発見における協力者との関係性
そんなある日の事、ふと考えたことがあった。俺と彼女は何なのだろう?と
友達とも恋人とも違う不思議な関係、一番近い言葉は〈同志〉だろうか?
だけどそんな事はどうでもいい、恋人とか友達とかそんな定義付けやカテゴライズに何の意味がある
人はそれぞれ皆違う生き物だ。ならば俺と彼女の関係が上手く言葉で表せなくとも何の不思議も無い
そんな小難しい理屈を頭の中でこねくり回しあえて結論を出さなかったのだが俺は肝心な事を失念していたのだ
それは【人は恋に落ちる生き物である】という事だった。
そんな奇妙な関係が一年以上続いたある日の事、俺達はいつもの様にある〈論文〉について語り合っていた
議題が〈お笑い〉ではない為俺も一歩も引かない熱い会話が続く
そんな時俺達はひょんなことから面白い事を発見する、それは世界で誰も立証した事の無い理論
もしこれが本当に立証できれば世界的、いや歴史的な発見ともいえるだろう
思わぬ発見に俺の胸は激しく高鳴った、目の前にいる彼女も同じ様子である
俺は思わず言葉を詰まらせ息を飲んだ、二人の間に奇妙な沈黙が訪れ否が応でも緊張感だけが高まっていく
そしてその静寂を破る様に彼女が口を開いた。
「ねえ、この理論が立証できれば、人は永遠の命を得る事も可能じゃないの?」
その日以来俺達は大学の講義をほったらかして毎日何時間も討論を重ねた
俺達は時の経つのも忘れ夢中で話し合いようやく論文としてまとめた。
「まだ不確定要素も多いけど、これ以上は専門的な機関で進めるしかないわね
大学院に進んでもできるのかしら?」
俺達は今年で大学を卒業し来年は大学院に進むことが決まっていた。
「そうだな、本当に立証しようとするのであれば父さんと母さんの居る研究所に頼むのが一番いいと思うけど……どうする?」
俺の素朴な問いかけに彼女は珍しく顔を赤らめ視線を逸らした。
「貴方のご両親って……沢渡博士夫妻よね?」
「ああそうだけど、前から知っているだろそんな事」
「それはそうだけど、物理学者をめざす人間にとって沢渡夫妻といったら
天上人みたいな存在よ、いきなり私なんかが押しかけて失礼じゃないかしら?」
「何だよ、らしくないな。俺の父さんと母さんは至って普通の人間だぜ
多分話したら拍子抜けするぐらい何処にでもいるおじさんとおばさんだよ。それに君の優秀さは俺が保証する、大丈夫だよ」
俺がそう言うと彼女は更に話しにくそうに視線を逸らした。
「でも、私の事をご両親にどう説明するつもり?私は貴方の何?友達?相棒?それとも……恋人?」
顔を赤らめながら恥ずかしそうに言葉を発する彼女の姿を見て、今まで味わった事の無い感情が俺の心を支配する
そして胸の奥から何か熱いモノが込み上げてきた。
「君の事はそんな言葉では言い合わらせないと思っているけど、強いて言いうならその全てといってもいいかな」
耳まで真っ赤にして恥ずかしそうにしている彼女は堪らなく可愛かった
というより彼女のこんな姿を今までを見た事が無かった。
俺は彼女を抱きしめたいという激しい衝動に必死で抗い、気持ちを抑えるので必死だった。
「じゃあ、恋人って事でいいの?」
「ああ、もちろんだよ」
俺の言葉を聞き一瞬喜びの表情を見せた彼女だったが、突然視線を逸らすように顔を横に背け小声で呟いた。
「だったら、ちゃんと言ってよ……」
「えっ?言うって何をだい?」
「恋人になる為には言うことがあるじゃない、恋人になる為の儀式〈告白〉よ」
「そんなの今更必要なのかい?君らしくない発言だね」
「これでも私だって女の子なんだよ、ちゃんと言葉にして欲しいと思うのよ……」
彼女と知り合って結構な月日が経つがお互いこんなギクシャクした会話は初めてである
だがそう言われた以上引き下がることは出来ないのであろう。
そう感じた時、俺は生まれて初めて自分が男であるという事を自覚した。
「わかった、じゃあ〈告白〉するよ……俺と結婚してくれ」
「はあ?」
その時の彼女の素っ頓狂な声は生涯忘れる事が無いだろう、先程までの恥ずかしそうな態度とは一変し
大きく目を見開きポカンと口を開けたまま硬直してしまっていた。
「な、な、な、何でプロポーズなの⁉」
「いや君が〈告白〉しろって……」
「いやいやいや、だって順番が違うじゃない、今は恋人になる為の〈告白〉よ
普通は
(俺と付き合ってください)じゃないの?大体それじゃあ恋人をすっ飛ばして婚約者になっちゃうじゃないのよ⁉」
「嫌なのかい?」
「いいとか嫌とかじゃなくて、その何と言うか……」
「俺は生涯のパートナーとして考えた場合、君以外の女性は考えられない
だからこそ〈告白〉したのだけれど、嫌だったかい?」
「別に、嫌じゃないけど……」
「じゃあいいのかい?」
「……うん」
「じゃあ、あらためて言うよ、俺と結婚してください」
彼女は俺の顔を見つめると顔をくしゃくしゃにしながらこぼれんばかりの笑顔を俺に見せ静かに返事をしてくれた。
「はい」
俺は込み上げてくる衝動を堪え切れず彼女の体を抱きしめ唇を重ねた
彼女の暖かい体温が肌を通して伝わってくる、何時間でもこうしていたいと思える不思議な感覚。
こうして俺達は恋人という関係をすっ飛ばし婚約者となった。
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