10話:骸骨の兜の男
(信仰かぁ、どうしよっかな〜)
プロメス、シャサール、アルム、マルシャン、リチュエル、ヴィヴィ。
ひかりはすっかり、六大神のことで頭がいっぱいになっていた。
とりあえずは2回目の薬草採取の依頼を受け、ヒールベリーを探しに、南の丘へと向かっていた。
(おすすめされたし、プロメス様かな? 女神様っぽいし、信仰してみたい……)
ぼんやり考え事をしながら、以前通った道を進んでいく。
完全に気を抜いていた。
そこに、声がかかる。
「転生者だな?」
「っ!!!??」
飛び跳ねた。
心臓が暴れる。
後ろから男性に声をかけられて、ひかりは慌てて振り返った。
見れば後方に、恐れていた骸骨の兜の男性が立っていた。
(しまった、隠密……オンにしてない!)
大失態だった。
六大神のことに夢中で、隠密スキルをオフにしたまま街を出ていた。
今からオンにしても、すでに視認されてしまっている。
ここは見晴らしのいい平原、身を隠す場所もない。
骸骨の兜の男に、二人きりになってしまった。
これで『プレイヤー』だったら、万事休すだ。
ひかりが胸を抑えながら身構えていると、男は手で制するようにして話し始めた。
「こちらに敵意はない。ただ少し、聞いておきたいことがある」
「……な、ん、でしょう」
どうやら、すぐには襲ってこないらしい。
ひかりが冷や汗をかきながら尋ねると、男はこう切り出した。
「"黒髪狩り“について知っているか?」
「…………え?」
黒髪狩り。
ひかりは黒髪だが、そんな言葉には聞き覚えがなかった。
むしろこっちが知りたいと思った。
「し、知らないでひゅ……」
「そうか」
噛みながら、ひかりはそう言った。
男も短くそう答える。
そして知らなかった内容を、ご丁寧にも語り始めた。
「最近この国で、謎めいた連続殺人事件が起きている。手口も被害者もバラバラで、容疑者すら見つからず、6人が殺されている」
内容を聞いても、ひかりにはピンとこなかった。
まずこの国について、よく知らない。
連続殺人事件があったとして、そんなにおかしい事ではないだろうと思った。
しかし、次の一言は、聞き捨てならなかった。
「被害者6人はきまって"黒髪”……。黒い髪の人間ばかりが殺されている。だからついた通り名が"黒髪狩り“だ」
「!」
黒髪。つまり、ひかりもその対象者だということになる。
そして、もし転生者が日本人ばかりなのだとしたら?
黒髪の人間を片っ端から殺害することで、ポイントを稼ぐ『プレイヤー』がいたとしたら?
ひかりはぞっとした。
「まぁ、気をつけろという事だ。……驚かせてすまなかったな、じゃあな」
「あ……」
骸骨の兜の男は、そう言って背を向け、街の方に歩いて行った。
声をかけるべきか悩んだが、結局かけられなかった。
そのまま男性が小さくなるまで離れていくのを見送った。
「なんだったんだろ……」
結局命は狙われなかった事で安堵はしたが、謎が残った。
何が目的だったのか。
警告しただけだったのか。
あとは。
(あ、なんでわたしが転生者だって分かったんだろ……)
そこが一番の疑問だったかもしれない。
聞いておけばよかった。
もうすでに、見えない位置まで遠く離れてしまった。
(同じ転生者なのかな……)
兜を付けていたので分からなかったが、もしかしたら日本人の転生者なのかもしれない。
(また会ったら、聞いた方がいいかな……)
ひかりはそう思って、気を取り直して薬草採取に戻ることにした。




