1話:転生
息抜き不定期更新です
影原ひかりは15歳という若さでその生涯を閉じた。
黒い髪をぱっつんと切った、背の低い女子中学生。
彼女の過去は、父親の虐待と学校でのいじめの繰り返しだった。
10歳までいじめと暴力を振るわれ続け、それからようやく父親の所業が明るみになり、それからは親戚に預けられた。
15歳までは親切な親戚の人たちにより、遅れた学業を取り戻し、閉した心の回復にも当てられた。
しかし15歳の春。
彼女は暴走した大型トラックに轢かれ、命を落とすのだった。
……。
……。
そして現在。
少女、影原ひかりは、真っ白な空間にいた。
「……?」
最後の記憶は、突っ込んでくる大型トラックを見たきり。
気づけば知らない場所にいる。
見渡す限り、白、白、白。天井もなければ、壁もなく、床もあるのかあやふやだ。
ぼんやりと浮かぶように、ひかりは空間に漂っていた。
「目覚めたか、適合者よ」
急に、何者かに声をかけられて、ひかりはびっくりしてそちらの方を向いた。
見れば先ほどまではいなかったはずの、1人の男がいた。
少し変わった礼服に身を包み、ギョロリとした蛇のような目で、こちらを見ている。
「おめでとう、君は選ばれたのだ。君の魂は死して天に昇ることはなく、我が用意した特別な力を授け、異世界に転生される」
「え、わたし、死……?」
「そうとも、君はトラックに轢かれ、完膚なきまでに死亡した。そんな君に、ビッグチャンスだ」
男が両手を広げ、そう言うと、ひかりの周りに、半透明の四角のようなものが無数に出てきた。
何やらたくさんの文字が書かれている。
「君に、999ポイントの『スキル』の割り振りと、2つの『ギフト』を授けよう。これを持って、君は異世界に転生できるのだ」
「あ、あの、異世界って……?」
ひかりはよくわからないまま男の話に質問をする。男は笑って答えた。
「君たちの世界言う、ファンタジーとでも呼べばいいのかな? 剣と魔法が支配する、少しばかり古い時代の世界だよ。そこに君を転生させる」
男の物言いに、ひかりは唖然とした。
異世界? ファンタジー?
ゲームや小説でしか馴染みのない言葉だ。
そこに自分が転生するとなると、彼女は青ざめた。
「わたし、とてもそんな所で生きていけません」
「だから、999のスキルと、2つのギフトをやると言っただろう。破格だぞ? 少なくとも、やりようによっては現地の戦士や魔法使いをも凌駕できるはずさ」
「ええと」
そんなことを言われても、ひかりはピンとこなかった。
ひたすらに虐げられていた過去の記憶。彼女は、ファンタジーの世界で暴れ回ろうとか、微塵も考えたことはなかった。
「さあ、ウィンドウからスキルの割り振りと、ギフト2つを決めたまえ。時間は無限にあるから、じっくりと決めていいぞ。……もし決めたくないのなら、このまま潔く死にたまえ」
謎の男は、そう言ったきり、黙ってしまった。
死にたくはない。
ひかりは何をすればいいのかわからず、とりあえずウィンドウというのを見てみる。
様々な内容の書かれた『スキル』と『ギフト』というものが並んでいる。
何を選べばいいのかわからないが、ひかりはたっぷり悩んで、それから少しずつ選んだ。
「これにします」
「随分とかかったな、どれどれ……」
謎の男がそう言うと、ひかりの周りにあったウィンドウが消え、男の周りにウィンドウが現れた。
ひかりの入力したウィンドウと、そっくりそのままのようだ。
そして男は、その内容を見て。
「本当にこれでいいのか?」
そう尋ねてきた。
・スキル:隠密1→999、薬学0→1、他初期値
・ギフト:《幸運の申し子》、《完全免疫》
以上が、ひかりの設定したスキル振りと、選んだギフトだった。
ひかりは、もう一度よく考えてから、頷いた。
「はい」
「一応、このスキル振りにした理由を聞いても?」
男が聞くと、ひかりはこう答えた。
「わたし、目立ちたくないんです」
「そうか、わかった……クク、まぁこれはこれで、面白くはあるな」
謎の男は笑って、ウィンドウを閉じる。
「では話は終わりだ。異世界に赴き、好きに生きるが良い。……もっとも、1つ『ゲーム』に参加してもらうがね」
「?」
ゲームとやらの意味の分からないまま、ひかりは首を傾げた。
しかし周りが眩く輝きだし、次第に男の姿は見えなくなってくる。
最後に、男はこう叫んだ。
「さあ行け、ヒカリ=カゲハラよ! わたしを楽しませてみせよ!」
その言葉を最後に、ひかりの意識は途絶えた。
……。
……。
程なくして、ひかりは目を覚ます。
気がつけば、先ほどの白い空間ではなく、別の場所にいた。
そこは、ちょうど森と草原の狭間にある、緑豊かな自然の中だ。
ひかりが呆然としていると、どこからともなく声が聞こえてきた。
『異世界への転生、おめでとうございます! メニュー画面を開くよう念じれば、メニューウィンドウを開くことができます!』
「え、だれ? メニュー?」
ひかりがそう返すと、ポンと、先ほど見たばかりのウィンドウが出てきた。
それと同時に、先ほどの声が再び聞こえてくる。
『異世界転生者のメニューを確認しました。これよりゲームのルールの開示を行います』
「ゲーム……?」
戸惑うひかりに、何か新しいウィンドウのようなものが現れた。
それは赤字で次のように書かれていた。
1.転生者を『プレイヤー』と呼称する
2.『プレイヤー』は「ゴブリン以上の"魂の外殻"を持つ生物」を殺害するたびに1ポイントを獲得できる
3.他の『プレイヤー』を殺害すると100ポイントを獲得できる
4.『プレイヤー』は100ポイント獲得ごとに、新規に「ギフト」を獲得できる
5.ポイントが10000に達した『プレイヤー』は元の世界に『転生』できる