プロローグ〜復讐の女神たち〜
ギリシア神話の美の女神アプロディーテーは、海の泡から生まれたという伝説がある。
大地母神ガイアは、夫のウーラノスが、(一つ目の巨人や百本の手を持つ巨人として生まれた)我が子を醜いと忌み嫌い、彼らを冥界に閉じ込めたことを嘆き悲しんだ。
夫婦の末の子であるクロノスは、母の意を汲み、寝室に忍び込み、彼女の作った大鎌で父の男性器を切り取って、海に投げ入れたとか――――――(うぅ……。グロい…………)。
その投げ入れられたモノにまとわりついた泡から生まれたのが、ヴィーナスの別名でも知られる美を司る女神アプロディーテーだという。
数多くの絵画や彫刻の題材にもなっているので、この逸話は、日本でも比較的よく知られているのではないだろうか?
ただ、この時のエピソードで生まれたのは、美の化身だけではなかった――――――。
クロノスが、父の身体の一部を切り落とした時、その傷口から、一緒にいた母の身体に血が滴り落ちた。
そこからは、エリーニュニスと呼ばれる複数の女神が生まれたという。
この壮絶な場面から生まれた女神たちは、こう呼ばれるようになった――――――。
『復讐の女神』
その姿は、頭に蛇の冠をいただき、背中にはコウモリの羽をはばたかせ、手に持った松明をかかげて罪人を追いつめ、捕まえた罪人を覗き込むその目からは、血が滴り落ちるという恐ろしい姿をした女神として描かれている。
ギリシャ神話の中に登場する人物の中でも、後ろ暗い過去や罪の意識に苦しむ人間たちは、こうした復讐の女神エリーニュス(単数形だとこう呼称される)から厳しく追い立てられることによって、自らの心を苛まれて自滅への道を進んでいくことになる。
これから語られるのは、ボクたちが目撃することになる、そんな彼らの復讐の物語だ――――――。