12話:赤い草
「ゴブリンが赤い草を?」
「はい」
冒険者ギルドに帰ってきて、ヒールベリーを換金した翌日。
ギルド内にいたイストとシーリーに声をかけて、そう話をした。
ゴブリンがわざわざ赤い草を持って帰って行った件だ。
「ギザギザの赤い葉っぱだったか?」
「えっと、遠くて葉っぱの形までは……」
目視できるぐらいの距離だったため、草の詳しい情報は分からなかった。
「でもゴブリンに会って、無事でよかったねえ! ヒカリちゃん戦えないでしょ?」
「そうですね、隠密があってよかったです」
シーリーとそんなやり取りをした。
しかしイストは、難しい顔をしていた。
「赤いギザギザ葉っぱの草なら、ヴァイプ草っていう毒草なんだよな」
「そうなんですか?」
「へー、薬草と間違えたのかな?」
ひかりとシーリーはそう言ったが、イストは深刻な顔をして話を続けた。
「たまたまならいいんだが、分かってて毒草を持って行ったとなると……毒を使うかもしれん」
ゴブリンは弱いモンスターだが、毒を使ってくるとなるとまた話が変わってくる。
ひかりも事態を深刻に受け止めた。
「たしかに、毒の武器を使われたら、怖いですね……」
「それもあるが、もっと厄介なことがある」
イストは頭をガシガシとかきながら、話を続けた。
「普通のゴブリンは、毒草なんて知らん、アホだからな。しかし、今回は毒草を持って行った。つまり……頭のいいゴブリンが指揮を取っていることになる」
「ゴブリンシャーマンとかだね」
イストとシーリーがそう話している。
ひかりにも、なんとなくその脅威が察せられた。
頭の悪いゴブリンを、束ねて指揮する、頭のいいゴブリンがいる。
ゴブリンは何百匹もいるらしい。だとしたら、かなり危ない状況なのかもしれないと。
「いちばん最悪なのが、ゴブリンロードが誕生した場合だな。普通のゴブリンの10倍強くて、がっつり指揮もできるタイプのゴブリンの王様だ。今のゴブリン大量発生と合わせたら、もう手に負えないぞ」
「それこそ、騎士団に頼るしかないよね」
規模がそこまでになると、もう冒険者の手には負えないらしい。
ひかりは改めて、脅威を思い知った。
「でもまだ憶測の域を出ないんだよなあ。はっきりとロードがいるって分かれば、すぐにでも騎士団呼んで貰えるんだが」
「まだ、ゴブリンが毒草摘んでいっただけだもんね」
「とりあえずは、それをギルドに報告だな」
ひかりの思ってた以上に、ひかりの情報は重要だったらしい。
話が大きくなって、少し冷や汗をかいた。
「情報ありがとうな、俺らもゴブリン討伐行く時は、アンチドート多めに持っていくわ」
「ありがとねー」
「い、いえいえ」
大したことない情報だと思っていたが、感謝されて、ひかりは恐縮する。
彼らには色々と、情報を共有しておいた方がいいのかもしれない。
「そういえば、あの骸骨の兜の人にまた会いました」
「え! 何もされなかった?」
「はい、ただ、“黒髪狩り”を知らないか、と。そんな質問をされました」
そう話すと、二人は首を傾げた。
「"黒髪狩り“?知らないな……」
「ヒカリちゃん黒髪だよね、髪を狩られるの?」
「それなんですが……」
ひかりは二人に、骸骨の兜の男性から聞いた話を説明した。
黒髪の人間ばかりが6人殺されている、と。気をつけるように言われたことも話した。もちろん、転生者と呼ばれたことは黙っていた。
「ヒカリちゃん危ないじゃん! どうしよ!」
「その“黒髪狩り”がこの領に来ている確証はないが、ぶっちゃけ犯罪歴のある輩も入ってくるからなぁ」
「え」
犯罪者も受け入れているのかと、ひかりは驚いた。
「いや、流石にちゃんと罰は受けてるぞ。けどこの領、割と田舎だから。なんかしら都会にいられなくなった輩が集まってくるんよな」
「9級冒険者には、ゴロツキも多いからね。ヒカリちゃんも注意した方がいいよ」
「は、はい」
思わぬ話を聞いてしまった。
まだ平穏に過ごせていたが、少し危険な場所のようだった。
気をつけて過ごさなければならないと、ヒカリは気を引き締めた。




