険者に、護衛が務まるわけがない。
ここを克服しない限りは、7級以上に上がるのは難しそうだった。
(でもまぁ、今はこれでいいかも……)
戦わずとも、なんとか生活できるぐらいには稼げている。
隠密999と《幸運の申し子》のおかげだ。
ひかりは、目立ちたくは無い。
今はこれで、十分だった。
(あ、あと、神殿に行って、プロメス様を信仰しようっと)
ひかりは、一人で神殿へと向かうことにした。
……。
……。
サウスブランチの神殿は、街の南側にある。
すでに一度、スキル確認のために神殿にやってきていたので、道に迷わずにやってこれた。
「プロメス様の信仰ってこの場所でいいのかな……」
ひかりは神殿の中に入る。
初めてきた時には気づかなかったが、周囲には大きな六つの神の像が並べられていた。
それぞれ、六大神を表しているようだった。
(どれがどの神様だろう……)
女神像が3体、男神像が3体。
これが多分六大神だとして、どの像がどの神なのかは、ひかりには分からなかった。
「あら、この前の子、どうかなさいました?」
「!?」
神殿に入ってきたひかりに、中にいたシスターがそう話しかけてきた。
ひかりは隠密をオフにしている。
しかし影の薄いはずのひかりを見つけて話しかけてきたことに、ひかりは驚いた。
「あら、びっくりさせちゃったかしら……」
「いっ、いえっ! ちょっと神様の像を見てただけで……!」
ひかりは焦りながらそう返した。
シスターは、ひかりににこやかに話しかける。
「六大神様にご興味がおありですか? それともすでに信仰しておられる神様が?」
「はい、ええと、プロメス様を信仰しようかなと考えてます。像を見ただけじゃ、どの神様がプロメス様なのか分からないですけど……」
「あら嬉しい。私もプロメス様を信仰しているんですよ〜。せっかくなので、ご紹介しますね」
そう言って、シスターは神像の紹介を始める。
「まずあちらの煌びやかな服を着た女神像がプロメス様です。旅と自由の女神様ですよ」
「あちらが、なるほど……」
緩いウェーブのロングヘアの、豪華な服を着た女神像。それがプロメスのようだ。
「次にあちらの身なりのいい男性像がシャサール様、狩猟と工芸の神様です」
柔和な笑みを浮かべ、動物と共に並んでいる貴族のような男性が、シャサールらしい。
「次に鎧を着て槍を持ったあちらの神様が、戦の神アルム様です」
説明の通り、全身鎧に槍を持った、勇ましい像が、アルムとのことだ。
「そしてあちらの、翼の生えた商人風の男性神が、富と商売の神、マルシャン様です」
示された方には、翼の生えた紳士の像があった。これがマルシャンらしい。
「そしてあちらの、鎌を持った女神像が、癒しと対魔の女神、リチュエル様です」
「鎌を持ってるんですね」
プロメスより質素なドレスのような衣服を着て、大きな鎌を持っているのが、リチュエルらしい。
「最後があちらの、少し変わった衣服を着た女神像が、知識と魔術の女神ヴィヴィ様です」
ひかりから見た感じ、いかにもな民族衣装を着て、顔をヴェールで隠した女神像が、ヴィヴィらしい。
「そんなわけで六大神の紹介でした。と、プロメス様を信仰されるんでしたっけ?」
「あ、はい」
思い出したように話すシスターに、ひかりは頷いて答えた。
六大神の紹介をしてもらったら、後は目的であった、プロメスを信仰しにいくだけだ。
「わかりました、ではこちらへどうぞ。プロメス様の加護を授けますので」
シスターに連れられて、ひかりは神殿の奥へと案内された。




